間章 ナカナカとキャワキャワ
弟のナカナカに勝たせる男とは、どんな弱者なのかしら?
キャワキャワ姉さん、大変だあ! 俺の『トロトロパンチ』に当たる程に遅い奴が出た!」
ナカナカは猛ダッシュで、魔王軍の支部の部屋へと入ってきた。
そこには、怪獣の着ぐるみを着こんだ、可愛らしい恰好の女子がいた。
ズン・キホーテでも買えそうな子供用の怪獣の着ぐるみ、その中には黒いツインテールを着ぐるみで少し隠した少女がいる。
「なによ、午後三時のコーヒーの時間に」
ちゅうちゅうと、旨そうに紙パックのコーヒー牛乳を飲んでいるのがキャワキャワ。
「あんた、そんなに慌てて靴が抜けるわよ」
キャワキャワはナカナカの足元にかがんで、靴紐を結び直してやった。
「ほら、いっつもアンタは靴紐が微妙に解けそうなんだから」
「んなことより、キャワキャワ姉さん! そんな愛らしい着ぐるみを着ている場合じゃないぜっ! 俺より弱いヤツがいたんだあ! それも、とんでもなくあり得ないくらいに弱い……! あれじゃ、風が吹くだけで倒れちまう!」
キャワキャワは、冷静な笑みを浮かべ、
「あんたは、なんでも大袈裟なのよ」
と言うが、
「あんなに弱いんじゃ、魔王イイコイイコ様だって危ういぜえ!?」
すると、のほほんとして佇んでいた着ぐるみのキャワキャワだが、鋭く目を光らせていた。
「なんですって!? まさか、我らの魔王様が勝つというの!? 魔王イイコイイコさまは、途方もない弱さ! イイコイイコ様がすぐにコケたり負けたりするので、我ら『最弱六公』はイイコイイコ様をお守りするためにあるのよ! その魔王様が勝つ程の弱さ……?」
「あ、あれは“臆者だ……! そうに違いねえ!」
ナカナカの言葉に眉をひそめるキャワキャワ。
「言葉は選びなさいナカナカ! “臆者”だなんて、そんな迷信を信じているの……?」
「俺の『トロトロパンチ』をまともに食らうヤツなんて、他にいねえ! あんな弱いヤツは見たことねえんだ!」
キャワキャワは、ちゅうちゅうと美味しそうに飲んでいた紙パックのコーヒー牛乳を、一気に搾り取るように飲み干した。
カーン、とゴミ箱に紙パックが当たる音が響いた。
毅然として立ち上がり、
「いいでしょう……! そこまでいうボンとやら、私が観察し、魔王様にとって危険だと思った瞬間、容赦なく負けてあげましょう!」
キャワキャワはそう言った。
「ボンよ、魔王様に万が一危害を加えようというなら、私の“秘儀”をお見せしましょう!
それまでは、たっぷりと首を洗って、湯船に浸かって待っておきなさい! 何故なら首を洗うだけだと、風邪を引くからね!」
燃えるようで萌えるような瞳で、虚空を睨む。
「流石は姉さん! 脅すようでいながらも、親切さが溢れ出ているぜっ! これであのボンもイチコロだあっ! けど奴は“みんなで臆者を決める学園”に入学するそうだぜ……? 臆者を守るための《虚弱七柱》と言われる、最弱の勇者たちがいるって聞くぜ……?」
キャワキャワは、素早く懐から紙パックのコーヒーを取り出した。
「そんな学園があるなら、そうね……こういう作戦ならどうかしら?」
キャワキャワは恐るべき作戦を伝えた。
「姉さん、親切な天使的頭脳だぜ……! これなら、学園に侵入するのはワケもねえ!」
ナカナカは改めて姉の恐るべき頭脳に恐れ入っていた。
キャワキャワの可愛さ!!




