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復讐の願いが叶うとき  作者: 山口三


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50/57

50 罪


 これから……どうしたらいいだろう。


 詩歩の両親と決別したあと、知佳は家を出た。小さなアパートを借りて、そこから大学へ通うことにした。


 まだ学生の身分の自分ができることは、思った以上に少なかった。


 でも――私は償わなければいけない。


 田中さんの家族は今どうしているのだろう? 


 警察へ行っても、なんの関係者でもない私に情報は提供してもらえないだろう。事故を起こした場所は覚えている。とりあえずそこへ行ってみるしかない。


 新聞記事で正しい住所も分かっていた。最寄り駅からは十分以上歩いた。そばにあったコンビニは、外観はほぼそのままだがコインランドリーになっていた。


 店内を掃除している人影が見えたので入ってみたが、その若い男性は何も知らなかった。


「二十年前っすか? いやあ、俺、まだ生まれたばっかりって感じだから分かんないっすね」


「そうよね、お仕事中ごめんなさい」


 コインランドリーの自動ドアを出ようとすると、思い出したように、若い男性は声を上げた。


「ここは確かに、五年前くらいまでコンビニだったんすけど、移転したんすよ。もう少し先へいったところにあるっす」


 言われた通りに進むと、確かに同じ系列のコンビニがあった。


 今は暇な時間帯なのか、店内に人はいない。品出しをしている中年の男性に声をかけてみた。


 その男性はこの店のオーナーだった。ありがたいことに、彼は二十年前の事故を覚えていた。


「あれはびっくりしたね。なんせ、目の前の電柱に車が突っ込んだんだからさ。可哀そうに小さな子が亡くなったんだ、女の子だったかな」


 ――小さな女の子。


 その言葉に胸が痛くなる。その子は田中さんの大切な……。


「あの、その被害者の家族はどうなったか、ご存じではないですか?」


「ええと、田中さん……だったかな。田中さんは引っ越したんだよ。うちのコンビニにもよく買い物に来てくれて、いい人だったのにね」


 彼は引っ越し先までは知らなかった。


 また行き止まりだ……当事者から話を聞きたくても、どうしても壁にぶつかってしまう。田中さんにももう連絡を取ることはできないし……。


 いえ、考えてみれば、私は離婚しないままで死んだ。妻の起こした事故となれば、裕磨は当事者の一人なのではないか?


 裕磨に協力を仰ぐのは不本意だったが、もう仕方ない。



「知りたいこととは、そのことか」


 休日に家を訪れた私に、裕磨は冷たい視線を向けた。


「償いでもしようというのか?」


「当たり前でしょ。わ……私のせいで幼い子供が亡くなったんだから」


 言葉にすると改めて自分の罪深さを思い知る。冷静な顔をしていたが、心の中は後悔と懺悔の気持ちで、押しつぶされそうだった。


「あの事故、賠償金は支払われなかったよ」


「えっ……どうして?」


「損害賠償の計算で、お前の車の修理費が差し引かれたからだよ」


 あの事故では歩行者側にも過失が認定された。そして、それ以上に知佳が運転していた自動車が、高級な外車の新車だったことが問題だったのだ。


 損害賠償の算定では、車の損害も考慮されたため、遺族側に支払われる金額は実質的になくなってしまっていた。


 ショックを受けて無言でいる知佳に、裕磨は止めを刺した。


「事故から一年くらいしたあとかな。娘を亡くし、賠償金も支払われないで、母親はショックのあまりふさぎ込むようになってたらしい。母子家庭だったし、心労と過労で、ついこの間死んだって」


「亡くなった……?」


 知佳の頭は真っ白になった。


「死んだ子供の兄だって子が、事故を起こした家族を探して、会社にきてさ。泣きつかれたよ、金を出せって。俺のせいじゃないのにな」


 

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