↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
伏魔団地  作者: 真暗森
【第1号棟  名状しがたい水底の怪影】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

56/101

第056号室 水底団地 触手甲冑

 決壊したダムの底より現れた”水底団地(ルルイエ)”のまさに中心で、上半身裸のボブの三叉槍(トライデント)と、千手観音と化した指揮触(リーダー)の鉄柱が交差する。


 支配触(マジェスティー)が死んだ。それが何を意味するか、ダゴンの触手の中で指揮触の序列が一つ繰り上がったという事だ。指揮触の感情には戸惑いの思いはあっても、怒りや悲しみといったものは存在せず、むしろただ巨大で力が強いだけの(つたな)く愚かしい、名ばかりの頭目の死に際して、その功績を誇示するかのように立ち上がり、天を指す客船に嬉々として感謝はすれど、同族を殺されたと恨む気持ちは欠片も持ち合わせていなかった。


 ボブが鉄柱を外へ()なし三叉槍を(かえ)して指揮触の口元の触手(ひげ)を散らす。指揮触が道路標識を下段から足払い、そのまま振り上げ触手を伸ばし、飛び退る相手の間合い管理を壊して叩き付ける。


《ダムの崩壊は余計だった。苦労して整えた環境が元の木阿弥(もくあみ)、団地の藻屑である。暫く白けて呆けてしまったが人魚共め、流石に車による突撃は効いた。お陰で痛みを思い出した。痛みは怒りを呼び、怒りが憎しみへと繋がる。再び生の糧を得た、次は貴様らの死を生の喜びとする。な~に………ダムはまた造ればいい、団地(ここ)の有り(よう)は大体分かった。次は地平の果てを水平線に変え、全てを大海の底へと沈めて見せようさ》


 ボブが半身に片手を伸ばし三叉槍の柄元(つかもと)に指を掛け、フェンシングを想起させるフォームで縦斬り。遠間(とおま)を貫く為伸ばし細まった触手を打ち払い、保持し切れなくなった道路標識が触手を離れ、ボブの頭上を掠め瓦礫へ返る。


《瓦礫と泥濘(ぬかるみ)に覆われた足場、二足で立つばかりか(あまつさ)え戦闘をこなすとは、人間にしては良く動けている》


 がらくたを得物にした触手による飽和攻撃、懐中電灯の光が目を潰し、ポリバケツから砂利が放られ、捻じ切れた鉄柱がしなり、底の割れた酒瓶が風を切り、跳ねたタイヤが横合いから迫り、フライ返しが襲い掛かる。


《だが、無駄である》


 ボブが腕を突き出し懐中電灯の光と砂利から目を守り、三叉槍で鉄柱を叩くが束ねられた触手の力に押し切られる。酒瓶を腹筋で止めるも(なじ)られ肉を削がれて、跳ねたタイヤが酒瓶を砕き鳩尾(みぞおち)にめり込んだ。


《手数が違う、膂力(りょりょく)が違う、間合いの広さも、スタミナも、素早さも、何もかも、触手(ダゴン)と人間とでは、種としての次元が違うのだ!》


 指揮触が四つん這いに突っ伏した相手の頭へ、スプレー洗剤を吹き掛けフライ返しで返して煽ると同時に、半数の触手を束ねて編み込み、重ねて固め、鉄柱絡めて大合掌、大上段に捻りもす。


《曲がりなりにも数合、打ち合えただけマシと心得え、散るがいい!!》


 お辞儀をするように振り下ろされた触手観音式兜割(センジュカブトワリ)は不可避の一閃、受けの三叉槍もろとも叩き潰す威力だったが、僅かに横に逸れて地面を(えぐ)った。


《………厄介な奴がいるな?》


 鉄柱を握る触手の束が円状に裂けている。一拍置いて響いた銃声を聞いて、自身が狙撃された事を悟った指揮触は、素早く伏せて追撃を躱し、首を一回転、全方位を見渡す八つの瞳を造り、狙撃手の位置を探す。その中でもボブへの警戒は怠らず、三叉槍を捌きつつ、狙撃地点に当たりを付けて遮蔽物へ身を隠した。


「いや~ギリギリでした。上に跳ねたけど当たりましたね。十分通用しています」


 甘い調整のスコープが取り付けられた重機関銃から教授が顔を離す。立ち上がった客船を目指していた教授は、行きがけに上がったロケット弾の爆発を見てボブと合流する為、爆発の痕跡を追う内に闘うボブと指揮触の姿を見付けていた。


「人魚の血、効くぅ………!」


 腹筋に刺さったガラスを払い、痛みは引かなくても傷が治癒している事を確認してボブが呟き、響いた銃声から使われた銃器の種類を、教授に預けた狙撃用に組み替えた重機関銃と同定した。


 狙撃手の技量を測る為、遮蔽物から頭に似せた触手を這わし、影から現わすと数秒おいて撃ち抜かれたのを見、指揮触が攻めあぐねて苛立ち、皮一枚で繋がり機能を失った触手を噛みちぎる。


(いい腕だ、教授は狩猟経験があると言っていたし、如何にも上流階級って感じするな)


 ボブは息を整えながら指揮触を分析する。相手の好む間合いで使われる触手、一本一本の力は自分の腕力と同等に思える。懐に潜り込めば太く縮めた触手に圧殺され、遠間では攻撃が届かない。お座なりな技術を補って余りある手数の多さ、一人ではとても捌き切れる量ではなかった。教授の参戦は有り難い、銃弾が通用するのも有り難い、教授が狙撃し易い立ち回りを取るべきだろう。


 指揮触が触手の外套を翻し、身体の内に隠していた錆び付いたナイフを投擲する。軍事基地で催された野球イベントで、本気のメジャーリーガーからホームランを量産したボブにとっては、何の変哲も無い甘く入った球であり、三叉槍でピッチャー返し、指揮触が逆に刺さったナイフを地面に叩き付ける。


 指揮触が全身から粘液を噴き出し、泡立ち、泥と瓦礫とゴミを取り込んで細動、猛烈な振動で弾けた水分子が気化すると、その表皮が乾燥してヒビ割れ、黒く変色し油の染みた鉄鍋のように硬質化する。


 指揮触が遮蔽物から姿を表し、空かさず教授の狙撃を側頭部に受けるも、反動により首を傾げた程度で意に返さず、銃弾の飛んで来た方向へ触手を真っ直ぐ指し示した。


「ああ、位置がバレたかも………?それより何ですか?色が変わったと思ったら、途端に銃が通用しなくなりましたね?人間だったら掠っただけで霧になるんですよ??」


 教授が指揮触の圧力(プレッシャー)に耐えかね、気合を入れて重機関銃を持ち上げて、引きずるように移動を始める。


「第二形態ってヤツか?」


 姿を変え重機関銃の狙撃を攻略して見せた相手に、ボブが独り言のつもりで言葉を漏らしたが、それを聞き指揮触が唐突に人語を返した。


『ナメテンジャネエ!!』


 人外の技巧から繰り出された触手の鉄拳は、全くの油断も(おご)りも、瞬き程の隙も無く構えていたボブの反応許さず、顔面へとめり込んだ。



挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。