45 確認
詩歩が帰ったあとも、田中はしばらくソファに座ったままだった。
考えがまとまらない。それは、一気に聞かされた情報のせいではなかった。
――詩歩が石黒知佳の生まれ変わりだと?
あり得ない……でももし、そうなら。本当にそうだとしたら……。
「ハッ」
田中は自分の考えを鼻で笑って、首を振った。生まれ変わりなんてあるはずがない。詩歩の思い込みだ。
冷めた家庭環境のせいで、自分でも気づかないほど追い詰められているのかもしれない。
これまで、詩歩の悩みを真剣に受け止めてきたつもりだった。勝ち気で気丈に振舞っていても、内面には拭いきれない不安を抱えて、ヒビだらけのガラスのようだった。
だが、万が一。
どうしてもここに戻ってきてしまう。
帰り際に、詩歩が言っていた言葉。
『子供を避けて事故を起こしたとき、車の中で最後に目に入ったのは、バックミラーにぶら下がるウサギのキーホルダーだったわ。母から帰省のおみやげでもらった……』
翌日、田中は有休をとった。
二十年前の事故についての、あらゆる記事を探し出した。いくつかの新聞社にあたってみたが、事故当時の写真はなかった。
田中は事故当時、自分たち家族が住んでいた町へ出向いた。最寄り駅を出ると、その足で警察署へ向かった。
「え、二十年前の交通事故? ああ、電話をくれた方ですね」
必要な手続きを済ませた上で、田中は資料を確認することになった。
交通課の受付にいた、その初老の警官は階段を先に上りながら、しみじみと言った。
「いやあ、そうか。もう二十年になるんだねぇ。君があの時のねぇ……」
詩歩が話していた死亡事故の資料は期限ぎりぎりで、署内に保管されていた。事故の詳細、現場写真……。
確かにフロントガラスの内側に小さなものがぶら下がっている。犬だと言われれば犬にも見える。
「これかい? ううん、はっきりしないね」
この警官は当時、交通課に勤務していて事故のことも覚えていた。雨の日の事故で……小さな子供が犠牲になるのは本当に忍びないよ、と。だが、キーホルダーのことまでは覚えていなかった。
「ちょっと待ってよ、こういうのに詳しい若いのを連れてくるから」
彼が連れてきた若い警官は、資料をパソコンに読み込み、何やら操作した。と、モニターの画面に破損した車の拡大写真が映し出された。さらにフロントガラスの部分だけを大きくする。
「ああ、確かにウサギだね」
その瞬間、田中の中で最後に残っていた可能性が崩れ落ちた。
帰りの電車の中でも、田中はずっと理由を考えていた。詩歩がキーホルダーのことを知っていた理由。
だが、この事故の資料の閲覧をしたのは田中がはじめてだった。新聞記事に写真は載っていない。二十年前当時、詩歩は生まれてもいないだろう。雨の日で目撃者もいなかった。なら、詩歩が知っていた理由はもう……。
田中は強く目をつぶった。膝の上の拳に力が入る。
――俺はどうしたらいいんだ。




