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中学の卒業式に告白した人が高校で隣の席だったらイチャイチャできるのか  作者: コヨコヨ


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 僕は彼女が僕を好きかもしれないというのがどうしても信じられなかった。

 加えて、今、嬉しいのかどうかもはっきりしない。だって僕が好きだったのは星野さんであって、香奈さんではなかったから……。

 そりゃあ、香奈さんも凄く良い人で、好きになる要素ばかり。ただもともと好きだったのは星野さんで、香奈さんを好きにならないよう努力していたのに、何の意味もなかった。


「……伊奢沙別命いざさわけのみこと)の思し召しか、はたまた悪戯か」


 軽い酸欠でくらくらした。野坂山で香奈さんの顔に虫よけスプレーを振ったときを思い出す。軽いキス顔だった。可愛いなって思っていたけれど、本当のキス顔は想像以上だった。もう、二度と忘れられない記憶として、脳に焼きついてしまったのではなかろうか。


 僕が放心状態になっていると、携帯電話が一度震える。マナーモードにしてから元に戻していなかったため、音は鳴らなかった。手に取って確認すると、香奈さんからの連絡だった。


「星野さん、今日は楽しかったってー、よかったねー」


 彼女は未だに星野さんのつなぎとして連絡しようとしているのか。はたまた、突っ込みを待っているのか。

 僕は香奈さんに今日のお礼を伝える。キスの件は触れず、会ってくれたことだけに感謝した。

 氣比神宮の敷地を出て、隣に位置する敦賀市武道館を見た。中学校の頃、正月稽古や昇段試験の練習、県大会前の試合が行われていた場所だ。


「今ごろ、中学二年生は昇段試験に向けて頑張っているころかな」


 白帯からいきなり黒帯になれるわけじゃない。筆記試験と形、五試合のうち三勝しなければならない。ほんと大変だ。でも、だからこそ黒帯になれたときは、喜びもひとしおだ。


「高校でも、部活で柔道する意味ってあるのかな……」


 白帯から黒帯への変化が一番大きい。黒帯からさらに上の紅白帯になるためには六から八段まで昇段しなければならず、多くの高校生が二段から三段でやめてしまう。さらに上の紅帯になる者は何パーセントだろうか。


「柔道なんてしても、社会に出たら大して役に立たない……。中学の三年間で礼儀作法は学べた。体格に恵まれていない僕が頑張ったところで、試合にも勝てない。部活に友達もいない」


 考えれば考えるほど、高校で柔道を続ける理由がなかった。でも、変に意識してしまう。

 星野さんに告白出来たから未練はなかったけれど、僕はまだ部活に未練たらたらだった。きっぱり止めようと決心できず、続けてみようと踏み切れない。僕なんかが……と考えてしまう。


 夜が近づき、飲食店が活気づいてくる商店街を歩きながら敦賀駅まで向かう。北陸新幹線、金沢間が延伸開通した影響もあり、昔の駅よりずっと大きく綺麗になっている。駐車場件、バスターミナルに到着。四ホームの金山線のバスに乗り、粟野中学校方面に移動。

 人気の少ないバスの一人席に座りながら、夕日に照らされている街を窓から見つめる。

 さっきのキスが、まだ信じられない。香奈さん……いや、星野さんだった香奈さんが、僕にキスした。


 僕は当時、彼女の家庭の事情を知らなかった。両親が離婚していたことも、名字が変わったことも。それなのに、告白するとき「星野さん」って呼びかけた。

 それって、下手すれば彼女を深く傷つける行為だったかもしれない。

 僕の中では好きな人に精一杯告白したつもりだったけど、当の本人からすれば「名前もちゃんと知らないのに、何言ってんの?」って感じだったはず。


 卒業式の時、先生が彼女の苗字を変えなかったのは、生徒たちに余計な誤解を与えないためだったんだろうな。


 ――いや、それにしても。僕、気づけよ。高校生になってから、香奈さんとずっと話していたのに、気づかないなんてバカにもほどがある。


 思い返すたび、頭を抱えて転げ回りたくなる。バスの中じゃなければ、やっていた。


『ねえ、神村くん。ゴールデンウィーク後も、仲良くしてね』


 休み前に聞いた香奈さんの言葉が、脳裏にふっと浮かぶ。

 でも、具体的に仲良くするって何? 恋人としてってこと? それとも仲のいい友達のまま?

 あのキスは、「好き」ってことなのか、それとも「これで満足でしょ」って意味なのか。どっちだ。いや、両方か。いやいや、どっちでもない可能性も……。僕の頭はフル回転で迷走中。

 恋愛偏差値が低すぎるせいで、何が正解なのか、さっぱりわからない。


「だ、大丈夫。相手は香奈さんだし、きっとゴールデンウィーク後もいつも通りでいられるはず……だけど」


 香奈さんの顔を見たら絶対、今日のことを思い出して挙動不審になる未来しか見えない。どうすればいいんだ。

 頭を抱え、悩みと裏腹に高鳴り続ける胸の音が静かなバスの中でこだまするように大きく聞こえた。


 香奈さんと会ってから残りのゴールデンウィーク中、彼女からの連絡は一切なかった。僕の方から連絡しようと思ったけれど、メッセージを送る手が重い。電話しようにも、相手に迷惑なのではないかと考えてしまう。

 いつも以上に長いゴールデンウィークが過ぎ、五月七日、僕は敦賀高校に登校した。昨晩から少々寝不足気味で、目がしょぼしょぼする。


 香奈さんにどんな顔して会えばいいのかわからず、悩み続けた。ちゃんと話せるだろうか。考え事ばかりで、気持ちが滅入る。

 いつも、ホームルームより早めに来るのだけれど、今日は時間ギリギリだった。隣に香奈さんがいる。でも、互いにこの前の日曜日の件を引きずっているのか、挨拶の会話以降、話ができない。


 変に意識して、喉が詰まったように声が出なくなる。彼女の方をちょっとだけ見ようと視線を向けたら、彼女もチラリとみて来て視線がぶつかる。お風呂場をのぞいているわけでもないのに、一瞬で顔を背けあい、無言の時間が過ぎる。


 西山先生が教室に入ってくる。クラス名簿を見て、出席の確認を終えた後、割りばしの棒と一.五リットルペットボトルの上半分を切った手作り感満載のくじ引きを黒板横の棚から取り出す。


「一ヶ月に一度、席替えする。一人ずつクジを引いていけ。俺が黒板に適当に数字を書いていくから、そこが次の席だ」


 黒板に書かれた三二個のマスが奇数偶数と横並びになるように埋められた。その後、男子が偶数、女子が奇数の数字を引く。前の席や、後ろの席、友達と同じ場所、というだけで一喜一憂していた。


「じゃ、じゃあ……ね」

「ん……」


 あまりにも素っ気ない言い合いに、小さな溜息が零れそうになる。机を引きずらないよう軽く持ち上げて、場所を移動する。

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