ヨワイコの求婚
「ヨワイコ。そうよね。私みたいな天才がお姉ちゃんじゃ、イヤよね……? 強いお姉ちゃんで、ゴメンね……」
ドンガメも見かねて、
「いい加減にせい、ヨワイコ! 自分の姉に対して『天才』などと、なんという暴言じゃ!
普段から甘やかしていたが、許さんぞ!」
「お父様のせいで、お姉さまはなんでもできる超優等生なのよ! だから、家を出ることになったの!!」
ククレアは昔を後悔するように、
「ごめんね! ヨワイコ、許してね……!」
と涙ぐんだ。
ヨワイコはボンを睨み、
「ボンと言ったわね……お姉さまに手出しすれば、私も容赦はしないわ!」
ヨワイコは敵意剥き出しの視線をボンにぶつける。
「ぐ‥‥‥ヨワイコちゃん。一体、何をするつもりだい?」
僕はヨワイコからの王宮へのただならぬプライドを感じていた。
「もし、お姉さまを騙すようなことがあれば……」
「あれば……?」
拷問でもしようというのか?
「この私が、ソッコーで結婚してあげるモンね!」
ヨワイコはビシリと指をつきつけた。
「け、結婚……?」
「さあ、結婚されたくなければ、とっとと王宮から出て行きなさい!」
「ヨワイコ、客人のボンさんに失礼よ! 結婚だなんて……!」
???何かの冗談か……? この国、いやこの世界はずっとずっとみんなおかしい。
「お姉さまこそ、お人よしにコイツに騙されているのよ! いいこと、結婚されたくないなら、お姉さまには手を出さないことね!」
ヨワイコは怒りながら出て行った。
「け、結婚……?」
どうも、ちぐはぐな世界観である。
「フン、お姉さまと王宮に手出しすれば、ソッコーで所帯を持つわよ?」
「しょ、所帯を? 僕と?」
僕は戸惑うばかりだったけど、ヨワイコは階段を上がっていってしまった。
ドンガメは、
「すいませんな、ボンさん。末っ子と甘やかしすぎてああなってしまった。あれでも、王宮を守ろうとしているのじゃが‥‥‥」
ククレアも、
「すいませんボンさん。ヨワイコは本当はいい子なんですが」
と言う。
「気にしてはいませんよ」
しかし、ヨワイコのただならぬ殺気と“臆者”への思いは尋常ではない。
「しかし、ボンさん。やはりわしとしても、まだまだあんたが本当に“臆者”なのかは図りかねております。そこで、“みんなで臆者を決める学校”へと通われるのはいかがですかな?」
「“みんなで臆者を決める学校”?」
「この人口二億人のしがない国ですが、“臆者”についての文献が多く、毎回“臆者”はこの国の“みんなで臆者を決める学校”から選ばれているのです。きっと、あんたなら魔王に負けることもできる! そうじゃ、明日から入学してみればいい。手続きはすぐに済むじゃろう」
「はい!」
この異世界に来てから、何を目標にしようかと考えていたけれど、そんな学園があるなら入ってみたい。
ククレアも、
「ボンさんなら、一気に落第点取りまくり! “臆者を決める学校”では、五教科+剣やスキルの修行が待っており、『誰が最弱か?』を決めるためのよりすぐりのエリート教師が集まった駄目学園なんですよ! ボンさんなら、間違いなく『最弱』になれるに違いありません! それもひょっとすると、魔王イイコイイコに並ぶ……Z級弱者に!!」
ククレアは勢い込んでいる。
「僕がそんな伝説になれると……?」
「ボンさんこそ、伝説のダメ男、“臆者”に違いありません! 私は今までここまで弱い人を見たことがない!」
ククレアは断言する。
酷い言われようだが、その眼は、伝説の勇者を見上げるかのようだ。
「ボンさんほどの弱さ、だらしなさ、駄目さは他にはいません!」
かなり手酷い言われようだが、一応褒めてくれているらしい。
「では、ククレアさん……お願いがあります」
ボンはそう言う。
「なんなりと」
「ククレアさんも、その学園に入学しませんか?」
「え!? 私が?」
「僕には、ククレアさんの方が凄いように思う。億者というのは分からないけど、ククレアさんなら、なんにでも成れますよ!」
「まさか! 私のような強者が、臆者にだなんて!」
「どうして、そうやって自分の道を決めるの? ククレアさんは」
ボンは諭すように、
「億者とかなんだか凄いのか駄目なのか、さっぱりだけど……けれどククレアさんもその“億者”になりたいんだよね?」
「ええ、それはもう……国中の憧れの職業ですから……けれど私が成れるはずがない」
子供の夢はみんな「野球選手」「歌手!」とかだが、年が経つにつれてみんな分かっていく。 努力したからって、野球選手や歌手になれるってものじゃないことを。
ククレアの目はちょうど、そうして現実に自分の才能を悟り始めた少女のようだが、
「私は完全な超天才なんです! 五歳の頃にはほとんどの神秘魔法をマスターしていましたこんな私にできることなんて、何もありません」
嫌味や皮肉ではなく、本気で言っているようだ。
ボンは五歳の時に「サッカー選手になりたい」と思い、けれど八歳の時に自分の才能の無さで諦めるようになった。
なんせボンは八歳の時でもまだリフティングが二回以上できなかったのだ。
「ククレアさん、この世界は不思議だよ……けれど、僕に言ったことを忘れたの?
『人生を諦める程バカなことはないよ』ってそう言ったよね?」
「あ……」
ククレアは思い出したようだ。
「そ、そうですね」
「神官が、言ったことを忘れちゃいけないよ! 僕と一緒にもう一度、夢を狙ってみようよ!」
まさか、ヨワイコからの求婚!?




