告白、ククレアさん
ついに思いを告げるボン
「どわっ」
「キャイーンさんと、どこへ?」
キャワキャワは、
「あは、奥の階段を見てこようかな、とそう思ったのよ!」
「なるほど、先を読んでの素晴らしい作戦ですね! 流石にキャイーンさんです! 私も……いつかキャイーンさんみたいに、誰からも頼られるようなステキな女性になりたいなあって思っていて」
「アハっ、そ、そこまで大したモンじゃないわよ?」
「いいえ! それが、私は少し前、とんでもないだまし討ちに遭ったんです‥‥‥!
物凄く親切な教官だなあ、と思っていたら‥‥‥なんと変装した着ぐるみ魔王軍の一人、キャワキャワだったのです! あんな酷い裏切りは許せないわ!」
怒りに肩を震わせている。
「ククレアさん? その、一体なんでそこまで『騙す』ってことが許せないの?」
ボンは少しおびえながら聞いてみると、
「ええ、私は小さい頃の絵本『嘘つき少年と猿とフリル』というのが大好きだったんです。
戦時中で、捕らえた兵士や反逆者はみんな四月一日に処刑されるという残酷な世界で、フリルはお猿さんと仲良く暮らしていました……」
城ケ崎は、
「子供の時に誰でも読む絵本ね」
と言った。
「けれど、フリルはある時敵の少年兵士と出会いました。飼っていた可愛い猿と少年兵士を逃がしてあげようとするんだけど、逆に少年に裏切られて銃殺されてしまう猿と一緒に、という悲しい悲劇だったのです!」
ククレアは拳を握りしめている。
「だからこそ、ウソはサイテーなんですよ。そうに決まっています!」
ボンとキャワキャワは、
「「そ、それだけ? 絵本の内容であんなに怒るの!?」」
と、同時に叫んだ。
「だって、許せないじゃないですか」
ククレアはプンスカと鼻息が荒い。
「また、そこから猿のエイプそしてフリルが四月一日に処刑されたことから、『エイプリルフール』という、みんなでウソをついて騙し合う、というしょうもない遊びが流行ってしまい……! ただでさえ嘘つきが嫌いなのに、なんで年に一回、みんなでウソをついてるのよ! ボンさんよりも酷いアイデアの持ち主が考えたのね! エイプリルフールとウソに関しては私は許せないです! あの絵本、子供の時に252回読んで251回目までは毎回ラストのフリルちゃんの首に縄がかけられるシーンで号泣するので、最後の252回目で途中で読むのを辞めた程に、大好きで大嫌いなんですよ!!」
ボンもエイプリルフールは苦手だったけど、なんだかこの世界では成り立ちがかなり違うようだな。ククレア、キャワキャワは階段の方へと向かった。
ヨワイコは気になるが、この逆世界は『弱い人が負ければ勝った事になる』という、完全に逆ルールだ。王族のヨワイコなら、驚くべきスキルや秘策があるのかもしれない。
「妹が心配ですか?」
ククレアが尋ねる。
「ん? ああ、気が強くていい子だけど、やっぱりまだ十歳の子供だからね……」
しかし、ククレアは少し胸を張って
「大丈夫! あの子のダメ能力はまさに王家のものです! 私のようなS級神官とは弱さの格が違う……! ボンさんもうかうかしていると、ヨワイコに弱さで追いつかれますよ」
ククレアは自信たっぷりだ。
「弱さで? それならいいんだよ。僕はね、ククレアさんみたいに強くなりたいんだから」
ボンはそう言った。
「? ボンさんは、どうしていつもそのような事を……?」
弱さを追求し、臆者になって世界を滅ぼす。
強さは劣等感の象徴。それが、この逆世界の常識のはずだ。
「そんなの決まってるよ! ククレアさんは、一番カッコいいじゃんか!」
トクン。
ククレアの心臓はいつも、ボンからの台詞で、いつも感じたことの無い鼓動の高鳴りを覚えてしまう。
「ぼ、僕はね…実は、この年まで全然彼女もいたことが無くて…」
ボンは迷いを感じながら、やがて歩みを止めた。
ええい、この先“今にも折れそうな心とカタナ”を手にするまでどれだけの危険があるのか分からないんだ。
この際、思い切って言ってしまおう!
「ボンさん?」
ククレアはどぎまぎとしながら、視線を左右に送った。
「僕みたいな弱くて情けない男じゃ無理もないよね、けど…僕はこの逆世界で初めて…少しだけ自信が持てたんだ。その、ククレアさんに出会えたから」
「何をおっしゃるんです。ボンさんのような最弱の人が、私のような天才に……」
「そんなことはどうでもいいよ! 僕はね、ククレアさんの教会で目覚めた時、その黄金の髪が……まるで、まるで」
ボンは言いよどんだ、まだ告白するには早いけど、これを言ってしまうともうほとんどプロポーズしたも同然だ! けど、今こそ僕に勇気を!
「は、はい。ボンさん……私のことが……?」
その白い指で、自らの金髪の先をいじる。
「ゆ……ゆ」
「ゆ?」
「ゆ……優里亜ちゃん、っていう小学校の時の初恋の人を思い出していたんだ!」
ボンは勇気を振り絞っていた。
「は? 優里亜さんが初恋の人……?」
対照的に、ククレアは何か訝し気な視線を投げかけていた。
「あの子もアメリカ人のお母さんのハーフで金髪で可愛くて。まあ、おままごとみたいだけど、優里亜ちゃんは冗談で、『大きくなったら結婚しようね、ボンくん』なんて言ってくれて。けれど、どこかに引っ越してしまってね。そして、中学の時に、なんとなく試しに入ってみた茶道部の先輩に、真由美さんって人がいて……これがまた金髪に染めてて『茶道はロックだぜ』とか言っててカッコよくて憧れだったんだよ……」
ボンは昔を懐かしんでいた。
ククレアは、
「へえ……金髪で可愛い人がいっぱいいて、さぞ楽しくて良かったですね。じゃ、さっさと向かいましょう」
世界の全てに興味を失ったような表情で、ククレアは階段へと向かった。
「あ、あれ? ククレアさん。ここからが重要なんだよ! おかしいなあ……僕は何か怒らせるようなことを……アイタっ」
ポカリ、と頭を殴るキャワキャワ。
「さっきから一言ごとに、ククレアはキレまくりよ! ちょ、ちょっと待ちなさい、ククレア! ボンは…本当に壮絶ダメ人間だからさ、と、とにかく話は最後まで聞いてあげて!」
と言いつつも、キャワキャワは「なんでボンの告白を後押ししてるのか。というか、本当に上手くいっていいのかしら?」と何故か自分に疑問を持っていた。
「そうだ、ククレア!」
とゾッコンLOVEも続く。
「いくら逆世界でも、駄目人間にも限度があるが……とにかくボンはいい奴だろう? そうだろう? さあ、話は聞いてやってくれ!」
みんなの後押しを受けて、ククレアも足を止めた。
「そうですね……ボンさんは、世界を崩壊させる駄目人間。きっと途方もない思慮の浅さがあるのでしょう。分かりました、続けてください」
「あれえ? かなり考えてきたんだけどなあ。ま、まあとにかく、そういうことで僕はククレアさんに復活させてもらって、この最高のヘンテコ逆世界に来れたんだよ! 僕にはまだちょっと意味不明だけど、みんな優しくて親切で…生き返って良かったよ! ククレアさんのおかげだよ!」
「ええ、神官として当然のことです」
ククレアはにこりと笑った。
告白に酷薄な微笑を浮かべるククレア




