しっかーく!
「大好きな妹を信じてたからに決まってるでしょ? LOVEちゃん」
ローレンス琥珀は、最大限の信頼のまなざしだ。
「くうっ、馬鹿な。スローモーションといっても、馬の後ろ蹴りは、人の格闘家の三倍の威力…もし当たっていれば…」
「けど、LOVEちゃんが助けてくれたわ。私の大好きな、誰よりも可愛い妹…!」
ローレンス琥珀は、その白いが筋肉のついた両手でゾッコンLOVEを抱きしめた。
「馬鹿な姉上!」
しかし、ゾッコンLOVEはどこかほっとしているようだ。
久々に再会した、仲睦まじい姉妹…どこかククレアとヨワイコを思い出させるような…とボンが考えていると、
「ドルルルル、ドン! はい、ゾッコンLOVEちゃんと城ケ崎、二人とも失格! しっかーく!」
ローレンス琥珀はニンマリと笑い、見事なボイスパーカッションと共に宣言した。
「な!?」
ゾッコンLOVEは呻いた。
「一対一の戦いに乱入! 失格に決まってるし、そう書いているわ!」
ローレンス琥珀の声に、
「何イ? 馬鹿な! そんな説明どこにも…!」
ゾッコンLOVEは呻くが、
「いえ…ゾッコンLOVE。私も解説者としてうかつだったわ…」
と城ケ崎は言う。
城ケ崎は馬の鞍を指さし、
「そこの鞍に、小さい文字で書かれている…『当然タイマンの勝負で、誰かが乱入したら両方失格よ』とね。解説している途中で目に入ったんだけど…恐らく、ゾッコンLOVEと私を両方ハメるつもりだったようね」
「く…姉上! なんという姑息な!」
「姑息とは嬉しい褒め言葉ね、我が妹よ」
ゾッコンLOVEは、悔し気に顔を歪めている。
「けれど、これで理解できたでしょう!? この“五重の塔っぽい体育館タワー”の一階目の私にすら、二人がかりでも負けることもできない! それが今のあなたたちの“強さ”よ! そんなことで、どうやって“臆者”になろうと言うの?」
ローレンス琥珀は哄笑している。
「クウっ、おのれ姉上……!」
「分かったでしょう、LOVEちゃん…あなたのような強者は、この逆世界には向いていない! 私がヘンテコな名前をつけてあげたから、酷い目に遭わずに済んでいるのよ? そこの天才、ククレアさんのような目に遭う所だったわ!」
「ぐ…ふざ……けるな!」
しかし、勝敗は決したのだ。
「さあ、一階目ですでに二人の脱落! それもかなりの弱者である城ケ崎さんと、可愛いLOCEちゃんがね……クスっ、これなら残りもまとめて私だけで軽く負けれそうね!」
しかし、幼いが凛とした声があった。
「そうはいかないわ! 城ケ崎さん達の仇は、私が討ちます!」
それは10歳の少女だった。
「ヨワイコ!? いくらあなたでも危険すぎるわ…ヨワイコは私とは違い、本当に弱い…十歳にもなって、まだクマのぬいぐるみが無いと不安なんだから」
ヨワイコは安心毛布の代わりに、クマのぬいぐるみをぎゅうと掴んでいる。
「オッホホホ、可愛らしいおチビさん。LOVEちゃんもちっちゃい頃はこうだったわねえ」
ローレンス琥珀は余裕綽綽だ。
「勝手に笑ってなさいです。城ケ崎さんたちを卑怯な罠で…次は私の番よ!」
ヨワイコは胸を張っている。
「ヨワイコ? どうして、そこまで城ケ崎さんのことが大切なの?」
ククレアは聞いた。
それはボンも以前から思っていたことで、ヨワイコは何故か城ケ崎を相当に意識している、というか尊敬しているようだ。
「ええと…それは…」
もじもじと照れるヨワイコ。
気丈な王族の娘だが、ククレアの前では普通の十歳の女の子だ。
「城ケ崎さんは弱くて立派な人だけど、何か他に理由があるんじゃない?」
ククレアは優しく尋ねた。
「うーん、あのねお姉ちゃん…実はずっとヒミツにしてたことがあって…」
「そお? お姉ちゃんに教えてもらえると嬉しいなあ」
「あのね…あのね…実は‥‥」
ヨワイコは、今まで溜めていた思いの丈をぶちまけるように、
「私…実は将来、“解説者”の仕事がしたいの! 城ケ崎さんみたいに! スポーツとか格闘技とか、将棋とかなんでもいい! とにかく『解説』がしたかったの!」
少し恥ずかしそうにしながらヨワイコは絶叫した。
「解説……者?」
ククレアは初めて聞いたように驚いているようだ。
「うん! だって、私、足も遅いし弱いし、けれど解説者なら物凄い“超三流”になれるかなって」
「そっかあ、そんな夢があったのね!」
ボンは
「解説者って、立派な仕事じゃないか。どうして隠す必要があったの?」
と聞いてみたが、城ケ崎は
「バカねえ、ボン。ヨワイコちゃんは、王族なのよ? 『解説者』と言っても大人気の失点サッカーや、“盗塁王野球”そして、最近プロリーグができた“バスケット・リバウンド王選手権”なんかの解説者になれれば、年収は億越え…王族で借金をしまくらなければいけないヨワイコちゃんには、世間の冷たい眼ってのが待ってるわ」
ボンは、
「盗塁王野球とバスケット・リバウンド王選手権“…? それの解説で億越え?」
「ああもう、まだ逆世界のルールが分からないの? とにかく、ヨワイコちゃんが“解説者”っていう高給取りを狙うっていうのは、なかなか難しいのよ」
ヨワイコは首を縦に振った。
「けれど、城ケ崎さんはスゴイ…本当に漫画やアニメの世界みたいに、解説中だけ周囲をスローモーションにできるなんて!」
ヨワイコはそう言う。
「だから、城ケ崎さんの仇は私が取る! きっと、負けてみせるわ!」
小さいながらも、王族の気品を感じさせるヨワイコ。
「分かったわ…じゃあ、お姉ちゃんはここで見守ってあげるからね!」
ククレアはそう言いながらも、心配そうだ。
負ければ勝ち、とはいうもののローレンス琥珀の能力自体はかなり高い。
ボンは、ふと隣のキャワキャワに
「ねえ、キャイーンさん」
と語り掛けた。
「え?」
少しドキリとしたように、キャワキャワは振り向いた。
「あのさ、よく見ると‥‥‥あそこの階段、別に塞がってないよね?」
一階から二階へと続く階段は、ボンの指摘する通り別に塞がれてはいないようだ。
「ええ、そうねボン‥‥‥くん」
「あのさ、なんかズルみたいだけど……別に二階に上がっちゃっていいんじゃないかな? 別にバリケードとかそういうの何もないようだよ?」
「ええ!? ま、まさか、あなた本気なの!? いくら“億者候補”っていっても、限度があるんじゃない!?」
キャワキャワは狼狽えているようだ。
「‥‥‥あのねえ、キミだって本当は着ぐるみ魔王軍のキャワキャワさんでしょ?」
「うぐ……そうだけど」
「僕は実際、この世界は本当に『なんでもアリ』なんだなあ、とよく思うんだ。こっそり、階段を見に行ってみようよ」
ボンはこっそりと、ローレンス琥珀とヨワイコの戦いを後目に、奥のある階段へ向かった。
「なかなかに大胆ねえ」
「キャワキャワさんだって、二度も変装して、もしもククレアさんに見つかったら……」
そう話していると、
「わたしに見つかると、どうなんですか? ボンさん」
背後からククレアの声がした。




