ククレアの怒髪天
ボンさんって、私をからかってたの!?
そして、ナカナカとの勝負に負け、とんでもなくみんなから認められたんだ。
こんなのは生まれて初めてのことだ。
「そして、城ケ崎もなんだかんだで優しいし、なんか妙に日サロにいってピンクの髪で馬鹿に見せかけてるけど、普通の黒のストレートの方が可愛いんじゃないかなって思うんだ」
城ケ崎は、
「あ、あんたアホの間抜けにも程があるわよ! あんた、今からククレアに告白するんじゃないの? なんでいきなり私を褒めだすのよ!!」
さらにヨワイコも
「馬鹿ボンにも限度があるです! この凡才馬鹿ボン!! もう罰としてやっぱり結婚してさしあげますよ!」
ククレアは、再び全ての物事、粒子や魔法の全てに興味が失せたような眼で、ボンを空気のように眺めていた。
「それで? 城ケ崎さんが、私よりも可愛いと? それが言いたかったのですか? 良かったですね、ステキな可愛い人が回りに大勢いて……」
「え? そうじゃないよ。城ケ崎さんは、ピンクの髪は似合わないなあって。あ、そうだ!」
ボンは思い出したように自分の手を叩いた。
「ゾッコンLOVEさんも、強くて頼りになるよねえ。どうやら僕と同じ世界から来たような感じで、おかしな名前だけど、銀髪で強いゾッコンLOVEさんにはぴったりの名前なのかもしれないね! ね、その瞳にゾッコンLOVEさん」
ゾッコンLOVEは
「なあああ! お前、ボン。私は現世でそれなりに告白されて、全員振ってきたけど…ここまで最悪な告白は見たことも聞いたこともないぞ! お前、今からククレアに告白するのに、周りの女を全員褒めてどうする気なんだ!? 逆世界といっても、『物事には限度がある』ってのと『限度はなんとなくみんなの雰囲気で決める』というのは全世界で共通なんだ! ボン、目を覚ませ!」
と叫んだ。
ボンは狼狽えていた。
「えええ? ゾッコンLOVEさんまでもが……? おかしいなあ、僕は何か変なことを? だって、ゾッコンLOVEさんは、僕と同じ世界から来て、そして銀髪で頼りになるし、物凄く美形だし。その瞳にゾッコンLOVE、ってヘンテコ名前も初めはおかしく感じていたけど、今ではLOVEさんにはぴったりかなあと」
「やめろお! ボン、とにかく全部を止めろ。私のフルネームを呼ぶのも、やたらとなんでもかんでも女子を褒めまくるのも辞めろ、まだ一縷の望みはある! 見ろ、ククレアのお前を見る眼……待ちわびていた台詞を受けとめようと真剣に見つめていたのに、今では養豚所から追い出された飼育員を見るような、美しくも冷酷な白夜のような視線を!」
ククレアは、ゾッコンLOVEの言う通り、さっきまでは頬を紅に染めて視線を左右に振っていたはずが、今ではボンに養豚所から追い出された飼育員を哀れむような視線をぶつけている。
可哀そうだけど、全て自業自得よね、と言わんばかりである。
「そ・れ・で? ゾッコンLOVEさんに、ずっとずっとゾッコンLOVEだということはもうとっくに知っていましたよ! フン…S級神官の天才の私をボンさんのような超臆者がからかって、さぞ楽しかったでしょうね!」
「ち、違うよ! ゾッコンLOVEさんのことは、ただ単に強くてカッコいいなあと。ククレアさんへの想いのようなものじゃないよ!」
「けれど、少しはゾッコンだったんですね! もうよく分かりました!」
「待って! ククレアさん、とにかく…‥最後まで話を聞いてください。ひょっとするとまた、とんでもない魔物が出て今度こそ本当に死ぬかもしれないじゃないか、そうでしょう?」
そう言うと、ククレアも黙り込んだ。
この逆世界も実は案外死と隣り合わせ。まさか、禁忌型ミノタウルスなんて途方もない代物はいないにしても、ククレアが倒すのに苦戦する魔獣は普通にいるのだ。
「お姉ちゃん、バカボンは馬鹿すぎるだけよ! 今までのボンの行動を信じてあげて!」
とヨワイコも声援を送る。
「そ、そうですね…‥ボンさんは駄目な臆者だけど、卑劣なことはしない人です。だからこそ、私も……ええ、そうですよね!」
ぐ、とククレアは気を取り直そうと拳に力を込めた。
「さあ、ボンさん! 続きをどうぞ、是非……言葉を選びながら」
「うん……つ、つまり! 僕のありのままの気持ちを伝えるよ!」
ボンも覚悟を決めて頷いた。
「僕は、ククレアさんに会った時から…!」
ククレアもまた期待を込めたように見つめ返す。
「ゆ」
「ゆ?」
「優里亜ちゃんみたいな金色の髪でステキだなあって!」
「優里亜ちゃん!? また優里亜ちゃん、ていうかただ単に髪の色で!?」
「そうじゃなくて、強くて優しいし、それはゾッコンLOVEさんもそうだし……敵とはいえキャワキャワもなかなか手ごわかったよね。それに体形が丸いけど、弟思いでさ」
「敵であるキャワキャワさんまでも!?」
ククレアは歯を噛みしめている。
「な、なんで怒るの!?」
「これでも怒りを抑えているんですよ。……以前に私に最後に求婚に来た、ゴウマン国の男爵は『生まれつきの超天才とは嘆かわしい。私が拾って差し上げましょう』と抜かしたのでフフ、全力で“黄金の突風”を叩きつけたら、空の彼方まで飛んで行って、五百キロ先の海で発見されましたねえ。クッフフ、あの時よりは怒ってないので安心してください!」
「えええ?」
ボンは告白しようとしているククレアが何を怒っているのかサッパリだ。
ヨワイコは、
「お姉ちゃん! “黄金の突風”なんて、S級神官の中でも限られた“王翼”の血脈を持つ人にしか使えない神秘魔法よ! そんなのを弱いボンに放ったら……」
「ええ、だからヨワイコ。言っているでしょう? ……『あの時程は怒っていない』、と」
ククレアの美しい黄金の髪が、炎に炙られたように逆立っている。
(なんで、怒ってるの? ククレアさん……)
やはり、僕みたいなのがこんな強くて立派なククレアさんに告白するというのがまちがいだったのかな?
気弱に、考えるボン。
一方、ククレアはその眼に少し雫を滲ませ、
(やっぱりボンさんのようなエリート駄目人間が、超天才の私のことなんか…全部は私の勘違いだったのかしら)
怒りで天を突く金髪を、わずかに揺らし、しならせた。
「お姉ちゃん、バカボンを信じてあげて! さあ、ボン! さっさと言うべきことを言いなさい! でないと、罰としてケ、ケッコンするわよ!」
ヨワイコは必死で叫ぶ。
「ヨワイコちゃん……」
ボンは呻く。
「ヨワイコにも好かれて、さぞモテて気分がいいんでしょうね! どうせ、私なんか……」
不意に、ボンはククレアの肩を両手で抱いた。
「あ…‥どうしたんです!? そんな小学二年生くらいの優しい握力で……」
ククレアは頬を桜色に染めた。
「どれだけ弱くても、これはいうよ、ククレア! ……いいかい、最後まで聞いてくれ!」
「……は、はい……!」
ククレアは顔が紅くなるのを感じながら、ボンの視線を受け止めた。
「僕は、この逆世界で初めて目を覚ました瞬間、君と出会った。僕がいた現世とは違うヘンテコ世界だけど、生き返って本当に良かったよ!」
「はい……私もボンさんが物凄いエリート臆者だと知って驚きました……けれど、ボンさんの不思議な魅力はそれだけじゃない」
「今はそんな“臆者”なんかどうでもいいよ! 僕はククレアさんの勇敢さと強さに惹かれたんだ!」




