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復讐の願いが叶うとき  作者: 山口三


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23/57

23 承諾


 明確な言葉はなかった。


 だがあの日を境に、二人のやり取りは変わった。


 業務とは関係のない連絡が増え、会う理由も曖昧になっていく。それを、どちらも訂正しなかった。


 林といる時間は、不思議と疲れなかった。


 無理に会話を続ける必要がない。沈黙を埋める努力もいらない。

 それでいて、放置されている感覚を覚えることはなかった。


 ――対等な相手はいない。


 ずっとそう思っていたが、いつの間にかその前提を使わなくなっていた。


 ――どうしてかしら。


 対等でなくとも、会話は不思議と噛み合っている。以前なら、どこかで引っかかり、対等であるかどうかを無意識に測っていたはずだ。


 だが今は、それを考えることすらない。林といると、その必要がない。


 自然に言葉が返ってくる。無理に合わせることも、相手を測ることもない。それがとても心地いい。


 ただ、時折、ほんのわずかに気になることもあった。


 例えば、連絡の間隔。


 続くときは続くのに、ふとした瞬間に途切れる。理由を聞くほどでもない。だが、規則性がない。


 ――忙しいだけでしょう。


 過去の話もあまりしない。


 聞けば答えるが、自分から語ることはなかった。だが、それを不誠実だとは思わなかった。誰にでも、触れたくない領域はある。


 ――考えすぎね。


 知佳は小さくため息を吐いた。


 多少の引っかかりは確かにある。でも、それが関係を見直す理由には、到底ならなかった。




「知佳さん、最近いいことでもありました?」


 米沢晴美だ。去年入社した新人。こちらの顔色をうかがうように笑いながら、どこか熱のこもった視線を向けてくる。


「特にはないけれど。どうして?」


「ええと~何ていうか、雰囲気が柔らかくなったというか……あっ、いえ、以前がきつかったって訳じゃなくて……」


「分かってる……まあ、自覚はないけれど、そうなのかもね」


 晴美はどぎまぎした様子で必死に言葉を探している。チーフである自分におべっかを使おうとしているのではないだろう。そんな器用なタイプには見えない。


 ――こういう子は、変な方向には進まない。知佳は無意識にそう思っていた。


 


 ある日の帰り道。


「将来のこと、どう考えてますか」


 林がそう言った。唐突だったが、会話の流れから外れてはいなかった。


「……仕事も含めて、です」


 言葉は慎重に選ばれている。


「このまま関係を続けるなら、その……形式も整えた方がいいと思ってます」


 少しだけ、間が空いた。考えているというより、確認しているような感覚だった。何を基準にしているのかは、はっきりしない。


 大きな欠点はない。仕事への理解もある。距離感も適切。そういう整理が、一瞬で終わる。


 ――問題は、ない。


 それなら……これ以上、何を迷う必要があるのだろう。


「……いいわ」


 言葉は、考えるより先に出ていた。言ってから、少しだけ遅れて実感が追いつく。


 ああ、そうか。そういうことなのだと、静かに納得する。林といる時だけ、自分が少しだけ変わることには気づいていた。


 それが何を意味するのか、深く考えはしなかった。


 迷いはなかった。

 少なくとも、その時点では。





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