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君は梅雨に咲く  作者: たれねこ
第1章 君と出会った最初の梅雨

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19/26

言葉ではなく写真で

 小和が初めて迎える側になって参加した、写真部の新入生歓迎コンパ。

 そのコンパには、注目を集めている一年生がいた。

 それが、中原行哉だった。

 現役合格組で入学直後だというのに、髪色はアッシュブロンドでかなり派手で目立っていた。

 目立つのは髪色だけでなく、一人だけ場違いなほどにスタイルも顔もよかった。

 その見た目のイメージ通りに、カットモデルをしていたり、何度か街角スナップで撮影され雑誌に載った経験もあり、自己紹介をせずとも何人かは行哉のことを当たり前のように知っていた。

 まるで一人だけ芸能人が混じったかのように、行哉の周りには自然と人が集まっていて、なんとか部に入ってもらおうと特別な扱いをしているのは、誰の目にも明らかだった。

 そんな規格外がいる空間で、小和は上級生として行哉以外の新入生に声を掛けて回った。できるだけ写真に繋がる話題を中心に、写真に興味を示さない新入生には大学のことや無難な雑談をした。


「私たち、誘われたから来ただけで、カメラに興味はあんまり――」

「写真っすか? 好きですよ。よく友達とふざけて写真撮ってるんですよ」

「最近撮った写真ですか? 大学で見かけた猫がかわいくて撮ったやつですかね」

「カメラは持ってないです。スマホで撮ればよくないですか?」


 友達に誘われたから。友達の付き添いで。新歓コンパは新入生は無料だと言われたから。

 写真部には興味がないけれど、騒ぐ目的や出会い目的で集まっている人も多かった。

 また写真に興味があっても、ほぼスマホでの撮影しかしたことがない人ばかりで。

 話の流れで小和が見せてもらった写真は、友達と共有するために撮った写真や身内ウケのためにだけふざけて撮った写真、友達と遊んだり集まったときに撮った記念の写真、外食をしたときのご飯の写真、なんとなく撮った風景や動物の写真。


 今は写真に興味がなくとも、このさき写真が好きになったり興味を持つかもしれない。

 写真が好きなら、“なにを”撮ろうが、“なにで”撮ろうが関係ない。

 そんな未来への期待や理想論を抱きながら、ノリや写真に対する価値観といったものが噛み合っていないと感じながら、せめて楽しんでもらおうと小和は笑顔を絶やさずにいた。

 本当にしたい話ができなくとも、今の時間が苦痛だと感じていても――。


 そうやって、多くの新入生と話していると、ふと隅っこの席にいるひとりの男子が目に入った。

 それが宮岡颯太だった。

 誰とも話すこともなく、誰にも気づかれないように息をひそめるようにしている、見るからに真面目で垢ぬけていない地味な印象の男の子。

 ひどくつまらなそうにウーロン茶を飲みながら、遠慮がちに料理に手を付けていた。

 小和は気付いてしまった以上、上級生として声を掛けないわけにはいかなかった。


「君、一年生だよね? 私、二年の楠見。どう? 楽しんでる?」


 小和は何気なく、悪気なく、そう声を掛けた。声を掛けた瞬間に聞くまでもない質問をしたことを後悔した。

 颯太は声を掛けられたことに驚いて、小和のことをジッと見つめた。その目には深い失望と、不快感が滲んでいた。


「はい、一年の宮岡です。そうですね……あまり楽しくはないですね。写真部だというから、色んな写真の話ができるものだと期待して来たのに、写真に興味がなさそうな人ばかりみたいで」


 颯太はそれでも言葉を選んでいるのだと、小和には分かった。

 そして同時に、本当に写真の話をしたい人を放置していたことに胸の奥が痛んだ。

 だから、小和は颯太の前では誠意として、本心で話すことにした。


「そうだね、私もそう思ってた」


 小和があっさりと同意するので、颯太は驚いた。小和はそんな颯太の反応を見ながら話を続けた。


「でもね、ちゃんと真面目にやっている人もいるのよ。それに君の目には興味がなさそうに見えていても、写真部にいるということはその人なりに写真を撮ることが好きだってことだと思うのよ。ただそこに向ける熱量が違うだけ。きっと何でもそうじゃないかな? スポーツでも、趣味でも、勉強でも」


 小和は疲れた表情を隠さずに、自分の考えを口にした。

 颯太は、黙ってそれを聞いていた。

 その表情にさっきまで色濃かった不快感のようなものはなかった。小和は、颯太がちゃんと話ができる相手だと安心した。


「私は、自分ではちゃんと写真に取り組んでいるつもり。今日も写真の話をしたい新入生がいたら、自分の撮った写真を見せたりしながら話したいなって思っていたもの」


 小和は期待した今と現状のギャップに、目を伏せたくなる。


「じゃあ……先輩の写真を見せてください。自分が撮った写真も見せますので」


 小和は一瞬何を言われたのか分からなかった。それが待ち望んだ言葉だったのにかかわらず。

 颯太は近くに置いていた鞄からタブレットを取りだした。


「写真の話題をするものだと思ってたから、自分の中で厳選した写真をまとめたファイルを作ったんですよ」


 颯太は少しだけ恥ずかしそうにそのファイルを開いて、小和にタブレットを手渡した。

 小和はタブレットを受け取り、「じゃあ、見せてもらうね」と断りを入れてから写真を見ていく。

 そこにあったのは、空をモチーフにした写真の数々。

 山や海を撮った風景写真も多く、構図や光の捉え方がとてもいいと小和は感じていた。

 空がメインでありながら、一緒に写り込む花や植物、人や建物などがいいアクセントになっていた。

 見る人によって、写真から受ける印象や感じ方、思い浮かべるストーリーが変わりそうな楽しさや面白さがある写真。それでいて、シンプルに画面の綺麗さや美しさに目が奪われるようだった。

 そこには撮影した人間の、好きなものや綺麗に感じるもの、こういう見せ方がいいと思ったり面白いと思っているという想いで満ち溢れていた。

 小和は、一瞬で颯太の写真のファンになった。


「すごいいい写真だと思う。それにしても空や海が多いけど、風景を撮るのが好きなの?」

「そうですね。田舎で生まれ育ったのもありますけど、空とか自然が好きなんです」

「人を撮ったものが少ないのはなんで?」

「ああ……人を撮るのは少し苦手なんですよね。カメラを向けていることを意識されると、なんというか不自然さというのが写真に一緒に写っているように感じるんです。それがノイズというか、違和感として目立つように思えるんです。あくまで自分の感覚での話ですが……」


 颯太の説明を聞いて、小和は納得していた。

 颯太の写真に写っている人は、カメラに気付いている様子はない。それゆえに自然体で写っていて、それが風景とよくマッチしていて、引き立てあっているようだった。


「それで先輩は、どんな写真を撮っているんですか? 見せてくれるんですよね?」


 小和はもう一度見直しをしようと思っていたが、そういう約束だったということを思いだした。


「私は人を撮ることが多いかな。鞄にタブレットあるし、持ってくるから少し待ってて」


 小和はテーブルの上に颯太のタブレットをいったん置き、自分の席に置いていた鞄を持って戻ってきた。

 鞄の中からタブレットを取りだし、小和も颯太と同じように用意していた自分の紹介代わりになると思った写真をまとめたファイルを表示させて、颯太に手渡した。

 颯太はタブレットを受け取ると、真剣な表情で画面を見つめていた。

 その横顔には、少し前までの退屈そうな色はなく、本当に写真に真面目で好きなんだということが伝わってくるようだった。


「先輩が言ってた通り、本当に人をよく撮ってるんですね。それも子供が多いですね」


 そう言いながら、颯太の口角は自然と上がっていて、優しい笑みを浮かべていた。

 そういう表情が見たくて小和は写真を撮っているので、それだけで嬉しくなった。

 同時に小和は、自問する。

 颯太の写真を見ているときに、颯太が期待するような反応をしていただろうかと。

 しかし、颯太の小和を見る表情や態度にその答えは出ていた。

 颯太も小和も、お互いに写真の話ができる相手を欲していた。

 そのはずなのに、言葉は多くはいらず、写真を通じて自己紹介をし、雄弁に語り合っていた。


「この写真が一番好きだな」


 颯太がとある写真で手を止めて、しみじみと口にした。


「どの写真?」


 小和が隣からタブレットを覗き込む。

 そこに表示されていたのは、数人の子供たちが驚きと楽しいが共存しているような満面の笑みで見上げていて、木の枝や葉がフレームのように写っている写真だった。

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