第096号室 Final Wave ただの神通力
―――バリケード焼失の28分前………
団地の中で一際高くそびえる送電塔の足元では、子供体型に大人以上に出すとこ出したドワーフの工匠、ホーリエが地面に引き摺るほどに長く伸ばした空色の髪を振り乱し、何やら怪しげな装置を組み上げていた。
「あは、無尽蔵の電力供給!有難いわね♡そ〜れ、スイッチオン!」
巨大な坩堝に巻きついた剥き出しの送電線が、ノイズを立てて余剰放電を放ち電気溶解炉を這いずると、中に投げ込まれたマンホールの蓋を溶かしていく。
「一回、成功すればいいのよ!もう9回失敗してるんだから、これで3度目の三度目の正直、そろそろ頼むわよ!?」
つまりは十回目のチャレンジだがホーリエにとって一回くらい誤差である。ブレーカーなんて物は無いので甘い配線の結合部から火花が飛び散り煙が上がる。
「もってよね!供給電力10倍だぁああ!!」
ただ気合いを込めただけなので特に電圧が変わったりはしていない。単純な時間経過で真っ赤を超えて真っ白に光を放ち、融解した鋼鉄が電磁浮遊を始める。
「このまま、鋳型にハマってしまえば良いのだわ!わはーーーっ!!!」
テンションの上がってきたホーリエが、つっかえ棒を蹴り落とすと螺旋を巻く送電線の中心から、溶解した鋼鉄の光球が鋳型に吸い込まれた。
「キュイイイィ………ィンン!!!」
無数の掃除機で代用された吸引機が、鋳型の隅々までに鋼鉄を流し込み形を整えると、役目を終えて熱風により内側から燃え出す。
「このままではただの鉄塊!あは!!でもここからが錬金術なんです!!」
鋳型の外側に取り付けられた小型の電気炉から秘伝の合金を差し込み、ただの鉄器とは異なる魔道具へと仕上げていく。
「アブラ・カタブラ・ヤサイ・マシマシ・カラメ・ニンニク……!」
適当言ってるだけで意味なんて無い。融点の異なる金属が想定通りの反応を示して気化すると、爆発を起こして内側から鋳型が破壊され、あらわになったホーリエの身の丈を超えるハンマーに、耐熱材代わりの髪の毛を巻き付け持ち上げた。
「くぅ〜!鋼鉄がキンキンにハジケているわ!?」
赤熱する鋼鉄の熱さも、飛び散る火花も、湧き上がる有毒の蒸気も、生命の禁忌を侵して培養された肉の塊、ホーリエを害することはない。
「これで、やっと私も闘えるかしら?」
最後の仕上げに酸溶液で表面を洗う。団地で見つけて来た酸性洗剤を濃縮して代用したが上手く行ったようだ。表面の不純物と一緒に溶けた髪の毛が混ざり合って、空色のプリズムに輝くコーティングをハンマーに施した。
「あは!ミョルニルなんて物は、幾らでも作ればいいのよ!」
人の世にも伝わる神すら砕く鉄槌の名を冠したハンマーを掲げてホーリエが吠える。でも、電源入れっぱなしで放置されていた溶解炉がここで爆発!ホーリエはフェードアウトした。
「あああぁぁぁ………!!!」
ーーー
『あ、電話かかってきた!んん〜〜……で?』
女児アニメの住民、ソヒィちゃん達は吸血鬼なので寿命が長い。が、不死身では無いので弱肉強肉、神だって肉の団地の中ではあっさり死んでしまうことも多い。
それでも、がんばって頑張って経験値を溜めてレベルを上げて、レアリティの高いコスチュームを揃えて、固有レアリティ持ちと呼ばれるまでになったソヒィは往々にしてお年寄りである。
団地攻略ガチ勢のみんなとぼーっとしてたらはぐれてしまい、なぜかソヒィ達のマネージャーをやらされているゾンビっ子ドォロミは、シニア向けスマートフォン、らくらくスマフォを凝視してもたつく城下人柱の飛鼠逆ノ亡姫の横から通話ボタンを押してあげた。
「……お婆ちゃんここ」
『あ、つながった?……うん……うん……うん?いや、まだ…………うん……うん?……丁度よかった、ええ、いるのよ……うん、そう、……はい、またね〜』
白無垢の婚礼衣装を身に纏い、団地の小さなイベント会場でマジックショーを観させられていた亡姫は、寂れたステージの上で電話が終わるのを待っていた相手に向き直った。
『電話おわった?じゃあ続きします。ちゃらら、ららら〜♪……』「wow wow wow yeah〜♪」
下手なマジックショーの続きを始めたのは、半面の可愛らしい狐面を被り、九尾を左右に振って、謎のステップを踊るバニースーツの少女ビシュケちゃんと、お囃子はその助手で孫の巫女狐ちゃん。
アホな見た目をしているが百面九十九尾・殺生・美醜狐、団地に住まう名のある異形であれば、知らぬ者はいない神宮団地の大地主である。
アホになったのは比較的最近のことで、何でも愛息子が白髪で蛇のような人間のビッチに寝取られて、いと哀れ、脳が破壊されたらしい。
アホになってしまっているとはいえ、到底サシで敵う相手ではない。厄介なのに絡まれたなと亡姫は頭を抱えていたがガラシャからかかってきた、電話の内容に運が向いてきたかもと思い直した。
『〜♪じゃあいきます。タネも仕掛けも無いシルクハットをステッキで叩くと?あら♪ふしぎ!\じゃーーん/ハクチョウがパタパタ、パタパタ!!』
要はアルビノのフェニックスである。
『うわっ!幻獣出しおったわ……普通ハトでしょ』
『ハトは、鳥居にフンするからや〜なの!』
火の粉を撒き散らして飛び去るフェニックスのお陰で団地が火事になる。
『第一、お前がやっているのは手品じゃなかろう?普通手品は、タネも仕掛けも無いとか言っておきながら、実際はタネも仕掛けもてんこ盛りなのじゃ。それをタネはどうなっているんだろう?仕掛けを見破ってやろう!っと、構えて観るのが楽しいわけじゃ!』
首を傾げるビシュケに亡姫が指をさす。
『お前のは、本当にタネも仕掛けも無いのだから、ただの神通力なのじゃ。じゃあ、ある意味タネも仕掛けもバレバレなのだから、楽しむ余地が全く無いと思わんか??』
『ぁ、あややーー…………!』
完全に論破された稲荷神ビシュケちゃんは、脳が溶けたので御付きの巫女狐共々、亡姫の手下になった。




