エクレア王国のドンガメとヨワイコ
ククレアの王宮まで来たボン
「お父様! 国王陛下! 私の友人のボンさんです」
ボンらは『地下三階王宮・毒炭鉱所』と名付けられた部屋に来ていた。
もうもうと、緑色の粉塵が舞う中で、一人の男が裸になって頭に冠をつけて、大きなハンマーで一心不乱に岩を削っている。かなりの巨体で、布だけを体に巻き付けて、ハンマーを振るって鉄鉱石を掘っているようだ。
「なんの用じゃ? おお、ククレアか」
炭鉱夫のような男は言った。
「こちらで働いているのですか……」
ボンは少し気兼ねしながら言った。
どう見ても、裕福な家庭には見えない。
「わしは、この国の国王、ドンガメじゃ! 娘の友人かね?」
ボンは、
「え? まさかククレアさんは、この国の国王の……?」
「ハイ、娘です!」
「えええ!? じゃあ、とんでもなく偉いんですね」
異世界の片思いの人は、僕では到底釣り合わない身分なのか。
「といっても、私は生まれつきの天才S級神官……こんな才能では到底、王宮で炭鉱掘りはできないので、教会を開かせてもらってます」
ククレアは天真爛漫で、まるで身分など気にしていないようだけど、やっぱりこういう異世界じゃ、身分はかなり重要なのでは……?
「いや、わしは気にせんのだが、周囲の貴族や王族にイジメられんかと心配での。いや、よく来なすったな、客人よ。あんたも軽く労働していくかね? 1時間労働ごとに、100円の給与。しかし、控除、福祉もろもろをさっぴくと毎回五万円の借金じゃがな」
「いえ、もう借金は二度とごめんです……」
お金がないことや、借金取りに追われることは本当に苦しいのだ。
「お父様! ボンさんは、もうすでに借金が一千万円もある程に優秀なんですよ!」
ドンガメはぴくりと眉を動かし、
「な、なんと!? こりゃどこぞの“王都奴隷圏”の駄目エリートさんじゃったか……?
いや、わしなんぞ国王と偉そうに言っても、所詮は人口二億人のしがない限界集落じゃ」
「人口二億人のしがない限界集落……?」
「あんたは恐らく“王都奴隷圏”から来たエリートじゃな。一回もチョコレートを見たことがない子供が働いてるカカオ農園とか、『いただきます、は家で済ませてから来い』とか言ってくるマナー教室とかで働いていたか。あるいは『死亡してもクレームはつけない』という誓約書を書かされるお笑い養成所とかな。それとも、単純に物乞いをやったか?」
「いえ、そこまでの感じではないのですが……」
「はたまた、“ブラック御四家”の企業かな?」
「御四家? 御三家じゃないんですか?」
「ブラック御四家、ヨワイジャン家、ザーコ家、シャチーク家、そしてゼツボウ家、そうした駄目エリート家もあるからのう」
「いえ、僕はブラック企業の最大手『ダークブラック暗黒社』で……」
ダークブラック暗黒社は、テレビCMをよく打っている商社だが、基本的に“アワビの密漁”や“レバ刺しをこっそり出す店”、そして“パチンコ屋の景品をネットでそのまま転売する”などの事業を行っている。
「な……? あの、株式や日経平均を騒然とさせている『ダークブラック暗黒社』!? あの時給二百八十円で一日三十時間労働の!?」
ガラーン、とドンガメ国王はツルハシを落としてしまった。
「僕はそこで“自動販売機に落ちてる小銭を拾う、という仕事でしたが、何故か経費で毎月三十万ずつ引かれていき、気が付けば借金地獄でした……僕はできれば、この異世界で暮らしていきたいんですが……」
ドンガメは、
「なんという怪物! そこまでのエリートか! こりゃ、失礼した! ボンさんにとっては、人口が二億人で、限界集落のようなわしの国なんぞ、ちっぽけなモンじゃろう」
「人口が二億人で限界集落……?」
「お父様、ボンさんはあのナカナカに負けた程の弱さなのよ! きっと……ボンさんはあの伝説の“臆者”よ!!」
「なんと! あの、ナカナカを!?」
「ええ、お恥ずかしい……」
折角、ククレアを助けるために勇気を振り絞ったというのに、あのザマである。
「私はナカナカにスカートをめくられそうになり、思わず瞬殺してしまいそうになりました……」
「ナニい!? お前のスカートを? お前はまだ、パンツにクマのアップリケをつけているのに! 許せん!」
ワナワナと怒りに震えている。
「しかし、このボンさんは奴のパンチで秒殺失神KO! こんなに弱い人、臆者に決まっています!」
「ううむ、この人があの“臆者”だというのか? 風が吹いただけで、おびえて逃げ出し、世界をどん底に突き落としてくれるという……?」
ドンガメは驚愕に目を見開いている。
「いや、すいません……僕は臆病なもので……ナカナカにも勝とうとしたはずが、一発で負けてしまい、ほんとうに弱くて……」
ボンは自嘲気味に言ったが、
「なんという駄目自信!! いや、今日び、自分のことを『臆病』『弱い』とそこまで断言できる男も珍しい! これは、本当にひょっとすると……?」
「ボンさんの弱さなら、間違いはありません! 私も、ボンさんとなら世界を滅ぼせると思って、ここに連れてきたんです!」
しかし、階段から声が聞こえてきた。
「オーッホホホ! お姉さま、そのようなバカげた伝説を信じているのですか? 相変わらず、天才的なオツムですう」
そこには可愛らしい幼子がいた。
六、七歳くらいであろうが、金色の髪を美しく束ねており、見るからに王族だ。
「あのナカナカに負ける? そんな弱い男がいるはずがありません! なんせ、ナカナカは七歳の私でも容易に倒せるんですからね……ねえ、この大ウソつきの旅芸人! お姉さまに取り入ろうとしているの!?」
その少女はかなり気位が高いらしく、ボンを睨みつけている。
少女はもうかなり大きいのに、まだ安心毛布代わりにぬいぐるみを手放せないようだ。
「ヨワイコ!! あなたはとんでもなく弱いわ……いずれ、このドンガメ国の柱になる程の弱さと甘えん坊っぷり。まだ、そのぬいぐるみを手放せないのね?」
ククレアはにこりと笑い、クマのぬいぐるみを持つヨワイコに問いかけた。
「フンだ! お姉さまのことだから、その天才的な頭脳でまた騙されているのよ!」
「私は騙されてはいないわ!」
「ボンと言ったわね?」
「はい、ヨワイコちゃん」
「どうせ、ウチが借金だらけなのを知った上で、お姉さまに取り入ろうとしているのね! そうはさせないわよ!」
ククレアは、
「ヨワイコ! なんという口の聞き方! ボンさんは“臆者”かもしれないのに!」
「はっ、“臆者”? 風が吹くだけで逃げ出すというあの臆病者……? そんな弱い奴がいるはずがないわ!」
「ヨワイコ!! いい加減にしなさい! 客人に向かって……!」
「お姉さまに何が分かるの!? 私を放って地上60階の教会なんぞで貯金を蓄えて!」
ヨワイコの目に、少し雫が溜まっていた。
(ヨワイコ……?)
ボンはそれに気づいた。
「私との約束も守らず……!」
「ヨワイコ……ごめんね。私が勝手に出て行って寂しかったよね?」
この姉妹には何かが隠されているのか?
「本当にバカなお姉さま! あんたがいなくなって、逆にせいせいしてその日から一週間泣き続けた程よ! 寂しくなんかなかったモン!」
ヨワイコはそう叫ぶ。
「ともかく、この国の跡継ぎは私よ! 姉さんは地上六十階のしょうもないビルで、せこせこ一億円を稼いで、みんなから称賛されていればいいわ! フン、S級神官がお姉さまだなんて、私は恥ずかしくて王宮にいれない!」
ヨワイコは叫ぶ。
ヨワイコとククレアの秘密とは・・・?




