第097号室 Extra Wave ー☆ーアトラクションズー☆ー
異形はびこる団地の自治会同士は基本的に仲が悪い。
この度、ダゴンの死体を囲んで集まったのは、工業団地の特派員、人型汎用機械のガスディーゼと竜型戦闘飛行機のヴァルキュリー。
神宮団地の大地主、百面九十九尾・殺生・美醜狐とお付きの巫女狐。
この二つの勢力をぶつけた吸血鬼、奪衣比丘尼のソヒガラシヤと城下人柱の飛鼠逆ノ亡姫。
他にもケンカを見に来た酔っ払いの人間とか鬼とか、飛んできたドワーフとか、ゾンビとかいたけどちょっと戦いには着いて来れそうになかった。
『あれが、水底団地の大地主だったタコの死骸じゃ、先客が居るようじゃから、煮るなり焼くなり殺し合うなりして話をつけるとよい』
亡姫に手品を見破られて真っ白なバニーガールになっていた稲荷神ビシュケは、ダゴンを見て我を取り戻すとディーゼに話しかけた。
『やめなされ、やめなされ、遺骸を弄ぶのはやめなされ。八虐舐めた大罪神とはいえ、死したのならば生前の咎は忘れ、丁重に扱うのが道理というもの、ここは妾に任せてもらえんか?』
『ダメよ、こいつは細胞の一片、粘液の一滴に至るまで我らが工業団地の生命工学の礎になるの。焼いて墓に埋めるだなんてもったいない!』
『じゃがのう、じゃが、自分が死んだ時、墓の下に遺灰さえ残らん事を想って見なされ、それは惨いことだと思わんかえ?』
『うるさいわね?そんな能書き垂れてるから、息子たん人間に寝取られるんでしょ??』
『…………あ゛ぃ゛ご゛ぉ゛お゛お゛お゛!!???』
ディーゼが容赦なく地雷を踏みつけ戦いの号砲が上がる。
ビシュケの顔が狐面ごと怒りに歪むと泡立ち弾け、泡一つ一つから狐の顔が現れ寄り集まって炎を吐き出す。
『ハッ!一発でキレやがった。更年期かよ!?』
ディーゼが円を描くように走り込んで躱し、追って回る火炎に巻き込まれ、ぼーっとしていたゾンビっ子ドォロミが発火、仰け反って躱すも服を焦がした巫女狐共々脱落、燃え盛るドォロミを転がし巫女狐が泣いて逃げる。
『神宮団地の大地主を殺ったとなれば、大手柄よねぇ?』
背中を向けたビシュケにキュリーが仕掛ける。戦闘機の機首に似た顎を開くとサメの歯状に並んだ薬莢が歯茎を流れ鮫歯機関砲、鋼鉄でできたホホジロザメの牙が襲うも、ビシュケが振り乱した九十九尾に絡め取られる。
『霧雨凪いではむず痒ようて敵わん!大人しゅうせえ!!』
ビシュケの尾っぽが九つに分かれて花開き、絡めとったサメの歯を並べるとキュリーに喰らいつく。
『わお!ノーダメージなの!?』
きりもみ打って身を捻り、光学電気クラゲのフレアを撒いて尻尾を躱すと、ジェットエンジンでマンションの屋上に飛び乗り、コバンザメのように主翼に張り付いていたミサイルを撃ち出す。
『『『ヤッテヤルゼ!!!』』』
新鮮のいい生体ミサイルが意思を持って飛び出しその余波で、ケンカを見学していたダヴィとティヲを屋上から吹き飛ばした。
「アカン!アカン!!アカーーーン!!!」
「うぉおおおおお!!!」
ダゴンの死体の上に落下した二人は、強烈な悪臭と粘液に塗れて放心状態になる。
『カジキ陣形!!』
キュリーの掛け声で飛び交う生体ミサイルが、ヒレとクチバシを先鋭化させてビシュケを貫き、もふもふの起毛に透かされ肉を外したうちの一体が、勢い余ってダヴィとティヲを襲って返り討ちに合い、居合斬りの餌食になる。
「クソ!酔いが醒めた、見るのはいいが巻き込まれるのはつまらん!」
「確かに、ほな、お暇しましょか〜……」
三枚に下ろされたミサイルが突っ込み、爆発炎上するマンションを背景にして、ダヴィとティヲが脱落、足早に立ち去り、ホーリエとすれ違う。
「……お前見た顔だな?あんまり近づくと巻き込まれるぞ。ほどほどにしとけよ?」
「あは、私はあんなゴーレム見たことない!今リスクを取らなきゃ、人生つまらないでしょう??」
「はあ?あてらは、着替えに行くさかい好きにしたらよろしい」
鼻を塞ぎながらダゴンの粘液を拭う二人の忠告を受け流し、既にボロボロのホーリエが打ち上げたばかりの雷鎚、ミョルニルを振り下ろす。
「いったんスクラップにしてやるわ!!」
『は!?だれおまえ?「ホーリエよ!」ガスディーゼよ!!』
突然の横槍にディーゼの情報処理が遅れ自己紹介、ホーリエの身の丈を超えるミョルニルがガードの上から押し込まれ片膝をつく。
隙を逃すはずもなく、巨大化したビシュケが鉤爪の並んだ腕でディーゼを打ち下ろし、も一つついた膝によりアスファルトが砕け散る。
『くっそぉおお!ホント邪魔すんなよなぁああ!!!』
「あは、奇襲は兵法の常よ?それっぽい指南書にも多分載ってるわ??」
ビシュケになじられアスファルトの亀裂に沈むディーゼの腕に、ミョルニルの釘抜きを掛けホーリエが満面の笑みで体重をかける。
「支点!力点!!作用〜〜点〜〜〜!!!」
『うわぁあああ!!マジでやめろ!!!』
テコの原理でディーゼの右腕が肩口からもぎ取られる。半瞬遅れてキュリーの音速タックルがビシュケを弾き飛ばして、ダゴンの死体に打ち付けた。
『腕返せっ!!』
ディーゼの前蹴りがホーリエの鳩尾を穿って蹴り飛ばすも、ホーリエの執念はミョルニルと捥いだ腕を離さない。スピードが落ちて地面を転がり、ようやく受け身を取ったところで蓋の無いマンホールに片足を取られると、クネクネと一瞬足掻いたのちに落ちていった。
「ああああぁぁぁぁ〜〜〜〜…………!!!!」
『……何だったんだオマエは!??』
腕を取り返そうとマンホールを覗くもやけに深い。リソースを解析に割いても、瞬時には見通せないほど深く、反響音を拾えないほど広い空間が広がっているらしい。
『…………なんだ?地下が空洞になってる』
『とんだ災難だったわね?でも、悪いけど切り替えて!あっちの様子が変よ?』
キュリーがディーゼの横に並び、ダゴンの死体に絡まりもがくビシュケへ注意を向けさせた。
数十トンの鉄の塊が音速で衝突した程度でダメージを負う相手では無いはず、それにしてはダゴンの触手を剥がすのに苦労している。
尾を裂き、首を分けて流体の如く暴れるビシュケの身体に巻き付いたダゴンの死体と思われたモノは、触手を蠢かし、吸盤を張り付かせると、最奥からまろび出した闇より黒い烏鳶でビシュケの首を数本齧り取った。
『はあ?まだ、生きてんじゃん!!』
ディーゼが怒号を上げてガラシャを睨む。亡姫と戦いの隅で行く末を眺めていたガラシャは小さく肩を竦めると、機械の身体なのだから実際には睨まれていないはずなのに、声の調子と頭の角度でうまく感情を表すものだと感心して唸った。
『一応、ゾンビにしようとはしたのよ。相手が格上だから失敗したのかと思ってたけれど、そもそも死んでいなかったから、失敗したのかもしれないわね……』
『仮死状態だったのかのう?まあ、結果うまくいっておる。このままいけば、邪魔者が三ついっぺんに消えるぞ』
ひそひそと囁き合うと、ガラシャは木製のオールでアスファルトを剥がして食人鬼を、亡姫は遺灰を白粉と吹いて飛ばし餓者髑髏を戦場に放った。




