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今にも折れそうなカタナと心

ッポン!!

そして、ボンたち一行は、二階へとたどり着いた。

しかし、正確にはボン、ククレア、ヨワイコ、キャワキャワ、ジンチェンコの五人だ。

ローレンス琥珀は「私は身動きできない状態に疲弊して、他の人とは戦えないわ。つまり他は全て私の“不戦勝”。ルール上は七人とも二階へいっていいわ」

というが、ゾッコンLOVEは「この私が、勝負にケリがついた後での情けを受けると? 姉上、あまり舐めないでもらいたい!」と一階に留まる決意。

 城ケ崎は、「ゾッコンLOVEさんを、ローレンス琥珀と二人にするのは危険な気がする……ここに残るわ」

 とのことだ。

 ボンたちはようやく“体育館っぽいタワー”の二階へとたどり着いたのだった。

 埃のついたステンドグラスは、何故か外から黒い板で覆われているようだった。

 儚げに空を仰いでいるような刀が一本、粘土の中に突き刺さっていた。

「え……?」

 ボンは唸っていた。まさか、いやけけれど、まさかそんなはずがない。

“五重の塔っぽい体育館タワー”は、その名称の通りに五重塔のように五段階に建物が隔てられているのだ。

 ククレアは、


「あれこそが、伝説レジェンダリーな“今にも折れそうなカタナと心”です! 私も体育の授業中に、何度か見に来たことがあるんですが……なんて、儚げで今にも折れそうな弱さと脆さなんでしょうか?」

 うっとりとしながら、刀を見つめる。

「えええ! に、二階で終わり!? この塔、五階まであるのに、二階に“今にも折れそうなカタナと心”があるって! しかも、誰でも抜けそうなただの粘土に突き刺さってるじゃんか! じゃあ、この建物の三階から五階はなんのためにあるんだよ!?」

 一気にツッコミを入れるボンであった。

 ククレアはため息をつき、

「ボンさん、この“五重の塔っぽい体育館タワー”は、別に誰も一言も『五階まで全部上がれ』とは言ってませんよ」

「け、けれど、普通はこういうので“五重の塔”って一階ごとにボスがいるはず! なのに、さっき階段に“幻覚のジャ……”とかいうのがいて、すでにジンチェンコさんが倒して」

「“五重の塔”だからって、一階ごとにボスなんて決まりはありません! そもそも、ここは校長の所有物で、三階は校長専用のプール、四階は寝室とトレーニングジム、そして五階は趣味のプラネタリウムとなっているんですよ」

「こんなん、イチイチ五重の塔みたいにする必要ないじゃんか! というか、僕らの冒険、二階で終わり? それでいいの!?」

「ボンさん、いくらなんでも建物にツッコミは失礼ですよ! もう、本当にどうしてなんでもかんでもツッコミなんです?」

「みんながツッコまなさすぎるんだよ!」

 と、ボンとククレアはいつものやり取りをした。

 ヨワイコは、

「ともかく、この弱々しくて脆そうな刀を抜くんだよね?」

 粘土に刺さっている刀に近寄る。ククレアは

「ヨワイコ、そっとやるのよ。あなたの小さい手でも、そのカタナはすぐに……」

「分かってるって、姉さん」

 ヨワイコは軽く腕まくりをした。

「も、もうヨワイコちゃんが抜くんだね、伝説の臆者だけが抜けるという、“今にも折れそうな心とカタナ”を!」

 ボンは唾を飲み込む。

「任せてよ、みんな! 私はこのドンガメ王国を守るため、これでも弱くなる‥‥‥それこそ『Z級弱者』になるために、父上がヨワイコと名付けてくれたのよ。こんな、粘土くらい“弱火”の私にかかれば……!」

 ヨワイコは、繊細にその刀の柄を掴んだ。

「ヨワイコ、頑張って!」

 ククレアが言った。

 ヨワイコは自信家の笑みを見せ、

「ぬううう、フン!」

と気迫と共に一気に刀を抜き去った!

 それは少し鈍く光る、しかし少し儚げな温もりを感じさせる刀身であった。


 ボンは、

「うわああ! やったよ! ヨワイコちゃんが抜いた! つまり、“億者”だったんだ…‥ってあれ? どうしたの、みんな。『校庭に入ってきた犬を、用務員が追い出しちゃった』みたいな残念そうな顔をして」


 ヨワイコは拗ねたように、

「そりゃ残念な顔にもなるよ、バカボン! これは、アッサリと抜けたら駄目な刀なの!」

と怒っている。

「そうですよ、“今にも折れそうな心とカタナ”は、名前通りに、抜いた瞬間に刀身がボキっと折れないといけないんです! そう、東洋の武家が三本の矢を束ねても『所詮は矢だから、力を込めれば折れるでしょ』と確信を持ってボキっと折るように!」

「それは普通は『三本だと折れない』っていう寓話なんだよ。それに、んなムチャな! 伝説の剣を、抜く時に折らないといけないなんて!」


「そういう決まりなんです! ボンさん、伝説の剣の抜き方へのツッコミは失礼ですよ!」

 ヨワイコは目元に雫を溜めながら、刀を粘土の中に埋め直した。

「グッスン。わ、私は別に“臆者”になんかなろおうと思ってなかったし、これは悔し涙じゃなくて、季節外れの花粉症なんだからね。フンだ!」

 ヨワイコは、体育館の二階の隅のマットの上に腰を降ろした。

「ヨワイコ……気を落とさないで! お姉ちゃんが仇を討つからね」

 ククレアはニコリと微笑みかけた。

「けど、お姉ちゃんは超天才なのに…‥単純なパワー勝負でも、その辺の戦士や剣士を軽く捻れるくらいでしょう?」

 心配げなヨワイコ、

「大丈夫よ! 私は努力する天才でもあるの!残念なことにね。私はこの十年を『壮絶に手加減して、力の百分の一までしか出さない』という練習だけに費やしてきたのよ!」

「ええ?! お姉ちゃん、それであんな禁忌型ミノタウルスなんて最強魔獣を倒して?」

「残念ながら超天才ですもの! 私に任せて!」

 ククレアも腕まくりをして、“今にも折れそうな心とカタナ”へと向かう。

「お姉ちゃん頑張って! というか力を抜いて!」

 ヨワイコはマットの上に座ったままだ。少しばかり、マットの下を気にしてる。

「あれ?」

 ヨワイコはマットの下がモゾモゾと動いているのを、お尻に感じていた。

 なんだろう? とマットから降りてみると、四重に重ねられたマットは少し、いやかなり膨らんでいた。

「ヨワイコ、見てなさい。お姉ちゃんがカタナを!」

と、軽―く指で触れただけで、

ポン! と音がして“今にも折れそうな心とカタナ”は空中を舞ってからククレアの手元に収まっていた。

「ああ、そんな! 物凄い加減して、指でちょんと突いただけで綺麗に抜けるなんて!

やはり私には『力を抜く才能』が無いんだ…‥!」

 嘆いているようだ。

「お姉ちゃん、そんなことよりなんかこのマットの下に誰かいるよ!」と、ヨワイコ。

「そんなこと? 私がこのカタナのためにどれだけ『手加減の努力』を……」

 しかし、キャワキャワも

「待って、ククレア! まだ敵がいるのかも……」

 と、周囲に視線を配りつつ、さりげなくボンの背中をかばう姿勢を取る。

 ヨワイコは、「よいしょっ」とマットから飛び降りた。

「なんか、お尻がムズムズする。誰かいるのかなあ?」

 ヨワイコはククレアの隣まで歩いていって、首を傾げる。

 キャワキャワは、


「まさか、こんなマットの中に隠れている馬鹿がいるはずが……」

 その瞬間、マットの中から汗まみれの男が飛び出てきた!

「いるんだよ。この愚か者どもめ! 俺の弟分をよくもやってくれたなあ!?」

 それは、中肉中背の男だった。緑色の帽子をかぶり、ぜえぜえと荒く呼吸をしている。

「敵か!」

 ボンは“木のつるぎ”を手に取り、構える。

 ククレアはヨワイコを守るように前に出る。

「キシシシ! マットの上から踏みつぶすとは、よくもやってくれたものだ」

 男は、ひらりと身を翻す。

 さらに、体育館の二階の天井から釣られていた微妙な形のシャンデリアから、ひらりと舞い降りてきた女性がいた。

「タダで生きれるとは思わない事ね! しっかりお金を払ってもらいましょう!」

 シャンデリアから素早く降りてくるのは、金色の長髪に少しカールをかけ、黒いスーツに身を包んだ女だった。


ボンさんはツッコミ癖が強すぎますわ。

けれど、この悪そうな女性は何なのかしら?

ボンさんは妙に女友達が多いわねえ……

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