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第5話 追い出された令嬢は、実はなんでもできるらしい

 翌朝、目を覚ました私は飛び起きた。


「まずい!」


 完全に寝坊だ。

 フォルネーゼ家では、私はいつも一番早く起きていた。


 厨房の確認。

 使用人への指示。

 帳簿整理。


 やることはいくらでもあった。

 なのに。

 窓の外はすっかり明るい。


「ど、どうしよう……!」


 慌てて部屋を飛び出す。


 広い廊下。

 高級そうな絵画。

 豪華な花瓶。

 落ち着かない。


 そのまま屋敷を歩いていると、使用人たちが慌ただしく動いているのが見えた。


「おはようございます!」


 反射的に声をかける。

 使用人たちが一斉に固まった。


「え?」

「お、お嬢様?」

「そんな大声でご挨拶を……?」


 変だっただろうか。


「すみません!」


 条件反射で謝る。


「謝らないでくださいませ!」


 今度は怒られた。

 なぜ。


「エリシア様!」


 昨日の侍女が駆け寄ってくる。


「もうお体はよろしいのですか?」


「はい! ご迷惑をおかけしました!」


「だから謝らないでください!」


 また怒られた。

 難しい。


 その時だった。


「誰だ、厨房の在庫管理をしたのは!」


 怒声が響く。

 料理長らしき男性が青ざめていた。


「も、申し訳ありません! 発注数が――」


「肉が足りん! 今夜の晩餐に間に合わないぞ!」


 厨房が騒然としている。

 私は思わず足を止めた。


 ……肉の在庫表。

 ちらりと見える。


 瞬時に違和感がわかった。


「あの」


 思わず口を挟む。

 全員がこちらを見た。


「南倉庫の塩漬け肉、確認されましたか?」


「……は?」


「三日前の搬入分です。帳簿だと仮保管扱いになってます」


 料理長が目を見開く。


「なぜそれを」


「在庫番号が飛んでいたので」


 沈黙。


 料理長が慌てて部下へ指示を飛ばす。


「確認しろ!」


 数分後。


「あ、ありましたーっ!!」


 歓声が上がった。

 厨房が一気に沸く。


「助かった……!」

「今夜終わったと思った……!」

「エリシア様すごい!」


 しまった。

 余計なことをしたかもしれない。


「も、申し訳ありません、勝手に」


「いや、助かりました!」


 料理長が両手で私の手を握る。


「旦那様が女性を連れてきた時はどうなることかと思いましたが、まさか仕事ができる方だったとは……!」


 女性を連れてきた時って何。

 そこへ。


「騒がしいな」


 低い声。

 空気が凍った。


 アレクシス様だった。

 使用人たちが一瞬で整列する。


 すごい統率力だ。


「旦那様! 実はエリシア様が!」


 料理長が興奮気味に説明を始める。

 私はどんどん居心地が悪くなった。


「勝手に口を出してしまって……」


「問題を解決したんだろう」


「え?」


「なら問題ない」


 アレクシス様は当然のように言った。

 それから厨房を見回す。


「今後、エリシアの発言は通せ」


「はっ!」


 えっ。


「ま、待ってください! そんな大げさな!」


「大げさではない」


 アレクシス様は私を見る。


「お前、有能だな」


 直球だった。

 頭が真っ白になる。


「そ、そんなこと」


「ある」


 また断定。

 この人、本当に断定しかしない。


「帳簿管理も在庫把握もできる。数字にも強い。しかも気づくのが早い」


 低い声が静かに響く。


「フォルネーゼ家は、随分惜しいものを捨てたらしい」


 胸がどくん、と鳴った。


 認められた。

 初めて。


 “いて当然”じゃなく。

 “役に立って当然”じゃなく。


 私自身を。


 アレクシス様はそのまま踵を返す。


「朝食を持ってこい」


「かしこまりました!」


 使用人たちが一斉に動き出す。


 その途中。

 アレクシス様がふと振り返った。


「あとエリシア」


「は、はい」


「もう少し自分を評価しろ」


 低い声。

 真っ直ぐな視線。


「お前は思っているより、ずっと価値がある」


 その言葉に。

 私はまた、泣きそうになってしまった。


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