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驚異、早歩き!

 その眼光には自信が蘇っている。

「……私は許しませんよ! 立派な教官だと思ってたのに……!」

 ククレアはまだ憤りが収まらないようだが、

「ククレアさん、ここは落ち着いて!」

ボンがなんとか止めた。

「キャワッハハハハ! いい感じのお姉さんだと思ったかしら? その正体は、“潜入”のキャワキャワよ! あんたらこそ、よくもナカナカを勝たせてくれたわね? ナカナカはこの三年、全敗……! 最弱六公の一人にまで数えられる、私の弟よ!?」

「確かに、負けた僕がいうのもなんだけど、かなり弱かったなあ」


ボンは圧倒的な大振りの『トロトロパンチ』を思い出す。

「ここからは、私が相手をしましょうか! さあ、ボン、勝負よ!!」

 キャワキャワは自信の笑みを浮かべている。

「ボン! あれは、“最弱六公”の一人、キャワキャワ……! 恐らくはナカナカよりもさらに弱い……! 現在“O級弱者”に位置する、とんでもない弱者だよ!」

 城ケ崎はそう警告する。

「ううん、戦うのは気が進まないなあ」

 ボンにとっては、キャワキャワはどう見ても“親切なお姉さん”であり、そんな悪人のようには見えない。


(というか、今考えてみるとナカナカもそこまで悪い事をした訳でもないし……)

「もはや、この勝負は避けては通れません……!」

 ククレアはそう言う。

 ともかく、木の剣を構える。

「私と戦う気のようね? けれど……一つ忠告しておくわ……!」

 キャワキャワはそう言う。

「あなたでは……私の姿を『ゆっくりと目で追う』ことしかできないでしょうね。キャワッハハハハハ!」


 すると、キャワキャワは少し速めに歩き始めた!

「まさか姉さん、いきなりあの技を!?」

 キャワキャワは、そのままで少し速めにボンの周囲を歩いている!

「あ……そんなまさか!? キャワキャワさんは、少し速く歩くことでボンさんを惑わせている?」

 ククレアは驚愕しながら、そう言った。

「あれは、名付けるなら『早歩き』! あんなに速く歩かれては、目で追う事しかできない……!」

 城ケ崎も、

「そ、そうか……確かに歩く時に腕と足の振りを強めれば……相対的に通常よりも速く歩ける!? こんな盲点を突くなんて……恐るべし、キャワキャワ!」


 ボンは、キャワキャワの“早歩き”に戸惑うだけだった。

(少し速い……)

(しかし、目では追える……?)

 キャワキャワは恐竜の着ぐるみのままで、可愛らしく手足を動かし、早歩きを続ける!


「キャワッハハハ! あなたは、もはやこの早歩きの虜! そして……見なさい!」

 キャワキャワは鋭く指さした!

 彼女の歩く、螺旋の延長上!

 そこには、木の根っこが鋭く上に突き出していた!

「やはり恐ろしいぜ、姉さん! その丸くて愛くるしい体型にボンはもうメメロメロメロリンパだぜ!」

 ナカナカはぐぐと親指を立てている。

「ナカナカ! 私の体型は丸くないわ! 少し腰に筋肉がついてるだけよ!」

とキャワキャワは早歩きをしながら反論する。

「姉さん、まさかあの根っこに足を引っかけて転ぶつもりか!? ここまでの計算されつくした敗北ムーヴメント! もはや、ボンには止めることすらできねえ!」

 ナカナカは歓声を上げていた。


 ククレアは悲鳴を上げ、

「まさか、ボンさんが勝つ!? 信じられない程の弱さで、“臆者”の候補のはずのボンさんが!?」

「ククレア、覚悟を決めて、次は私たちの番よ……? いくら、ボンくんでもあそこまでのキャワキャワの敗北ムーヴメントではどうしようもない……もし、次に私がキャワキャワに勝てば、その次はあんたよ。いくら天才のあんたでも、少しは意地を……」


「いいえ……! 城ケ崎さん! まだ、ボンさんを見て!」

 ククレアは決然として言った。

「あの、ボンさんの死んだ魚のようなやる気の無い眼! あれはまだ、勝負を捨てることを捨てていない……!」

「ククレア!? まさかあんた、ここからボンくんの逆転負けがあると……!?」

「私は信じています! ボンさんは、誰にも勝つことは決してない……!」

「あんたバカね、ククレア。そこまでボンの弱さを信じるだなんて!」

 しかし、キャワキャワの早歩きはボンを中心に螺旋を描いている。

 ボンはどうにかそれを目で追うだけであった。

「キャワッハハハ! 半周もすれば、私は樹の根っこで転んでしまう! あなたは何もできやしないわ!」

 キャワキャワの早歩きムーブメントで勝負は決まるかに思えた!


 しかし……

「う!? 目が!?」

 ここでボンの視界と肉体に急変!!

 スキルボールは言う。

『固有スキル・めまい発動』

 ボンは実年齢33歳。

 しかし、長年のブラック労働で近眼、老眼と目は相当に痛んでいる。

 さらに固有スキル・『めまい』を授かったばかり。

 それが、キャワキャワの早歩きを追うことによって、途方もない『めまい』を発動していた。


「うぐっ、もう立っていられない……ククレアさん、またしてもすいません……」

 ボンは突如として倒れようとしていた。

「なあ!? あれだけのことで、めまいを!? ボンは弱すぎるわ! なんという虚弱!! 脆弱!」

 城ケ崎は驚愕していた。

「見ましたか、あれがボンさんの真の弱さです! その虚弱体質は、すでに魔王にも匹敵する……!」

 ククレアは勇者を見るような視線をボンに送る。

「ククレア? あんた、あのボンが……着ぐるみ魔王イイコイイコにも匹敵すると……?」

 ククレアの目には何の疑いもない。

「私は信じています! ボンさんは、全ての敵に負けることを……!」

 キャワキャワの顔色に曇りがあった。

「そうはさせるか!! 私があの根っこに先にたどり着けばいいだけ……! スキル・早歩き、モードオン!」


早歩きを止めれない!!

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