ダルマくん
「……けど、ずっと甘えてもいられないよね。僕の一番は、なんにもしないこと。だけど、ずっとそのままじゃいれないよね」
ダルマは、屈伸運動を始めた。
「ダルマが自立しようとしてるぞ! みな、かの者の動きから目を逸らすな!」
その瞳にゾッコンLOVEは激しく言った。
その間に、動いてしまった者は、空中から降りてきた小さいダルマに捕まって、運動場の外に追い出されてしまう。
(ダルマ妖精、意外に自立心がある? 実は何もしてない状態が駄目だと思ってるんだ)
ボンは考える。
「けど……やっぱりやーめた! なんにもしないのが一番さ!」
また、ゴロンと転がってしまう。
「ダルマさんが自立する速度が上がっています! これでは、ついていくのが難しい!?」
ククレアはそう言った。
「というか、ダルマも本当は自立しようとしている……? けど、怠惰な生活に慣れている」
ボンは考える。
「ボンさん?」
ククレアは振り返る。
「ねえ、ダルマくん! じゃあ……ちゃんと自立しようよ!」
ボンは叫んでいた。
城ケ崎は、
「何を言うの? あなた、ゲームの趣旨を分かってるのか!?」
「そ、そうですボンさん! 今はこのゲームに集中して」
ククレアもそう言う。
参加者からも、
「おい、最弱のボン! どういうことだ?」
「まさか、俺らの邪魔をするために……? そこまで駄目なヤツとは恐れ入ったな」
と不平そうだ。ククレアも驚いていた。
駄目すぎなボンを尊敬していたけれど、こういう形で他人の邪魔をするような人とは思っていなかったからだ。
ボンはしかし、
「僕も、凄く駄目だったんだ……何もできない程、パワハラ社長にゴミみたいに扱われて、それでも言い返せなかった。自立もできないままで、ビルから飛び降りたんだよ!」
ダルマは後ろを向いて、寝そべったままだ。
けれど、その肩が少し震えている。
「おいおい、ボン!? ここへきて、駄目自慢かよ?」
「確かに凄いけど、ちょっと空気が読めないぜ!?」
駄目な程褒められる逆世界。
その中で、ボンは認められていたが、あまりの空気の読め無さに参加者は呆れている。
「けど、君はまだ……変わりたいと思ってるんでしょ!? 僕もそうだ……今の自分を変えたい! じゃあ、一緒に自立しようよ!」
「ボンさん? 自立って、それじゃ、私みたいになるってことですよ!? メチャメチャ努力してレベルアップして、それでみんなから馬鹿にされて!」
ククレアの脳裏に蘇る、宮廷での炭鉱夫伯爵夫人からの罵倒の声と軽蔑の眼差し。
(ドンガメ国王も、よくもまあこんな努力家天才を生んだものね!)
(このダメダメ大陸で、こんな天才娘が生まれて、国王もお嘆きでしょう!)
(これでは、世継ぎは大変ねえ!)
(ウチの息子の方が、次期国王にはふさわしいかもねえ。七歳で、まだおねしょを毎日するんだよ、ウチの坊やは!)
(けれど、ククレア様の優秀さを考えると、将来が恐ろしいわ。妹のヨワイコ様の方が……)
あまりの辛さに耐えかねて、王宮を飛び出した。
妹のヨワイコが傷ついているのを知りながら、逃げたのだ。
「私は、もうヨワイコから顔も合わせてもらえません……あの時、私の優秀さと天才さを攻撃する、宮女たちから逃げたのですから……」
ボンは、「そんなことがあったのかあ、辛いよね」と言ってから、
「ちゃんと、謝れば大丈夫だよ! ヨワイコちゃんも、ククレアさんを待っているんだ!」
「けれど、私は……」
「そこまでだ、二人とも! まだ、運動会の途中だぞ?」
その瞳にゾッコンLOVEは、言った。
「ククレア、何か自分の道に迷っているのか? それだけ迷いがあるというなら、実はお前の中でもう何をすべきか、答えは出ているのではないか?」
憂いの銀髪から、鋭い相貌を光らせる、君の瞳にゾッコンLOVEであった。
その言葉は、ククレアの脳を突き刺し、心を温めた。
「ゾッコンLOVEさん……」
「まずはこの第一種目を突破し、勝利の美酒を味わおう! ボンとの絆エピソードや、自分の過去との対立は、その後でも十分だ!」
そして、みんなを背中で引っ張っていくように、その小柄だが筋骨に溢れた体を躍動させて、ダルマ妖精に駆けだしていった。
な、なんていう頼りになる勇ましい人だ!
ボンは震えていた。
「あれが、“七柱”の中でも一番恐ろしいとされる、君の瞳にゾッコンLOVE……とんでもなく頼りになるけど、とんでもない名前の女!」
城ケ崎もゾッコンLOVEを認めているようだ。
もう、『ダルマさんが自立した』の参加者は数十人にまで減っている。
「んもー。遅いじゃないか、君たち! 僕にタッチしないと駄目なんだよ!?」
ダルマは拗ねている。
「じゃあ、そろそろ自分で立ってみたらどうだい!? ダルマくん!」
ボンはそう言った。
「怖いのは分かるけど、自分で動くのは楽しいもんだよ」
ボンはそう怒鳴った。
「んもー、そんなこと言ったって、お母さんがいないと出来るワケないじゃんか!」
ダルマはムスっとして拗ねている。
「そんなことない! 君だって、何度か立ち上がろうとしてた! きっと出来るよ!」
「んもー、どうしてそこまで言うんだい? キミはこの競技の趣旨を理解してないの? ボクのお尻にタッチしたら生き残りなんだよ?」
と、フリフリと可愛らしくお尻を振っている。
「けど、ダルマくんだって、本当は自立したいと思ってるんでしょ? さっきから、本当は歯を磨いたり、靴を履こうとしたりしてるじゃん」
「んー、だってずっとこうしててもしょうがないからね……」
「じゃあ、思い切って立ち上がってみたらどうかな?」
「だって、立ち上がるたって、どうするんだよ? 僕はそんなことしたことなんだよ?」
むうう、とダルマ妖精は怒る。
「じゃあ、一歩目を踏み出そうよ! 僕も、この逆世界で少しずつ頑張ってる、なんだかおかしな世界だけど、毎日が楽しい。……僕は屍みたいな人生だったからね!」
「何が言いたいんだい、キミ?」
ダルマは少し興味があるようだ。




