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エピローグ・シンデレラの鉄指輪

私では、まだボンさんと一緒には成れない。

もっと鍛えてダメになるわ!

ククレアは体育館の裏のベンチに座り、うつむいていた。

うーん、私はなんてことをして、なんてことをなんて人の上で言っていたんだろう?

いくらニブいボンさんでも、あれでは私の想いはバレバレ。

(う、うわああああ。のわああああああ、恥ずかしすぎるウウウウ)

さっきまでの恥ずかしすぎる自分の言動に絶叫してのたうち回りたい程だ。

「お姉ちゃん、いつまでそのドレスなの?」

 ヨワイコが顔を覗かせた。

「あら? ヨワイコ」

「あら? じゃないでしょ。お姉ちゃん、まだバトルウェディングドレスじゃない」

 そう言えば、私はまだドレス姿だ。

 戦いはとうに終わったのに。

「まだ恥ずかしい思いをしてるの、お姉ちゃん?」

「うん、そりゃあね。ああ、恥ずかしい」

 ヨワイコはベンチに座った。

「ボンさんの前で、というか真上で神に祈りながら、私ったらなんてことを……」

「んもー、駄目なんだから。お姉ちゃんは!」


 ヨワイコはそう言って、人差し指を突き出し

「今更、お姉ちゃんの凄いとこも駄目なとこも、この逆世界のみんなが知ってることよ!

馬鹿ボンだってそうでしょう!」

「そう……かな?」

「ボンだって、お姉ちゃんのことをなんでも知ってるよ! ほら、さっきの戦いの中でもさ、告白しかかってたじゃん。というか、壮絶に下手すぎたけど、ちゃんと告白してた!」

「ああ、そうだわね。あれって、私はからかわれたのかと思ったけど、考えてみるとボンさんに『人をからかう』みたいな技術があるはずないし」

「そうだよ、ボンは屋上にいるみたいよ? 行って話を聞いてみれば?」

 ククレアは先刻までの勇敢な戦士の表情になり、

「そうよね! そうしてみるわ。ありがとうね、ヨワイコ!」

そして、学校の屋上へと駆けていった。

「世話が焼ける姉ちゃんねえ」

 ヨワイコはにんまりと微笑した。一方、ボンは背中にお灸を据えて貰っていた。


「うー、あジジジジ」

 ボンはジリジリと灸に焼かれていた。

 そばにいたゾッコンLOVEは、

「灸を据えるのは疲労回復にはいいんだぞ。しかし、お前には『お灸を据える』必要もある!

あのククレアへの告白、あれじゃあいくら優しいククレアでも怒って当然だ!」

「うーん、そこまで下手だったかな?」

 事前にかなり練習してから告白したのだが。

「下手どころではない! あんなもの、一言しゃべるたびに、地雷原を一周している!」

 ゾッコンLOVEに怒られ、本当にお灸を据えられた。

 彼女はお灸を取り払って「よし、もう立っていいぞ」とボンを立たせた。

「で、お前どうなんだ? ククレアへの想いは、本気だったのか?」

「そりゃ本気だよ。僕はね、会った時からククレアさんが大好きで、けれどこんな弱い僕なんか、ククレアさんの横に立つのは無理なのかなって。さっきの戦いの時も、ククレアさんはとんでもなかった! やっぱりあの人こそ、世界を救う勇者なんだよ」

「ふむ、どうやら本物の心のようだな。もし、本当のダメ人間の“臆者”でククレアを弄んでいるなら、心の臓を射てやろうかと思ったが、その心意気は良し!」

「もちろん、本気だとも!」

「じゃあ、もう一度告白してやればいい。ククレアもきっと待っている」

 ボンはうつむき、

「ううん、けどついさっき失敗して何故か怒られてしまったし……やっぱり僕じゃあククレアさんとは……」

「そんな事言ってると、本当に失敗するぞ! 人間は自分で考えてる通りの人間になるのだ!」

 ゾッコンLOVEは懐を探った。

「そうだ……キミにこれをあげよう! あの戦場の絆の印、我が家の家宝だ!」

 ゾッコンLOVEは、何やら貴金属が入っているようなケースを取り出した。

「えっ、これって?」

「これは今後のククレアにとって一番必要なモノだ! キミから渡してやるといい」

 ゾッコンLOVEはケースをボンに持たせた。

(ええ? これって指輪? いきなり婚約指輪を?)

「ムチャだよ! こんなものをいきなり」

「いいや、ククレアのような強者にこそ、こういうモノが必要なのだ。しっかり渡してくれ」

 ゾッコンLOVEは意気揚々とドアを開けて階段を降りて行った。

 ゾッコンLOVEには願ってもないような目標が出来たのだ。

「おや」

 その目標が、まだピンクのウェディングドレスを着て階段を駆け上がってくる。

 大人になる一歩手前の年齢のククレアは、ドレスの裾を両手で摘まんで必死で登っている。

「ククレア、ボンはそこにいるぞ」

「あ、ゾッコンLOVEさん!」

 ククレアは驚いたようだ。

「私もお前に追いつくからな。待っていろよ」

 ニイと微笑し、軽く拳をククレアの肩に入れてから降りていった。

「追いつく? どういう事ですか。あら、ボンさん」

 ボンはかなり緊張した様子で立っていた。

「ククレアさん! まだ、その綺麗なドレスで」

 神々しいような桃色の光を放つドレスに身を包んでいる。

「すいません、なんだか恥ずかしい恰好で」

 ククレアはなんとなく自分の身を抱きしめた。

「とんでもない! 世界一だよ!」

 ボンは言った。

「いえ。いいんです、私なんてこの艶のある白い肌と少しばかりの膨らんだ胸で、女中から

『本当にお姫さまみたいで、美しくてあれで自分がイヤにならないのかね』と嫌味ばかり言われて」

 そして段々と王家の人間なのに、全部できる事がコンプレックスになって王宮を飛び出してしまったのだ。ヨワイコは寂しかっただろうし、可愛そうなことをした。

「だから良いんじゃないか、ククレアさんは綺麗で美人で、なんでもできるから立派なんです! これは逆世界だろうと、僕が断言するよ」

 そう、こんな立派な人が貶される世界なんて間違っているんだ。

 僕はこの世界を全部否定してでも、ククレアさんを肯定してやる。

「私が? ふふっ、なんだかボンさんは来た時からおかしな事ばっかり言ってくれます。まるで、本当に私みたいな駄目天才が認められる世界があるかのような」

 そうだ。ボンはいつも変わらない。

 けれど、初めて会った時よりもなんだか精悍な顔つきになってる気がする。伝説の臆病者、億者になるはずのボンだけど、今はこれでいいのかもしれない。

「僕、改めてククレアさんに言いたいことがあるんだ。あのね、あの時は変なことになっちゃったけど……僕はね、やっぱりこんなに弱いけど、ククレアさんの横に並びたいんだ」

 ククレアは身構えた。

(私の横に? この最弱級のボンさんが、天才である私なんかと? 本気なのかしら?)

 前の件もあり、ククレアは慎重になっていたが、期待に胸が鼓動していた。

「僕は……あ、そうだ! これを、プレゼントに……!」

 ボンは思い切ってゾッコンLOVEから貰った指輪ケースを取り出した。

「え」

 ククレアは心が鳴るのを聞いた。

「僕、これをククレアさんに!」

 そうだ。この中は婚約指輪……に違いないだろう。さっきゾッコンLOVEから、あの会話の流れで貰ったんだから。

 ククレアは頬を紅葉させて、指輪ケースを開いた。

 そこにあるのは。

「あっ、これは!」

 呻くククレア。

「ええっ!?」

 唸るボン。

 それは、金属のナットだった! 工事現場とかに落ちている銀のナットであった。

 それ以外の何物でもなかった!

 その頃、ゾッコンLOVEは弓を引き絞り、的に向かっていた。

「まだ練習するの?」

 ヨワイコが声をかけていた。

「私にあるのは弓だけだ! 必ずククレアを超える。だが、ククレアは弓の扱い方については、まだ改善の余地があると思ったのだ」

「へえ、お姉ちゃんにねえ」

「そこで我が家の家宝である“工事現場のナット”を与えたのだ!」

「ナット?」

「指にハマるナット、あれは指先を鍛えるのに最適なんだよ」

「へーえ」

「ボンを介してククレアに渡して貰ったし、上手くいくだろう。目標のククレアはさらに強くなり、ボンとも仲良くなる、一石二鳥だ」

 ゾッコンLOVEは気分良さそうに鼻歌を歌っている。

「え……ナットをボンを介して、お姉ちゃんに……?」

 それはなんだか、物凄い勘違いが起きそうな……

「こ、これは! ボンさん! まさか、こんな鉄のナットを?」

 ククレアは驚愕していた。

「うわわ! あのその、違うんだ! これは!」

 なんだこりゃ!? 指輪じゃなく、ナット? 工事現場とかにありそうなナット!?

こんなのを送るなんて最悪じゃないか!

「ボンさん、私……私、これは。これを……」

「いや、その……」

 ククレアの肩は震えている。

 また怒りで海の彼方まで吹き飛ばそうというのか?

「これを……一生の宝物にしますね!」

 少し涙ぐみながら、ククレアは精一杯の笑顔をボンに向けた。

「え? これを宝物?」

「私に鉄のナットなんて、物凄く嬉しいです! これはダイヤモンドの指輪の千倍の価値があるんですから!」

 そして、ボンからの贈り物なら一万倍だ!

(もちろん、今の私の『強さ』では、ボンさんと結ばれるのは難しい)

 なんせ伝説の“臆者”になる人なんだ、もっともっと弱くならないと!

「そ、そうだよね……そうなの?」

 ゾッコンLOVEはこれを見越していた?

 そうでも無さそうに思うけど、まあいいか。

 ククレアさんは喜んでくれてるようだ。

 ボンは、

「僕はククレアさんみたいに(強く)なるね」

 と言い、ククレアは

「私もボンさんのように(弱く)なります!」

と言った。

 二人はすれ違いながらも、同じように決心した。

 そして、どちらからか、あるいは両方からなのか、ともかくお互いの想いをようやく確認できたので、二人らしくぎこちなくも誠実に唇を合わせた。

 夕焼けの屋上に、少しだけ寒い風が吹きつけたので、二人が体を寄せ合うには都合が良かった。


いつかククレアさんのように強くて立派な人になってから

今度こそキチンと告白だ。



……みなさん今までご愛読、ありがとうございました!

★☆☆で応援していただければ、ボンとククレアも喜びます!

ではまた、どこかでお会いしましょう。

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