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君は梅雨に咲く  作者: たれねこ
第1章 君と出会った最初の梅雨

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言葉の裏にあるもの

「応援してますし、協力もします」


 いつもとは違う装いで颯太とご飯に行こうとしていた小和に、行哉はそう口にした。


「協力?」

「はい。楠見さんには申し訳ないのですが、颯太は俺もご飯に連れていく気満々です。事情を知らない段階で颯太にこのあとヒマだって言ってしまったので、今から断るのは難しいと思うんですよね」


 小和は腕を組んで、怪訝けげんそうな表情で行哉の話を聞いていた。


「それで?」

「なので、ご飯には付いていきます。そのほうが颯太も不審がらないし、雰囲気も悪くならないと思うんです。それに楠見さんも二人きりだと意識しすぎて、会話がぎこちなくなるみたいなことにもなりかねないでしょう?」

「それもそうね」

「で、ご飯を食べ終えたら、二人きりになれるようにうまくフェードアウトしますので、がんばってください」


 行哉はからかう素振りを一片も見せず、淡々と自分がいなくなるまでの道筋を組み立てていく。


「分かったわ。それにしても、がんばれって簡単に言われてもねえ」

「そもそも俺がいなければ、がんばるつもりだったでしょう?」

「そうだけど、中原くんがいうように緊張とかでぎこちなくなって、がんばる以前だったかも。肩の力抜けたから感謝してるわ」

「それはよかったです。きっと今の楠見さんなら、なんとかなりますよ。むしろ、なんとかしちゃってください」


 小和の緊張をほどき、背中を押すために行哉はあえてからかうように口にして、笑みを見せた。


「なっ……ちょっと、中原くん!? 変なプレッシャーかけないでよね」


 小和は一瞬だけ戸惑うような表情をしたが、すぐにいつもの小和の穏やかな表情に戻った。

 そのまま顔を見合わせ、話していることのバカバカしさに気付き、二人は小さく笑い合った。


「それじゃあ、そろそろ戻りましょうか。颯太がこっちを気にしてますし」

「そうね」


 二人が颯太の待っているところに戻ってくると、颯太は行哉と小和の顔を交互にまじまじと見つめた。


「待たせてごめんね、颯太くん」

「別にいいんですけど、二人で何話してたんですか?」

「まあ、色々と。ねえ、中原くん」


 小和が話を誤魔化すために、行哉に無理に話を振った。

 颯太は不審がった目を向けており、小和は無言で助けろというオーラを発しているのが行哉には手に取るように分かった。


「楠見さんに、本当にたまたまここにいたのか事情聴取されたんだよ。あとは、楠見さんが今日着ている服が知り合いに似合いそうだから、どこで買ったのか聞いてたんだ。そういう話に巻き込まれたかったか?」


 行哉の言葉に、時が止まったかのように颯太も小和も言葉を発することもなく固まっていた。

 颯太は、自分が付いていけない話題をしていたとなると、それ以上は踏み込めない。

 小和は、話題に出されたことで颯太が着ている服に目を向けてくるので、嬉しさと恥ずかしさの間でリアクションに困っていた。

 行哉だけが、いまこの場で自由だった。


「それでお二人さん。どこにご飯食べに行くつもりだったの?」


 止まっていた時を動かし始めたのも行哉だった。


「えっと……河原町でしたよね、小和さん」

「うん、そう。じゃあ、移動しよっか」


 三人は北大路駅の改札を目指して歩き始めた。

 緊張が解けたのか、颯太と小和は二人並んで楽しそうに話している。

 話題は、当たり前のように写真のこと。

 その二人の後ろを、行哉は一人付いて歩いた。


 三人で地下鉄に乗り、途中乗り換えを挟んで京阪けいはん三条さんじょう駅で降りた。

 地上に上がってくると、辺りはすっかり暗くなっており、街灯や建物から漏れる光、すぐ近くを走る車のヘッドライトの光に溢れた世界が広がっていた。

 そして、土曜日の夜ということで三条大橋の周辺は、人波と喧騒に満ちていた。


「それで、店はどこに行くの? 予約とかしてるの?」


 行哉が問いかけると、颯太は誘い主の小和に目を向け、小和は小さく「あっ――」と声を漏らしていた。


「違うの。だって、いつもはその場で行きたいところ決めるじゃない?」


 小和はそう言い訳をする。

 実際、上賀茂や西賀茂でご飯を食べるときはそうしていた。予約なんかしなくてもいい気軽に入れる店しか行かないし、店の混み具合で待つのかそれとも別の店に行くのかも、そのときの気分で決めていた。

 今回もそうしようと小和は考えていて、誘われた颯太も似たようなもので、二人とも夜の河原町を出歩くことがあまりないので完全に失念していた。


「分かりました。予約してるとかはないんすね」


 行哉は状況を把握すると、スマホで時計を確認する。

 時間は十九時過ぎ。三条河原町から四条河原町のエリアは、京都市内最大の繁華街だ。

 そこに土曜日の夜という条件が加わると、どこも混みあっていて店を探すだけもひと苦労なのに、そこに小和と颯太がゆっくりと話ができるという条件がさらに足されると、今から地下鉄に乗って引き返し上賀茂周辺や北大路周辺で店を探す方が早いまであった。

 行哉は小和に協力すると言った手前、できる手は尽くすことにした。


「今から予約なしで、飛び込みで入れる店あったかな……。あっ、二人は何か希望はある? 応えれる保証はないけど」


 行哉がスマホをいじりながら、二人に尋ねる。


「俺はそこまで高くなければ何でもいいよ。今、新しいレンズ欲しくて、金貯めてるとこだし」

「オッケー。楠見さんは?」

「わ、私は……えっと……ごめんなさい」


 小和は申し訳なさそうに俯き、気落ちしているのか自分の足元に視線を落とした。


「楠見さんも特に希望なしでいいっすね。じゃあ、店探すから、二人はそのままちょっと待ってて」


 そう言うと行哉は、二人から距離を取った。


「行哉が一緒でよかったですね、小和さん。あいつ、けっこう飲み歩いたりしてるみたいだし、こういうときはまじで頼りになりますよね」


 颯太が少し離れたところにいる行哉に目を向けながら、小和にそっと話しかけた。

 行哉は、誰かと連絡を取っているのかせわしなくスマホの上を指が滑っていて、何度か通話もしていた。

 小和も顔を上げ、自分のミスを帳消しするために動いてくれている行哉を見つめる。


「本当に、ね――」

「すごいですよね、行哉は。そんな行哉と違って、頼りにならない後輩ですいません、小和さん」

「いやいやいや。こちらこそ、頼りない先輩でごめんなさい」


 二人は同時に頭を下げ、何をやっているんだろうと冷静になり、頭を上げ目が合うとくすりと笑い合った。

 そこに何度目かの通話を終えた行哉が戻ってきた。


「二人してなに笑ってんの?」

「行哉と違って、お互い頼りないなって」

「そっか。でも、俺はそんないいものじゃないって」


 行哉は二人に合わせて笑みを浮かべるも、そこにはどこか影が差していた。

 街灯の下の明るい場所にいる二人と、同じ光の下には入れず仄暗ほのぐらい場所にいる行哉。

 その触れられたくない黒いものに気付かれる前に、一歩前に踏み出しながらいつものように気の置けない友達に向ける表情に戻った行哉は、


「とりあえず、店の予約は取れたよ。俺も初めて行くところだから、どんな感じの店かは分かんないけど」


 と、いい報告だけをした。


「ありがとう、中原くん」

「まじで助かったよ。ありがとな」


 二人の無垢むくな感謝の言葉を受け取った行哉は、「じゃあ、店に行こうか」とスマホで地図を確認して、先導するように二人の前を歩き出した――。

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