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25/28

第25話 婚約翌日、公爵家が完全にお祭り状態です

「おめでとうございます旦那様!!」


 翌朝。

 公爵邸は大騒ぎだった。


 廊下には花。

 厨房はご馳走祭り。

 使用人たちは全員テンションが高い。


「ついに旦那様に春が!!」

「百年ぶりの奇跡!!」


 百年。

 この屋敷の人たち、本当にアレクシス様を何だと思っているんだろう。


「エリシア様!」


 侍女たちが私を囲む。


「本日から正式に婚約者部屋へ移動です!」


「その言い方やめてください!」


 私は顔を覆った。

 結局。

 本当に部屋を移されたのである。

 主寝室の隣へ。

 怖い。


「旦那様、昨夜めちゃくちゃ機嫌良かったですよ!」

「使用人全員に特別手当出ましたし!」


「えっ」


 アレクシス様、そんなことまで。

 その時。


「エリシア」


 低い声。

 振り返ると、アレクシス様がいた。


 今日も顔が良すぎる。

 しかも。

 視線が柔らかい。

 怖い。


「お、おはようございます……」


「ああ」


 彼は当然のようにこちらへ来る。

 そして。

 私の左手を取った。


「指輪、慣れたか」


 青銀色の婚約指輪がきらりと光る。

 見るたび胸が落ち着かない。


「……まだ少し」


「そうか」


 アレクシス様はその指輪へ軽く口づけた。

 侍女たちが崩れ落ちる。


「朝から甘い!!」

「旦那様が止まらない!!」


 私は真っ赤になった。


「アレクシス様!!」


「なんだ」


「普通にそういうことしないでください!」


「婚約者だが」


 最近その無敵ワード多くない?

 アレクシス様は静かにこちらを見る。


「嫌だったか」


 その聞き方ずるい。

 私は言葉に詰まる。


 嫌ではない。

 むしろ。

 胸がぎゅっとなる。


「……嫌じゃ、ないです」


 小さく答える。

 すると。

 アレクシス様の目が少し柔らかくなった。


「なら問題ない」


 またそれ。

 私は思わず笑ってしまう。

 本当にこの人、そこだけ全然変わらない。


 その時。


「旦那様!」


 執事が慌ててやってきた。


「フォルネーゼ家より面会希望が」


 空気が変わった。

 アレクシス様の目が冷える。


「誰だ」


「……レオン様です」


 沈黙。

 私は思わず息を呑む。


 レオン。

 元婚約者。

 アレクシス様は静かに紅茶を置いた。


「断れ」


 即答。


「ですが、“どうしてもエリシアに謝りたい”と」


 私は目を伏せる。

 謝罪。

 今さら。

 アレクシス様がこちらを見る。


「会いたいか」


 真っ直ぐな視線。

 以前なら。

 きっと私は断れなかった。


 でも。

 今は違う。

 私はゆっくり首を横へ振った。


「……いいえ」


 静かな声だった。


「もう、大丈夫なので」


 どくん。

 隣でアレクシス様の呼吸が少し止まった気がした。


 そして。

 彼は私の頭を優しく撫でる。


「そうか」


 低い声。

 でも。

 どこか安心したみたいだった。


「では帰らせろ」


「かしこまりました」


 執事が去っていく。

 私は少しだけ胸が痛んだ。


 でも。

 後悔はなかった。

 そんな私を見て。

 アレクシス様は静かに目を細める。


「……本当に強いな、お前は」


 私は小さく笑った。


「アレクシス様が、守ってくれるからです」


 次の瞬間。

 アレクシス様が完全に固まった。

 侍女たちが絶叫する。


「旦那様が止まった!!」

「今の致命傷では!?」


 私は首を傾げる。


「……アレクシス様?」


 すると。

 彼は片手で顔を覆った。


「……無自覚で落としにくるな」


 低く掠れた声。

 私は意味がわからず、ますます混乱した。

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