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復讐の願いが叶うとき  作者: 山口三


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36/57

36 愛


 ドアを閉めた。白木の扉は鉛のように重く感じ、閉まるまでにやけに時間がかかった気がした。


 使われたことのない客間は空気までもが冷え切っている。自分はなにを思い、ベッドの前に立っているのだったかしら?


 客間のベッドのマットレスは、確か硬めのものを選んだはず。ぼんやりと考えながら、手を伸ばした。


 体は――確かに心と繋がっていた。一歩踏み出したが、膝はガクンと折れた。硬さを確かめるはずの手は、体重を支えきれず、そのままベッドに倒れ込んだ。


 滑稽だった。自分の姿がおかしくて思わず笑いがこぼれた。笑いながらも、なぜか涙が頬を伝った。――私は感情からではなく、理性で裕磨を選んだはずだった。


 ――なのに。知佳は裕磨を愛していた。


 こんなふうに、息もできないくらい苦しい理由はもうそれしかなかった。

 裕磨だって、すべてが計算づくというわけではなかったはずだ。あの人も、最初から私を裏切るつもりだったわけじゃない。


 何がいけなかったのか、何を間違えたのか? 


 不自由さを感じない暮らし、責任ある地位。それは誰もが望むもののはず。それを手に入れていながら、どうしてこんなことを。


 私が何かしたの? 私がもっと笑っていたら違った? 私がもっと甘えていたら……。


 病院ですれ違った妊婦の姿と晴美が重なる。息が詰まって、吐くことも吸うこともできない。仰向けになって、喉元を強くつかんだ。


 咳き込みながら、手探りで枕を引き寄せた。目を開き、白い天井を見つめる。


 陽光の中、ベビーカーを押す裕磨と自分がぼんやり浮かんだ。


 愛くるしい子供の笑みにつられて、自分たちも笑っていた。自分は夫を愛している。夫もいずれそうなってくれるだろう……。


 目を閉じた。涙はもう乾いていた。そんな日は、もう来ないのだ。


 その未来は、もう誰かのものになってしまったのだから。

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