(閑話) 長谷写真事務所
「おはよー」
長谷写真事務所に、清水結香のどこかけだるげな声が響いた。
「あっ、清水さん、おはようございます。清水さんが最後って、珍しいですね」
今日の予定を確認していた塚本晃良の明るく通る声が清水を出迎え、それに合わせて、一番奥のデスクでパソコンで作業をしていた長谷篤弘とその隣に立って話をしていた坂口隆之は、手と話を止めて穏やかな笑みを清水に向けていた。
「たしかにね。久しぶりに寝坊しかけたもの」
清水は焦るどころか口元にはどこか楽し気な笑みを浮かべていて、軽やかに自分のデスクに座り、パソコンを起動させた。
「寝坊しかけたって言う割には、機嫌よさそうだね」
長谷が近づいてきながら、清水に声を掛けた。坂口も長谷と一緒に近づきてきて「こいつ、余裕ぶってるけど、心配で取り乱す一歩手前だったからな」とあっさりバラした。
長谷は慌てて誤魔化すが、気付いていなかった塚本は「そうだったんすか、長谷さん」と驚きつつも好奇の目を向けていた。
そんないつもの空気感に清水は、口元を押さえて噴き出した。
長谷と清水、坂口の三人は元は同じ会社に勤めていて、長谷と坂口は同期で、清水は長谷が教育係として初めて担当した後輩だった。
そして一緒に独立し、苦楽を共にしたこともあって、お互いの気心は知れていた。
「ミヤくんの写真を見てたら、つい夜更かししちゃって」
「昨日のミヤの相談の件かな? 写真投稿用のアカウントを作りたいっていう」
「そうなんですよ。普通なら撮ったなかでいいと思った写真を投稿したらで、すむ話なんですけどね。ミヤくんの場合は困ったことに、去年一年撮り続けたそういう写真を含めて、最新の写真も投稿したいってことでしたからね」
話題の中心の“ミヤ”こと宮岡颯太は、アカウント開設して、どう投稿していったらいいかという戦略的なことを、広報をしている清水に相談していた。もしかすると清水が長谷のマネージャーのようなことも兼務しているので、そちらの方面からの意見も欲しかったのかもしれない。
以前も颯太は、長谷と清水を頼って、写真の印刷について相談されたことがあった。
「それで、ミヤの写真を見てどうだった?」
「粗削りなところはあるけど、なんというか引き込まれるんですよね、ミヤくんの写真。じゃないと、去年の夏に話題になってませんし」
去年の夏に開催されていた、京都市内の大学の合同写真展で展示していた颯太の写真は、地元メディアに取り上げられたり、SNS上で話題になっていた。
「まさかあの写真の綺麗な雰囲気の人がミヤの彼女だったなんて、なんかムカつくんだよな」
「そこで祝福できないから、塚本はモテないんじゃないのか?」
「綺麗な奥さんとかわいい娘さんのいる坂口さんに言われたら、なんも言えなくなるじゃないっすか」
塚本と坂口のやり取りに、長谷と清水は笑い声をあげる。
「その彼女に送るためだけに、この一年毎日写真を撮り続けていたんだから、ミヤくんってロマンチックよね」
清水は口元に笑みを残したまま、感心したように頷いていた。
「きっと彼女がミヤを変えたんだろうね。去年の夏くらいから撮る写真が格段によくなっていったし、風景以外でもいい写真を撮るようになったからね」
「俺も何度か見せてもらってるけど、ミヤくんの写真は雰囲気あるよね。なんというか空気感がいい」
長谷と、事務や経理のかたわら編集もしている坂口が口々にここにはいない颯太のことを褒めた。
「そうなんっすよね。まじでミヤのせいで俺の立場が危ういというか……」
「ミヤくんと塚本では、方向性が違うでしょ。依頼された写真を撮ることに関しては塚本が何枚も上だし、ミヤくんはそういう撮影はまだまだだけど、表現者としてのポテンシャルが高いって感じかな」
塚本は清水の客観的で冷静な分析を聞かされ、認められていることを喜んでいいのか、それとも颯太より下の部分があると言われたことを悔しがればいいのか分からず、何とも言えない表情で頷くしかできなかった。
「まだどういう風に輝くのか分からない原石を前にしてる感じで、面白そうなのよね。今、ミヤくんって三年だっけ? このままここに居ついてくれたら、ずっと見てあげられるんだけどな」
「俺も最近のミヤを見てると、そうなればいいなとは思ってるんだよな。素直で、仕事は丁寧だし、写真もまだまだ伸び盛りだし。手が届くところに置いておきたいって感じかな。けど、選ぶのはミヤだからね」
清水と長谷は顔を見合わせて、笑みを浮かべ合った。
「もしミヤが入ってくれたら、俺にもちゃんとした後輩ができるわけか。ようやく一番下じゃなくなるってわけだし、悪くないな」
「塚本はもっと心配した方がいいぞ。ミヤくん、けっこう気が回るし、俺の仕事も嫌な顔せずに手伝ってくれるし、下手したら入社直後の長谷より仕事できてそうだし、まじで即戦力だよ」
「坂口、俺をついでに刺すな。でもミヤは、大学生でまだバイトだったころの塚本と違って車の免許も持ってるし、運転も安心して任せられるしで、うかうかしてると塚本の仕事、ミヤが全部奪うかもね」
「怖いこと言わないでくださいよ」
坂口と長谷の話を聞いて、塚本は本気で焦っているような表情になり、塚本以外の三人はそれがおかしくて笑った。
「それでミヤのことはどうするの?」
長谷が逸れてしまった話を戻した。
「ミヤくんのことをよく知る写真部の友達には、交流を一切しない写真の力に頼って淡々と投稿をするだけの正体不明のフォトグラファーでいいんじゃないかってアドバイスされたって言ってたんです。それを言った友達は冗談半分だったかもしれませんが、意外とそれでいいのかなって。今のミヤくんの写真は、以前のミヤくんと違ってジャンルの幅は広いし、アカウント名によっては写真を投稿してるいるのが、個人なのかグループなのかも分からないかもしれない。だけど、見る人が見れば、どこか一貫したものを感じれる。投稿されている写真を通じて、撮っている人さえも想像させるって面白くないですか?」
清水は颯太のアカウントの方針を熱く語ってみせる。
「うん。たしかに面白そうだ。それだとミヤの写真に全てがかかってるね。坂口と塚本はどう思う?」
長谷は真剣な表情になっていて、その目が坂口と塚本に向けられる。
「ミヤの写真、たまに本当にお前が撮ったのか、って思える写真あるからなあ。それに投稿が写真だけってのがいい。食べ物の写真やゲームのスクショとかは絶対ノイズだし、それに発言から中の人の思想とか偏った考えなんかが透けて見えると写真の見え方も変わるから、マイナスにしかならないし」
塚本は自身の体験を踏まえて、好意的な意見を口にした。
そして清水、長谷、塚本の三人の視線は、難しい表情を浮かべている坂口に集まった。
「カメラマンはいわば人気商売だ。さっきの清水の説明だと、アカウントを誰かに見つけてもらっても、ミヤくんの今後には繋がらないのでは? 素性を隠して活動することに意味を持たせるのであれば、表に出ることができないということだ。それはもし依頼が来ても受けられないということじゃないかな? それにミヤくんは若い。なまじ有名になったら素性を明かしたいとなるかもしれないし、逆に話題にならない期間が長くとも続けられる忍耐力があるのかどうか?」
あえて懸念点を坂口があげていく。
「そこは結局は、ミヤくん次第なんですよね。ミヤくんは今は写真を投稿して、たくさんの人に見てもらうことにすることに重きを置いているみたいです。それにすでにひとりに見せるためだけの撮影を一年続けてる子ですよ? 忍耐力は折り紙付きでしょ。あと、できることならアカウントの管理に私も関わろうと思っています。そうすれば、もし話題になってミヤくんにとっていい話が来たり、なにかトラブルがあっても、その都度ミヤくんと相談しながら対応できますからね」
「清水、そこは関わるのは私たちにしよう」
「いいんですか、長谷先輩?」
「いいよ。俺もミヤを応援したいからね」
長谷の言葉で、颯太への関わり方が決まる。
さらに「これで少しは恩を感じて、うちに来てくれればなお最高なんだけどね」と表情を崩して続けると、全員が同時に噴き出して、空気が弛緩していく。
「で、そこまで入れこんでるからには、ミヤのアカウントのこと、もうけっこう具体的に考えてるんだろ?」
「はい。ミヤくんから昨日聞いた希望も踏まえて、京都を中心に活動するフォトグラファーとだけ公表して、さっきも言ったような写真以外の投稿をしないアカウントがいいのかなって。それで最初に投稿する写真は、京都の四季にしようと思うんですよ」
そう言いながら清水は、私用のタブレットパソコンを取りだし、ピックアップした写真を見せる。
「そのなかで個人的に選ぶとしたらこの四枚なのですけど――」
賀茂川沿いの桜並木を橋の上から撮った、北山連峰と薄い青色の空、そのなかで悠々と流れる川と中州に佇むサギ、川沿いの遊歩道には桜を楽しむ人が写った春の写真。
出町柳の鴨川デルタで撮られた、水遊びをしている人たちや川べりで涼をとっている人が写る夏の写真。
北山通で撮られた、歩道沿いや車道の分離帯に植えられた木々が赤や黄色に染まり、柔らかな陽射しに照らされている秋の写真。
西賀茂橋で撮られた、夜に降る雪と傘を差した細身の女性がオレンジの街灯に照らしだされ、奥には街灯の光が点々と落ちる車が走っていない道路が伸びている冬の写真。
「どれもミヤらしい、いい写真だ」
「ミヤくんが、大切な人に見せるためだけに撮った写真ですからね。これ以外の写真も本当にすごかったんですから。おかげで、今日は寝不足で」
話が一周したところで、清水を中心に笑みが広がった。
「あとはミヤと相談して、話を詰めていこうか。清水は今日は無理するなよ。ってことで、坂口は大変だろうけどサポート頼む」
長谷の言葉に、清水と坂口が頷いた。
「じゃあ、今日も一日よろしく」
そうして、長谷写真事務所の一日が動きはじめた――。「おはよー」
長谷写真事務所に、清水結香のどこかけだるげな声が響いた。
「あっ、清水さん、おはようございます。清水さんが最後って、珍しいですね」
今日の予定を確認していた塚本晃良の明るく通る声が清水を出迎え、それに合わせて、一番奥のデスクでパソコンで作業をしていた長谷篤弘とその隣に立って話をしていた坂口隆之は、手と話を止めて穏やかな笑みを清水に向けていた。
「たしかにね。久しぶりに寝坊しかけたもの」
清水は焦るどころか口元にはどこか楽し気な笑みを浮かべていて、軽やかに自分のデスクに座り、パソコンを起動させた。
「寝坊しかけたって言う割には、機嫌よさそうだね」
長谷が近づいてきながら、清水に声を掛けた。坂口も長谷と一緒に近づきてきて「こいつ、余裕ぶってるけど、心配で取り乱す一歩手前だったからな」とあっさりバラした。
長谷は慌てて誤魔化すが、気付いていなかった塚本は「そうだったんすか、長谷さん」と驚きつつも好奇の目を向けていた。
そんないつもの空気感に清水は、口元を押さえて噴き出した。
長谷と清水、坂口の三人は元は同じ会社に勤めていて、長谷と坂口は同期で、清水は長谷が教育係として初めて担当した後輩だった。
そして一緒に独立し、苦楽を共にしたこともあって、お互いの気心は知れていた。
「ミヤくんの写真を見てたら、つい夜更かししちゃって」
「昨日のミヤの相談の件かな? 写真投稿用のアカウントを作りたいっていう」
「そうなんですよ。普通なら撮ったなかでいいと思った写真を投稿したらで、すむ話なんですけどね。ミヤくんの場合は困ったことに、去年一年撮り続けたそういう写真を含めて、最新の写真も投稿したいってことでしたからね」
話題の中心の“ミヤ”こと宮岡颯太は、アカウント開設して、どう投稿していったらいいかという戦略的なことを、広報をしている清水に相談していた。もしかすると清水が長谷のマネージャーのようなことも兼務しているので、そちらの方面からの意見も欲しかったのかもしれない。
以前も颯太は、長谷と清水を頼って、写真の印刷について相談されたことがあった。
「それで、ミヤの写真を見てどうだった?」
「粗削りなところはあるけど、なんというか引き込まれるんですよね、ミヤくんの写真。じゃないと、去年の夏に話題になってませんし」
去年の夏に開催されていた、京都市内の大学の合同写真展で展示していた颯太の写真は、地元メディアに取り上げられたり、SNS上で話題になっていた。
「まさかあの写真の綺麗な雰囲気の人がミヤの彼女だったなんて、なんかムカつくんだよな」
「そこで祝福できないから、塚本はモテないんじゃないのか?」
「綺麗な奥さんとかわいい娘さんのいる坂口さんに言われたら、なんも言えなくなるじゃないっすか」
塚本と坂口のやり取りに、長谷と清水は笑い声をあげる。
「その彼女に送るためだけに、この一年毎日写真を撮り続けていたんだから、ミヤくんってロマンチックよね」
清水は口元に笑みを残したまま、感心したように頷いていた。
「きっと彼女がミヤを変えたんだろうね。去年の夏くらいから撮る写真が格段によくなっていったし、風景以外でもいい写真を撮るようになったからね」
「俺も何度か見せてもらってるけど、ミヤくんの写真は雰囲気あるよね。なんというか空気感がいい」
長谷と、事務や経理のかたわら編集もしている坂口が口々にここにはいない颯太のことを褒めた。
「そうなんっすよね。まじでミヤのせいで俺の立場が危ういというか……」
「ミヤくんと塚本では、方向性が違うでしょ。依頼された写真を撮ることに関しては塚本が何枚も上だし、ミヤくんはそういう撮影はまだまだだけど、表現者としてのポテンシャルが高いって感じかな」
塚本は清水の客観的で冷静な分析を聞かされ、認められていることを喜んでいいのか、それとも颯太より下の部分があると言われたことを悔しがればいいのか分からず、何とも言えない表情で頷くしかできなかった。
「まだどういう風に輝くのか分からない原石を前にしてる感じで、面白そうなのよね。今、ミヤくんって三年だっけ? このままここに居ついてくれたら、ずっと見てあげられるんだけどな」
「俺も最近のミヤを見てると、そうなればいいなとは思ってるんだよな。素直で、仕事は丁寧だし、写真もまだまだ伸び盛りだし。手が届くところに置いておきたいって感じかな。けど、選ぶのはミヤだからね」
清水と長谷は顔を見合わせて、笑みを浮かべ合った。
「もしミヤが入ってくれたら、俺にもちゃんとした後輩ができるわけか。ようやく一番下じゃなくなるってわけだし、悪くないな」
「塚本はもっと心配した方がいいぞ。ミヤくん、けっこう気が回るし、俺の仕事も嫌な顔せずに手伝ってくれるし、下手したら入社直後の長谷より仕事できてそうだし、まじで即戦力だよ」
「坂口、俺をついでに刺すな。でもミヤは、大学生でまだバイトだったころの塚本と違って車の免許も持ってるし、運転も安心して任せられるしで、うかうかしてると塚本の仕事、ミヤが全部奪うかもね」
「怖いこと言わないでくださいよ」
坂口と長谷の話を聞いて、塚本は本気で焦っているような表情になり、塚本以外の三人はそれがおかしくて笑った。
「それでミヤのことはどうするの?」
長谷が逸れてしまった話を戻した。
「ミヤくんのことをよく知る写真部の友達には、交流を一切しない写真の力に頼って淡々と投稿をするだけの正体不明のフォトグラファーでいいんじゃないかってアドバイスされたって言ってたんです。それを言った友達は冗談半分だったかもしれませんが、意外とそれでいいのかなって。今のミヤくんの写真は、以前のミヤくんと違ってジャンルの幅は広いし、アカウント名によっては写真を投稿してるいるのが、個人なのかグループなのかも分からないかもしれない。だけど、見る人が見れば、どこか一貫したものを感じれる。投稿されている写真を通じて、撮っている人さえも想像させるって面白くないですか?」
清水は颯太のアカウントの方針を熱く語ってみせる。
「うん。たしかに面白そうだ。それだとミヤの写真に全てがかかってるね。坂口と塚本はどう思う?」
長谷は真剣な表情になっていて、その目が坂口と塚本に向けられる。
「ミヤの写真、たまに本当にお前が撮ったのか、って思える写真あるからなあ。それに投稿が写真だけってのがいい。食べ物の写真やゲームのスクショとかは絶対ノイズだし、それに発言から中の人の思想とか偏った考えなんかが透けて見えると写真の見え方も変わるから、マイナスにしかならないし」
塚本は自身の体験を踏まえて、好意的な意見を口にした。
そして清水、長谷、塚本の三人の視線は、難しい表情を浮かべている坂口に集まった。
「カメラマンはいわば人気商売だ。さっきの清水の説明だと、アカウントを誰かに見つけてもらっても、ミヤくんの今後には繋がらないのでは? 素性を隠して活動することに意味を持たせるのであれば、表に出ることができないということだ。それはもし依頼が来ても受けられないということじゃないかな? それにミヤくんは若い。なまじ有名になったら素性を明かしたいとなるかもしれないし、逆に話題にならない期間が長くとも続けられる忍耐力があるのかどうか?」
あえて懸念点を坂口があげていく。
「そこは結局は、ミヤくん次第なんですよね。ミヤくんは今は写真を投稿して、たくさんの人に見てもらうことにすることに重きを置いているみたいです。それにすでにひとりに見せるためだけの撮影を一年続けてる子ですよ? 忍耐力は折り紙付きでしょ。あと、できることならアカウントの管理に私も関わろうと思っています。そうすれば、もし話題になってミヤくんにとっていい話が来たり、なにかトラブルがあっても、その都度ミヤくんと相談しながら対応できますからね」
「清水、そこは関わるのは私たちにしよう」
「いいんですか、長谷先輩?」
「いいよ。俺もミヤを応援したいからね」
長谷の言葉で、颯太への関わり方が決まる。
さらに「これで少しは恩を感じて、うちに来てくれればなお最高なんだけどね」と表情を崩して続けると、全員が同時に噴き出して、空気が弛緩していく。
「で、そこまで入れこんでるからには、ミヤのアカウントのこと、もうけっこう具体的に考えてるんだろ?」
「はい。ミヤくんから昨日聞いた希望も踏まえて、京都を中心に活動するフォトグラファーとだけ公表して、さっきも言ったような写真以外の投稿をしないアカウントがいいのかなって。それで最初に投稿する写真は、京都の四季にしようと思うんですよ」
そう言いながら清水は、私用のタブレットパソコンを取りだし、ピックアップした写真を見せる。
「そのなかで個人的に選ぶとしたらこの四枚なのですけど――」
賀茂川沿いの桜並木を橋の上から撮った、北山連峰と薄い青色の空、そのなかで悠々と流れる川と中州に佇むサギ、川沿いの遊歩道には桜を楽しむ人が写った春の写真。
出町柳の鴨川デルタで撮られた、水遊びをしている人たちや川べりで涼をとっている人が写る夏の写真。
北山通で撮られた、歩道沿いや車道の分離帯に植えられた木々が赤や黄色に染まり、柔らかな陽射しに照らされている秋の写真。
西賀茂橋で撮られた、夜に降る雪と傘を差した細身の女性がオレンジの街灯に照らしだされ、奥には街灯の光が点々と落ちる車が走っていない道路が伸びている冬の写真。
「どれもミヤらしい、いい写真だ」
「ミヤくんが、大切な人に見せるためだけに撮った写真ですからね。これ以外の写真も本当にすごかったんですから。おかげで、今日は寝不足で」
話が一周したところで、清水を中心に笑みが広がった。
「あとはミヤと相談して、話を詰めていこうか。清水は今日は無理するなよ。ってことで、坂口は大変だろうけどサポート頼む」
長谷の言葉に、清水と坂口が頷いた。
「じゃあ、今日も一日よろしく」
そうして、長谷写真事務所の一日が動きはじめた――。




