第057号室 水底団地 狂う指揮触
身体を硬質化させ防弾性を備えた指揮触の鉄拳がボブの顔面を打つ、反射的に首を回しダメージを逃し、目では追えない速度で繰り出されるラッシュに、感覚で合わせてパーリング、瓦礫と泥濘に脚を取られながらもダッキングとスウェーで辛うじて躱す。
『サッサトクタバレヤーー!!』
指揮触が一際太い触手を唸らせローキック、膝を上げてガードしたボブの反対側の脚へ同時にローキック、二足では収まらない触手ならではの技が綺麗に決まる。
「それは、ずるいだろ………!!」
『ウルセェエエエ!!!』
脚を庇い動きの止まったボブへ向け、束ねた触手を振り被る。絶対に殺すと意気込み滾らせ踏み込む触手が教授の狙撃を受けてスリップダウン、身体の側面を地面に強打する。
『アァアアアア!!クソガァアアアア!!!』
「流石に大技の前には、付け入る隙が有りますね。スコープの調整も仕上がって来ましたよ!あとは、もう少し止まってくれたら、オートでブチ込めるのですが………!」
教授がひーひー言いながら重機関銃を持ち上げ、更に接近しようとし、その必要がなくなった事を悟り、慌ててオートへ切り替える。
『サキニ、テメェヲ、ブッコロシテヤルッ!!!』
「ああ!ちょっと、待ってください!」
素人レベルの甘いカバーリングが看破され、居場所の露呈した教授に向かい、ボブを放置して指揮触が駆ける。
低空を飛ぶように触手を振り乱し、特に厚く硬質化された触手の層を前面に被せる。重機関銃のオート射撃であっても、角度の付いた指揮触の装甲板は、削り切れずにあえなく弾切れ、完全に硬質化させた結果、変質性を失った触手の塊を自切して、腰を抜かして虚空を見上げる教授へ投げ付ける。
「ええ………シスター?何で、そんな事になってるんですか?………うっ!!」
触手の塊をモロに受け教授が倒れる。トドメを差すべく鉈状に硬質化した触手を振り上げたが、突然陰った空と先の相手の視線の行方が重なり、指揮触は本能のままに地に伏せた。
「うりゃあああああああ!!」
『ナンダテメェエエエッ!!』
空から落ちる砲弾のようにかっ飛んだシスターの膝蹴りが伏した指揮触を掠める。蜘蛛の脚を想わせるスカートの装飾が落下の衝撃を吸収し、無拍子で反転すると共に、正気とは思えない露出の、辛うじて修道服とわかる紅白の衣装を翻し、これまた正気とは思えない雰囲気のシスターが吠えた。
「人に向かって、いきなり『エッッッ!!』っとは失礼なぁあああ!!!」
『ンエッ?』
「また、『エッッッ!!』って言ったぁあああ!!!」
蜘蛛の巣状のパラシュートで指揮触を拘束し、蜘蛛の膝蹴、修道服の蜘蛛の脚を支えに顔面を蹴り付ける。
蜘蛛の脚で飛び上がり、両腕と腰、片方の踝から糸を吐いて指揮触の頭を絡めると、その鼻っ柱へ、蜘蛛の綱渡、空中で加速し蹴り倒す。
倒れたまま蜘蛛の巣から逃れようと身体をくねらす相手の顔へ、着地の勢い乗せて地を腹這うシスターが、蜘蛛の抱擁、指揮触の頭を抱えて膝を蹴り込んだ。
『コノ、ヘンタイガ………!』
「んん………!!!」
ぐうの音も出ないシスターが更に膝を挿れようと相手の頭を鷲掴みにする。されるがままに頭を掴まれた指揮触は、首を伸ばし身体を捻って蜘蛛の巣から抜け出すと同時に背後へ回り、人外の触手固め、シスターを組み伏せる。
体格差に物言わせシスターを強引に押さえ込み、脚に触手を巻かせて跪かせる。腰を蹴り付け、首に巻き付き絞めて引っ張り引き延ばし、唯一の修道女要素の頭巾が剥がされる。
「ああ…ダメです……!それは返してください………!!」
ゼンマイのように渦巻く触手の万力がギリギリと関節を極め、背中を反り返させてみしみしと骨を軋ませ、肉に食い込む触手が毛細血管を裂いてプチプチと音を立てる。
「うっ………くぅう………………!!!」
首絞めにより頸動脈を閉ざされた効果は瞬時に現れ、蟷螂模した鎌の付け爪による抵抗も、ロクに行なわれる事なくシスターが失神する。
指揮触がシスターの首へ巻き付けた軟質の触手を改めて、黒く硬く逞ましく、鈍く輝く硬質化した触手へ変え、その首をへし折るべく密着して固定する。
身体を捻って瞬間的に力を加え、桜色に紅潮したシスターの首を容易く手折り、糸の切れた人形のように打ち棄てる筈の剛腕だったが、一筋の光を浴びて根元からスルリと地に落ち、背中を蹴り付ける脚が中程から分たれ、堪らず指揮触が崩れ落ちた。
『ツギカラ、ツギエト!!ッッッ~~~………!!!』
首元へ間髪入れず打ち込まれる剣閃の前にシスターを挟み込んで止め、闖入者へ投げて寄越して隙を作り、距離を取って起き上がる。
『コザカシイ、ニンゲンドモメ!!』
「おうよ!……それより何だ〜?この痴女は………??」
刀を引っ提げ合流したダヴィは、まずシスターの痴態に驚いた。




