50 罪
これから……どうしたらいいだろう。
詩歩の両親と決別したあと、知佳は家を出た。小さなアパートを借りて、そこから大学へ通うことにした。
まだ学生の身分の自分ができることは、思った以上に少なかった。
でも――私は償わなければいけない。
田中さんの家族は今どうしているのだろう?
警察へ行っても、なんの関係者でもない私に情報は提供してもらえないだろう。事故を起こした場所は覚えている。とりあえずそこへ行ってみるしかない。
新聞記事で正しい住所も分かっていた。最寄り駅からは十分以上歩いた。そばにあったコンビニは、外観はほぼそのままだがコインランドリーになっていた。
店内を掃除している人影が見えたので入ってみたが、その若い男性は何も知らなかった。
「二十年前っすか? いやあ、俺、まだ生まれたばっかりって感じだから分かんないっすね」
「そうよね、お仕事中ごめんなさい」
コインランドリーの自動ドアを出ようとすると、思い出したように、若い男性は声を上げた。
「ここは確かに、五年前くらいまでコンビニだったんすけど、移転したんすよ。もう少し先へいったところにあるっす」
言われた通りに進むと、確かに同じ系列のコンビニがあった。
今は暇な時間帯なのか、店内に人はいない。品出しをしている中年の男性に声をかけてみた。
その男性はこの店のオーナーだった。ありがたいことに、彼は二十年前の事故を覚えていた。
「あれはびっくりしたね。なんせ、目の前の電柱に車が突っ込んだんだからさ。可哀そうに小さな子が亡くなったんだ、女の子だったかな」
――小さな女の子。
その言葉に胸が痛くなる。その子は田中さんの大切な……。
「あの、その被害者の家族はどうなったか、ご存じではないですか?」
「ええと、田中さん……だったかな。田中さんは引っ越したんだよ。うちのコンビニにもよく買い物に来てくれて、いい人だったのにね」
彼は引っ越し先までは知らなかった。
また行き止まりだ……当事者から話を聞きたくても、どうしても壁にぶつかってしまう。田中さんにももう連絡を取ることはできないし……。
いえ、考えてみれば、私は離婚しないままで死んだ。妻の起こした事故となれば、裕磨は当事者の一人なのではないか?
裕磨に協力を仰ぐのは不本意だったが、もう仕方ない。
「知りたいこととは、そのことか」
休日に家を訪れた私に、裕磨は冷たい視線を向けた。
「償いでもしようというのか?」
「当たり前でしょ。わ……私のせいで幼い子供が亡くなったんだから」
言葉にすると改めて自分の罪深さを思い知る。冷静な顔をしていたが、心の中は後悔と懺悔の気持ちで、押しつぶされそうだった。
「あの事故、賠償金は支払われなかったよ」
「えっ……どうして?」
「損害賠償の計算で、お前の車の修理費が差し引かれたからだよ」
あの事故では歩行者側にも過失が認定された。そして、それ以上に知佳が運転していた自動車が、高級な外車の新車だったことが問題だったのだ。
損害賠償の算定では、車の損害も考慮されたため、遺族側に支払われる金額は実質的になくなってしまっていた。
ショックを受けて無言でいる知佳に、裕磨は止めを刺した。
「事故から一年くらいしたあとかな。娘を亡くし、賠償金も支払われないで、母親はショックのあまりふさぎ込むようになってたらしい。母子家庭だったし、心労と過労で、ついこの間死んだって」
「亡くなった……?」
知佳の頭は真っ白になった。
「死んだ子供の兄だって子が、事故を起こした家族を探して、会社にきてさ。泣きつかれたよ、金を出せって。俺のせいじゃないのにな」




