ローレンス琥珀の凍てつく雷鳴
ドドンドドドン
ボンは、木のつるぎの重みを感じていた。
“五重の塔っぽい体育館タワー”には、虚弱七柱に選ばれた七人が集まっている。
思えば、この“木のつるぎ”を頼りにかなりの戦いを繰り広げてきた……
ナカナカ、キャワキャワと次々に負け、
“気弱な運動会”では、最悪の禁忌型ミノタウロスなんてものまで現れて、やっぱりこの優しい逆世界にも『死の恐怖』がはっきりと存在するんだということを知った。
最強のククレアがいなければ、本当にあそこで全滅……
ふ、と昔の自分を思い出してバカバカしさがこみあげてきて笑っていた。
「ボンさん?」
ククレアが隣でこちらを覗き込んでくる。
「いや……僕はなんてバカげたことで、自殺したんだろうかなって思ってさ」
借金だらけ。
彼女もできそうにないし、上司に怒られる。そんなもの、全部どうでもいいじゃないか。
僕の生き方は僕が決めることなのに、あんなバカげたことでなんで死のうとしていたんだろう?
「そうですよ! 借金が一千万円もあるエリート中のエリートのボンさんが……もう二度とおかしなことは考えないでくださいね……!」
ボンは一度は死んでいる。
それを“世界じゆうの葉”で復活させてもらったというが、そんな貴重品がそうそうあるわけではないだろう。
「“億者”……私が目指す方向とは違うが、しかし挑戦から逃げるのも趣味じゃない」
勇ましい、ゾッコンLOVEが優雅な銀髪をかるく後ろで結んでいる。
その横ではジンチェンコが無言で、サッカーボールでリフティングをしているようだ。
曲芸リフティングではなく、実戦で使えそうな正確なリズムでポンポンと蹴り続けている。
「ど、どうもー! キャイーンです! お姉さん、うっかり“虚弱七柱”なんかに入っちゃって、大丈夫かしら、アハハ、魔王様に知られたら……」
と後半は聞こえないようにつぶやいている。
「けれど、泣いても笑っても、この冒険を進めなければいけないわ! そうしないと、私は目標にたどり着かない……!」
ヨワイコは強く言った。
「あら、ヨワイコ、あなたに目標なんてあったのね。お姉さん、知らなかったわ。それって、『国の跡を継ぐ』ってこと以外でってこと?」
ククレアに対し、
「そりゃ目標くらいあるよ」
「へーえ、どんなの? お姉ちゃんに教えてよ」
「う……恥ずかしいからヤダ」
「ケチ! 前はなんでも言ってくれたじゃないの」
どうやら、ククレアとヨワイコは仲睦まじい姉妹に戻ったようだ。
まだまだ、全てが払しょくされた訳ではないだろうけど、きっと時間の問題だ。ほがらかに笑うヨワイコを見ながら、ボンも思い出していた。
そういえば、自分にも年の離れた弟がいて、そしてちょうどヨワイコくらいの年齢の時にぱったりと口も利かなくなったのだ。
「おしえてよー、ヨワイコ」
「お姉ちゃんだけには、ヒミツ!」
きゃっきゃと笑いながらククレアとヨワイコはじゃれあっている。
ボンの眼の前には、体育館。
それは何故か、ピサの斜塔のように裏返しに作られたような形で、赤青紫の色鮮やかな立派な建物だった。
「ボン、この“五重の塔っぽい体育館タワー”……数多くの挑戦者が、始めの関門すら突破できず、勝利してしまっているのよ……」
城ケ崎の解説を、ヨワイコは興味深そうに聞いている。
「もちろん、あなたがいれば平気でしょうけど、ここはまず様子見……まずは私からいってみるわ」
城ケ崎はそう言う。
「城ケ崎……そんな危険な関門なら、私が行くべきじゃないかな」
その瞳にゾッコンLOVEは声をかける。
「馬鹿ね……当然、『負けた方が勝つ』というルールに決まってるでしょう? 私もボンが来るまでは弱いことで鳴らしたもんよ……ここは任せて」
ククレアも
「そうね……なんでも詳しい城ケ崎さんなら、きっと大丈夫だわ!」
安心しているようだ。
ボンたちは、“五重の塔っぽい体育館タワー”の扉を開けた。
「ジャジャジャーン! ドンドコドンドコ!!」
ボンは驚き、
「ああっ!?」
と叫んだ。
「ドラララララ……・ジャジャン!! フウッハハハハ、よくぞ“五重の塔っぽい体育館タワー”に来たな! ドルルルルル! ここからは私が相手だ! “青春アオハル甘酸っぱい騎士団”団長の私がな」
派手な赤い仮面をつけた女性が馬に乗った状態でいる。
ドドドドドン、ドンドンドン!
「誰が最弱か!?」
男の声が聞こえるが、それは騎馬の女性からの声だ。
「ローレンス琥珀!」
またも別の男の声だが、全て一人で騎乗している女性がやっている。
「逆世界一の弱者ポテンシャル! “青春アオハル甘酸っぱい騎士団”筆頭とされる、弱き乙女! その名は、ドゴドドンドンドン」
色んな声色と、ボイスパーカッションのドラムの音を一人で続ける。
「物凄い和太鼓風オーケストラと周りの兵士の声!……を一人で口真似でやっている……? 凄いボイスパーカッションだけど、正直、なんてカッコ悪いんだ!?」
ボンは唸っていた。
「我が名は、凍える雷鳴・ローレンス琥珀!」
彼女は言った。




