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禁忌型ミノタウロス

悪泥門は体の半分を失い、どう見ても死んでいる。

 そう、この世界にも「死」があるのだ。

 悪泥門は悪魔だったが、はっきりと死んだ。

「ひょっとしたら、これを望んでいたのかもしれねえ」と言っていたので、悪人だったようだけど、ナカナカに「逃げとけ」と言っていたからちゃんと感情もあったのだ。

 そいつが死んだ。怖い。

 初めて怖いと思った。

 牧歌的にナカナカやキャワキャワと戦っていた頃が懐かしい。

 

 それと同時に、沸々と血が沸き立つのを感じる。

 結局、異世界に来たのだから、こういう展開をどこかで期待していたのだ。

「お前もやはり、戦士だな! ボン! 私はお前が参戦してくれて嬉しいぞ!」

 その瞳にゾッコンLOVEは、覇気の籠った声だ。

 彼女はいつも覇気と勇気に溢れている。

「私もお前と同じだ、ボン。心のどこかで、こういう強敵と戦ってみたかった! なんせ、現世では女というだけで、『男とは違う生き物』と分類される! 私は本当に強いのに!」

 

彼女の魔道弓からの光の矢で、角の一本はかろうじて抑え込まれている。

「ゾッコンLOVEさん、死ぬかもしれないのに、そんなことを?」

「私とボンの世界じゃ、ただ単に退屈だからって理由で、意味もなくビルに素手で登って落ちて死ぬヤツが出るくらい退屈なんだ。さあ、ともかくこのままじゃラチが空かんな。よし、ククレアのその“聖凛壁”(ホリリンガード)も『世界を消滅させる角』に当てるんだ!」

「それをすると、世界最悪の魔物が!」

「世界が消滅するよりもマシだ! キミがいれば、どんな魔物にも勝てるだろう?」

 

ククレアは合点がいったようで、

「では、作戦に乗りましょう! 大いなる大地母神よ! 矮小なる己の心と、燕と雀と炎!」

 ククレアは、“聖凛壁”を『世界を消滅させる角』だけにぶつけた。

 悪泥門の三本の角の右が、完全に消滅した!

「やった!? 『世界を消滅させる角』が消えた……?」

 しかし、次に最後に残った角から全てを破壊するような魔物が出てきた。

 それは大きく雄大で、力強い影だった。

 ミノタウロス。半身半牛の獣のような姿だが、全長は五メートルもある。


 ククレアは唸る。

「禁忌型ミノタウロス! 金剛級の中でも最強です! 拳の一振りで山をも砕く!」

 キャワキャワは、

「ナカナカ! 早く逃げなさい、あんたなんかじゃどうにもならない」

しかし、ナカナカはへたり込んでいる。

「こ、腰が抜けて……姉さん! 助けてくれ!」

「あのバカ!」

 キャワキャワも駆け出していく。

「ヌゴオオオオ……・オオオオオ……我、砕く故に我あり! 我、破壊する故に我アリ!」

禁忌型ミノタウロスは、近くのナカナカ目掛けて戦斧を振り下ろした。

「うわああああ!!」

「ナカナカー!!」

 キャワキャワとナカナカが叫ぶ。

 

その巨大戦斧を、ククレアが光の剣(ホリリン・ブレイド)で受け止めていた。

「グルオ? ツ・ヨ・イ?」

「ミノタウルス! かかってきなさい!」

 ククレアの光の剣でさえ、少しばかり刃が欠けている。

「こっちだ、二人とも!」

 ボンはキャワキャワの手を取って、その場から逃げていった。

「ボンさん、そうです! そのまま逃げてください! この場は私が食い止める」

 ククレアは少し汗を流しながら、光の剣を構え直す。

 世界で最高クラスの鋭さを持つ、S級神秘魔法の剣だが、少し刃が欠けてしまった。

「ツヨいな、お前……タップリと戦おう」

 禁忌型ミノタウロスは、ぶつぶつと呪文の詠唱に入った。

「具現……・」

 禁忌型ミノタウロスは、具現化魔法の詠唱を続ける。

「“全てをぶっつぶす、太く強い斧”……」

 禁忌型ミノタウロスは軽くつぶやいた。それは、具現化した。

 黒く血に濡れた、小ぶりの山ほどもありそうな斧。あまりの巨大さに、ナカナカは再び腰を抜かしてしまった!

「ナカナカ、早く立ちなさい!」

「こんなもん……逃げられるワケがねえ……」

 ナカナカは涙を溜めている。

「早く走れ! ナカナカ!」

 ボンはナカナカの腕を掴む。

「禁忌型ミノタウロス! あなたの相手はこちらですよ!!」


 ククレアは光の剣を構えた。

「お前、ツヨ、イ。普通、俺、見ルト、逃げるだけ」

 ニイイと口角を上げる。

「死ぬナヨ。簡単に死んだ羅、コロす」

 禁忌型ミノタウロスは飢えていた。

 俺様は、三千年前……この世界を二回ほど破壊した後で、勇者ご一行に捕らえられた。

 三千年ぶりに現世に召喚され、いきなりなかなか強そうな金髪の神官がいるのだ。

「簡単に死んだら、生き返らせてから、モノすごい苦痛を与えてコロす。それを十回繰り返し。それから、また十回」

 この俺様には、全てはオモチャ。禁忌型ミノタウロスは、一気に腕を振り上げ、片腕で“全てをぶっつぶす斧”を軽く振り上げた。

「スキル発動、“バトル・ウェディングドレス”!」

 ククレアは、普段はあまりに強大過ぎる故に、己で封じていた神秘の力を解き放った。

 

彼女の白肌から、純白の絹が生え出てその肌を包み込んでいく。

 それは、純白のウェディングドレスになり、その背中からは翼が生えていた。

 太ももがかなり強調されたドレスで、健康的な肉が露わになっている。

「お姉ちゃん、いきなりバトル・ウェディングドレスを!?」

 ヨワイコは叫んでいた。

「”恥ずかしオーラ“を武力に変える、バトル・ウェディングドレス……! これだけの視線を浴びて、お姉ちゃんの恥ずかしオーラは絶好調ね」

 ヨワイコの言う通り、ククレアの体からは極めて透明で真っ白なオーラが溢れ出ている。

「恥ずかしオーラ、解放! コオオオ!」

「死んだラ、コロすぞ。いい菜?」

 “全てをぶっつぶす斧”は振り下ろされた。それは、隕石の落下のようだった。


 ボンは、キャワキャワを抱えて飛びずさった。

 どん。それは、グラウンドが割れる音。

「く、ウウウ! 大回復(オーラヒール)」

 ククレアがそう言いながら、千切れかかった腕を回復している。

「ああっ、ククレアさん!?」

 彼女の真っ白な腕は、ほとんど千切れそうになって水道水のように血が噴き出ている。

 それを、瞬時に神秘の力で回復させ、縫合したようだが顔色は悪い。

「クフフ、いいぞ。まだ、死ンでな異」

 禁忌型ミノタウロスはニイイと残酷に笑う。

「どうやら……敵の目測を誤ったのかもしれん、ククレア」

 少し離れた場所で、その瞳にゾッコンLOVEは矢を引き絞っている。

「ヤツは……私の二十倍は強いようだ。全力で打ち込んだのに、カスリ傷だけだ……」

 禁忌型ミノタウロスの肩に銀色の矢が刺さっているが、ヤツは意に介していないようだ。

「ゾッコンLOVEさん……誠に残念ながら」

 気丈に笑いながら、ククレアは、

「敵は私の十倍は強いようです、私の冒険はここまでのようです……」

少し諦めたように微笑した。

(あの強いククレアさんとその瞳にゾッコンLOVEさんが……)

 ボンは、愕然としていた。

 この禁忌型ミノタウロスは、そこまでの強者なのか。

「嬲ル。野菜炒めのように痛メつけてやる。ミジン斬り、千切り、オニギリ、ぐふふう」


 残酷な悪魔のような笑み。

「さあボンさん、これで分かったでしょう……ヨワイコも連れて早めに逃げてください」

「僕は……」

「想いや勇気だけで、どうにかなる敵ではありません。私はあなたに死んで欲しくない……こうして“強引に撮影しようとする撮り鉄”の恰好をして、ボンさんのように駄目になろうとしたけど、やはり私には無理でした……」

「僕だって死にたくない! けれど、それだけじゃないよ……」

 ボンは禁忌型ミノタウロスを睨んだ。

「こんな化け物、ここでククレアさんがいる時に倒さないと、どの道みんな終わりじゃないか! ククレアさん、僕らがこんなのから逃げれると思う?」

 ボンの言葉に、

「あ…」

とククレアも気づいた。

 S級神官の自分でも勝ち目の無い敵。

 最弱級のボンが逃げ切れるはずがないし、他の生徒もだ。

「今、ここに強いククレアさんとその瞳にゾッコンLOVEさん、そしてジンチェンコがいる間にやっつけるんだ!」


この世界の最強!!

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