肝心な所での”幻覚のジャ”が台無しに
ボンはついに言ってしまった、と感じていた。
「ひ、惹かれた……? それはつまり?」
ボンはこくんと首を縦に振った。周囲のゾッコンLOVE達も一安心した。
あまりに間抜けすぎる、ボンの告白の仕方だが、ここまでくれば成功したも同然だ。
そのはずだった。全ての人が忘れていた。
ボンがどれだけの間抜けのドジかということを。
『スキルボール・発動』
キャワキャワが持っているスキルボールが言った。
「ええ?」
キャワキャワは唸った。
『ボンのスキル強化・『ドジ・強』が『壮絶ドジ・改』に進化しますー』
ゾッコンLOVE,ヨワイコと城ケ崎は呻いた。
「「「な……!」」」
あのドジのボンのドジっぷりが、この瞬間にさらに強化?!
「え? な、なんでスキルボールがいきなり。というか、キャイーンさんは何故キャワキャワさんのようにスキルボールを持っているんでしょうか?」
ククレアは不思議そうに首を傾げた。
「ぐ……こ、これはその辺で誰でも買えるのよ! 百円均一の店でもたまに置いてるわ。さあ、気にせず続きを!」
キャワキャワは必死だ。
「そうだよ。僕のドジっぷりは、関係ない。そうだよね? ククレアさん」
「はい、そうです……!」
ククレアも気を取り直して、ボンの台詞の続きを待った。
「僕は、一目……ククレアさんを見た瞬間から!」
「ハイ!」
「ゆ、優里亜ちゃんの金髪を思い出して、初恋の優里亜ちゃんのね! 本当に可愛くていい子だったなあ」
「……」
「そして、城ケ崎さんもゾッコンLOVEさんも、みんな美人で城ケ崎さんとか、初めは剣呑な雰囲気だったけど、実は縁の下の力持ちって感じだし、さらにキャワキャワさんも体型は丸っこいのを気にしてるけど、それもなんとなく可愛い感じだよね。けど……」
「ええ、そう……ですよね」
北極のように凍てついた表情のククレア。
「けど、僕は思ったんだよ……やっぱり誰もククレアさんには敵わないってことがね! そう、それが僕の本当の気持ちさ!」
やった……!
ついに、一目ククレアを見た時からの素直な感情を伝えることができたぞ。
僕が臆病者の臆者なんて、どうでもいい。ありのままの気持ちを、純粋に伝えることができれば……あれ? ククレアさんの表情がおかしい?
養豚所から追い出された飼育員を哀れむような視線に戻っている……いや、城ケ崎やゾッコンLOVEさん、ヨワイコちゃんまで、何か呆れかえってただ哀れむような視線を……?
「そうですか! よく分かりました! 要するに、ボンさんは私のことを、初恋の優里亜ちゃんと比べながら! さらに、ゾッコンLOVEさんに城ケ崎さんと……髪を染めてればなんでもいいんですか!?」
ククレアの周囲に、黄金の色の風が集まってくる。
「そうじゃないよ! キャワキャワさんは黒髪のストレートで、なんだか可愛いし」
「ちょ、ボン!?」
キャワキャワは顔を真っ赤にしながら、
「あ、あんたククレアに告白するんじゃないの? いきなり、馬鹿にも限度があるのよ! わ、わたしなんか放っておきなさいよ!」
ククレアはくるりと振り返り、
「キャワキャワさん? ボンさんはそう言いましたね。というか、声も長い黒髪もちょっと丸くて可愛い体型も、キャワキャワさんそのものじゃないですか!! 二度までも私を騙して!」
「あんたが気づかなすぎるだけよ! そして、私の体型は丸くないわ! 足腰を鍛えているだけよ!!」
ククレアは、鼻から「ムフウウウウウウ」と息を吐きだした。
「着ぐるみ魔王軍の一角であるキャワキャワさんにまで、恋心を抱き、それで色々考えた結果でとりあえず私を選んでみたと……ようく分かりました! ここまでからかわれたのも騙されたのも、生まれて初めてです!」
ククレアは、黄金の風を巻き起こし、その中心で笑みを浮かべていた。
「ここまでの怒りと悲しみ……生まれて初めてです。……この嘘つきの卑怯者! 信じた私が馬鹿だったようです!」
「えええ? どうして?」
ククレアは呪文の詠唱を始めた。
「愛しき黄金の泥よ! 何故に、悪意と慈悲を同じ色彩にしたのか!? 何故、貴方はそこまで残酷で慈悲深く、世界に泥のような風を送ったのですか……!?」
ボンは叫んでいた。
「な、なんか凄い呪文詠唱だよ! 禁忌型ミノタウロスをやっつけた時のような! ねえ、冗談だよね、ククレアさん! 僕みたいなのがそんなもの受けると……!」
ククレアは瞳から雫を落とした。
「はい!ボンさんに万が一のことがあれば、私もその場で命を絶ちます! 神官として……そして、一度はこんなウソツキに心を許してしまった罰として」
ヨワイコは、
「ち、違うよ! お姉ちゃん! ボンは馬鹿ボンすぎて、本気で告白したんだけど、女の子の地雷を踏み抜きすぎたんだよ」
「まさか! いくら、ドジ馬鹿のボンさんでも、ここまで至上最悪の告白をするはずがない! ずっとからかっていたんですね……!」
もはや、止めようが無い程の黄金のどす黒いオーラが、ククレアの周囲で竜巻のように渦を作っていた。
ゾッコンLOVEは弓矢を構えた。
「ええい、ボン! ここまでどうにもならん奴は見たことない! 仕方ない……肩に“痺れ矢”を」
弦を張る。
「ゾッコンLOVEさん! まさか、ククレアさんを!?」
ボンは叫ぶ。
「そうしないと、周囲は壊滅だ! ククレアは神秘魔法の超天才! その気になれば、学校ごと消し飛ばせるくらいの魔力があるんだ! お前が怒らせたんだぞ!?」
そんな! 大好きだった人に、人生で初めての告白をしたはずが……!
「ドゥルルルルル。ジャジャーン! 誰が最弱か!!」
それは、ローレンス琥珀。
「姉上!? 今は、それどころでは!」
「LOVEちゃん、私たち“凍てつく雷鳴”家の苗字、伊達ではないのよ。今から私のスキル……『時には友達を、知らずに傷つけてしまうこともあるじゃん(白実)』を使うわ!」
「白実?」
ローレンス琥珀は、魔力を集中させているようだ。
「効果は、『二秒間、対象の魔力を消滅させる』というものよ」
「魔力の消滅!? スゴイじゃないか、姉上!」
ゾッコンLOVEは嬉しそうだ。
「ええ、それなりに危険もあるけどね。いいね、LOVEちゃん、ククレアは紛れもない怪物! あの禁忌型ミノタウルス……ククレアがいなければ、この人口2億2千万の国ごと崩壊させてたでしょうね!」
「ああ、あんな強力な悪魔がいるなんて……!」
ゾッコンLOVEも、震えていた。
「けれど、あの禁忌型ミノタウルスをも倒すのがククレア。けれど、恐らく彼女は能力を神秘魔法にかなり割り振っている……単純な腕力なら、毎日弓の弦を引き絞っているLOVEちゃんに分があるわ! 私がスキルを発動したら、ククレアを抑え込んで!」
「……ええ!」
ソッコンLOVEは駆け出して行った。
一方で、ククレアは涙も枯れ果てたようにぼんやりと虚空を見上げていた。
「おお、神よ。哀れみたまえ! 一時でも……このウソつきに心を許してしまった自分を。しかし、この手でケリをつけます! そして、その後は私も……神の身元へ!」
ボンは、両手でククレアの肩を掴んで、
「落ち着いてえええ! 僕はウソなんかついてないって! ありのままの気持ちを……!」
「おお、哀れみたまえ!! 臆者ボンを哀れみたまえ!」
体育館は凄まじい黄金の突風に覆われていた。
「今よ、LOVEちゃん!」
ローレンス琥珀の叫びが木魂した。
「『時には友達を、知らずに傷つけてしまうこともあるじゃん!(白実)』
同時に、黄金の突風が消滅する。
「あ……?」
ククレアは衝撃を受けると同時に呻いていた。
自分は神秘魔法の天才。
ずっとコンプレックスだった。
それだけに、自分の魔力が瞬時に消滅させられた事など一度も無かったのだ。
「ククレア! 目を覚ましなさい。みんなも飛び掛かって取り押さえて!」
ゾッコンLOVEは一気に、ククレアを羽交い絞めにし、さらにボンとキャワキャワも続いた。
「く……放して! ボンさんを吹き飛ばしてから、私も死ぬ!」
「落ち着いて、ククレアさん! 僕はからかってなんかいない!」
「そんな……じゃあ、どうしてあれだけ私を怒らせながら、まるで告白するようなことを!?」
ヨワイコは、
「お姉ちゃん、ボンが究極のバカボンで、どうしようもないグズだってことを思い出して!」
「そ、それにしても限度があるわ!」
そこに、ローレンス琥珀の落ち着いた声があった。
「いや……ククレアよ。私も傍で見ながら、『コイツ、女の地雷を一言ごとに何回踏み抜くんだ?』と戦慄する程のグズのどうしようもない人間だ。だけど、恐らく本当にただグズでドジなだけで、お前をからかってはいないようだぞ?」
ククレアは、はっとしたような表情になり、
「ま、まさか…じゃあボンさんは私をからかったんじゃなく、ただ、本当に間抜けすぎるからというだけで、あんなことを……私は怒りのあまり、大陸の彼方まで吹き飛ばそうとしていたのに……」
「それが馬鹿ボンだよ、お姉ちゃん!」
ヨワイコに諭される。
「グッスン……そうでした。私は、運命神に使える身でありながら、なんと酷いことを……ボンさんが壮絶なグズ男ということを忘れていた、『決して卑怯ではない』ということ」
ククレアは、膝から崩れ落ちた。
「そうだぞ、ククレア。圧倒的な神秘魔法のオーラに冷や汗をかいたが、ボンはただ焦って女の地雷を瞬時に踏み抜き続けただけだ! つまりは普段通り!」
ゾッコンLOVEは断言する。
「あ、あれ? 僕は……その、本気でククレアさんに、モガっ!」
その口をキャワキャワが塞ぐ。
「もう、これ以上は良しなさい! 気が立っているククレアに今、ドジのあんたが何を言っても無理よ」
「そんな……」
「海の彼方まで吹っ飛ばされたいの? さあ、階段を上がりましょう」
キャワキャワは何故か、かなり安心しているが、何故自分がそうなっているのかはあまり考えないことにした。あまり良い結論になりそうもない。
「フウ……どうやら、私の力は尽きたようだ。さあ、二階へと上がるがいい」
ローレンス琥珀はそう言った。
「へえ、随分と余裕ねえ」
城ケ崎が聞く。
「あなたたちの力の底は見えたわ。そのひ弱さでは、階段を二階まで上がることができるかどうか、という所ね」
ローレンス琥珀はクスリと笑った。
「まさか、階段にも誰かが待っていると?」
城ケ崎は少し緊張している。
「クスっ、あなたがあの“幻覚のジャ‥‥‥」
ローレンス琥珀が言った瞬間、
ばこん!
というまるでサッカーボールが誰かの顔面に直撃したような音が鳴った。
「え?」
ボンはしばらくの間、階段の方向を見ているとゆっくりとリフティングしながら階段を降りてくるジンチェンコが現れた。
「ジンチェンコさん!? もう二階へ? そういえば今まで何処に?」
ボンが聞くと、
「ああ、ローレンス琥珀との戦いは長引きそうだが、別に『他の奴が二階へ行っては駄目』というルールもない気がしたんな。階段の踊り場に、変な緑色帽子をかぶった男がいて『クハハハ、ここでお前らの旅は終わりだ! 俺は“幻覚のジャ……』と言ったんだが…なんというか小説を読んでて『誰かが幻覚見てるシーン』って一番萎えるだろ? だからボール蹴って顔面に当ててから、普通に柔道の”裸締め“で首を絞めたんだ。そして逆世界だから『落とされたくなかったら、”勝ったぞ!“と勝利宣言をしろ』と脅した。その”幻覚のジャ……“という本名不詳のヤツはそうしたよ。……まあ、そういう表情をするな。俺も暴力は嫌いだが、とにかく『小説の幻覚のシーン』ってのが嫌いでイライラしてくるんだ。さあ、ともかく階段の途中の奴は片付いた。先へ進もう」
と、ジンチェンコは説明した。
一同はそれに従った。
我こそは、闇よりの死者! 幻覚のジャ……




