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トロトロパンチ!!

 ククレアさんは、僕を攻撃すると言っているようだけど、やはり告白するといっても「パンツを守るため」というのは無理があったか?

 ナカナカは苛立ったように、

「へっ、カッコつけやがってよお! その余裕の顔が、勝利で引きつる所が楽しみだぜ!?」

ナカナカはニタリと笑い、


「この俺の圧倒的な腕力の低さを思い知るか!? 俺は握力八キロ! その辺の子供並だぜ!?」

「・・・ワケの分からんことを言って煙に巻くつもりか、魔物め! 僕にはこの聖剣があるんだ!」

 ボンはしかし、『聖剣ボルニア』があまりに重すぎることに気づいた。

「ぐ・・・? 重い!?」

「ボンさん! その『聖剣ボルニア』の重量は、あなたでは無理です! あなたは恐らく、その辺の小学生二年生くらいの握力・・・さあ、これを!」

 ククレアは必死で木のつるぎを差し出した。

 ボンは、“木のつるぎ”を手に取った。

「ボンよ! その“木のつるぎ”で戦う気か・・・?」

 

鍛冶屋は心配そうだ。

「丈夫そうな木のつるぎだ・・・!」

 ナカナカは、

「へっ、女の前で恰好をつけて、知らねーぜ? 俺の『トロトロパンチ』に当たったヤツはいねえ!」

 ナカナカは腕をぐるぐると振り回している。

「来い・・・モンスターめ」

 ボンは吠えた。


 もはや、逃げていた臆病な自分はいない。

「でやあああ!」

ナカナカは突進してきた!

その腕は太くもなく細すぎもせず、ごく標準的な成人の腕。

そこに、物凄くゆったりした動きでナカナカは躍りかかってくる!

(うん・・・? 随分と遅いな・・・)

ボンはそう思っていた。

というか、この逆世界はそもそもみんな変である。

ナカナカは、「ふりゃあああ! トロトロパーンチ!」

と、物凄く大振りで誰でもガードできそうなパンチを放ってきた。

 それは、パンチの肘の部分だけに物凄い竜巻のような風が巻き起こっているが、肝心の拳にはなんの変哲も起きていない、という技であった。

「うおおお!? 物凄い竜巻が、肘に・・・?」

 ボンは驚いていた。

(ともかく、木の剣でガードだ)

ナカナカは、笑いながら

「ワッハハハ! 俺のパンチの遅さは、『振り始めてから、色々解説していてもまだ当たらない』という程の遅さっぷり! おっ、今ようやく腕が半分まで伸びたぞ! ガッハハ! こんな遅いパンチに当たるザコがいるはずがない!」

と高笑いしていた。

ククレアは、

「ハエが十匹は止まるわ! あんなもの、当たりようがない! ボンさん、あの肘の竜巻はパンチの威力には何の関係もないわ!」

と悲鳴を上げている。

「その通りだ! これは見せかけだけの大技よ! ふりゃあああああ! だが、それが分かった所で、この遅いパンチを食らうはずがねえ! ジ・エンドだ、ボン!」

「なんという遅さ! ・・・もう無理よ、ボンさん!」

 ククレアは悲痛に叫ぶ。

(かなり遅い・・・)

ボンは木の剣を持ち上げようとしていたが・・・

しかし・・・!

「うぐ!? 肩が!?」

凡人は三十二歳。

しかし、ブラック労働での酷使により、その肩は医者から『四十肩を通り越しすぎている』と称される程に弱まっていた!

「うぐっ!? 肩が、微妙に関節痛で!? 木の剣すら上げることができない・・・・!?」

ボンは叫んでいた。

ナカナカは、

「な? このスローパンチで、まだガードすら固めていない・・・? バカな!! まさか、こいつ・・・このトロトロパンチを顔面に食らうつもりか!?」

と唸っていた。

「ちくしょおお!! こんな遅いパンチをガードもせず、どういうつもりだ、てめえ!?」

「いや・・・肩が・・・上がらないんだ!」

 ククレアはショックを受けて、

「まさか! ボンさんは、四十肩であの木のつるぎすら持ち上げれない!?」

 ナカナカも驚愕しながら、

「クソが、ボン! こんなもんに当たるバカがいるかあ!」

「そんなこと言ったって・・・ガードもできないんだ! うぐっ、肩が悲鳴を?」

 デスクワークの時から痛んでいた肩だ。


「じゃあ、横に避けろバカめが! 後10㎝で本当に当たるぞ!? 実は当たるとそれなりにダメージがあるんだ!」

「いや・・・僕はもう逃げない、そう決めた!」

「そんな精神論を言ってる場合か!!」

そして、すでに実際に羽虫が数匹止まっているナカナカの剛腕が、ボンの顔に炸裂していた。

生まれてからずっと運動神経は全国最下位で、メンタル的にも肉体的にも打たれ弱い。

 がくん、と顎に命中し、膝が抜け落ちていた。

「こんな弱い奴見たことねえ! こんな奴に負けれるはずがねえ!ま、まさかコイツは伝説の・・・!? だが・・・あの虚弱パンチを経然と受ける・・・!」

「一体、みんな何を・・・?」

『―勝負は付きました。ボン、あなたは見事に敗北しました』

 そこに天からの声が降ってきた。

 ククレアはすぐにしゃがみこみ、両手をがっしりと結んで祈りのポーズを取った。

「運命神様ですね?」

『―はい。私は運命神、沢木ジョー』

 ボンは

「運命神の沢木ジョー? 日本人なの……?」

『―私は何人でもありません。ただ、世界の運命を眺める者、沢木ジョーです。全力を出した結果、ボンは破れ、ナカナカは勝利した』

 ナカナカは、「馬鹿な! あんなもん、ボンは加減したに違いねえ! あんなスローパンチに当たるヤツがいるはず……!」

『いいえ、ボンが全力だったことは、この運命神・沢木ジョーにはお見通し。ナカナカ、貴方は勝利してしまったのです!』

「そんな……!」

『天からの罰を与えましょう。さあ、何が出るかしら♪ 何が出るかしら♪ みなさん、雷、突風、火炎のどれかが出るので離れてください―」

 沢木ジョーはそう言う。

 随分と雑な神様だなあ、とボンが思っていると、

 ゴロゴロゴロ、と天空が鳴り始めた。

「みんな離れて!」

 ククレアが叫ぶと、

 ゴロドンピシャアっ、とナカナカに雷が降ってきた。

「ガバババババ!」

 微妙に骨だけが見える状態になりながら、ナカナカは呻いていた。

「おい、ナカナカ。大丈夫か?!」

 ボンが声をかけるが、

「くっ、この着ぐるみが『雷耐性・微弱』つきのレア着ぐるみで良かったぜ。そんなことより、キャワキャワ姉さんに報告だあっ」

 ナカナカは逃げ去っていった。

 ダメジャン街は救われたのだ!

 群集は、


「弱い・・・! あのナカナカに秒殺・・・!?」

「最弱だ! 最弱の男・・・! まさか、“臆者”・・・?」

「風で枝が揺れるだけで、逃げ出すという・・・さらに、地上最弱で全ての光をどん底に落とす、臆者・・・?」

「ウオオオオ! 最弱の臆者、ボンに栄光あれ!」

 今まで受けたことのない大歓声だ。


「ボンさん・・・きっと貴方なら、魔王にも負けれる・・・! 世界でも、一番弱いとされる魔王に負けることも可能・・・! 私がお手伝いします!」

ククレアは目に涙を溜めながら、ボンの治癒のために魔法を唱えていた。

ボンは思っていた。

(まさか・・・この逆世界は・・・?)

「ボンさん! 共に世界を滅ぼしましょう! 私も強力ながら、お力になります!」

 世界を滅ぼす?

 救うんじゃないの!?


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