第22話 氷の公爵様、ついに公衆の面前でキスをする
「今のは反則だ」
耳元へ落ちる低い声。
私は真っ赤になった。
「な、何がですか……!」
「“ここにいたい”」
アレクシス様がじっとこちらを見る。
「そんな顔で言うな」
そんな顔って何。
私は完全に混乱していた。
だが。
周囲はもっと混乱していた。
「今、“ここにいたい”って……」
「完全に両想いでは!?」
「公爵様、今夜倒れるのでは……?」
最後何。
その時。
「ヴァンフォード公爵閣下」
重厚な声が響いた。
振り返ると、王宮騎士団長だった。
壮年の男性で、アレクシス様とも顔見知りらしい。
「ほう」
騎士団長がこちらを見て笑う。
「ようやく本気になったか」
「……うるさい」
アレクシス様が珍しく嫌そうな顔をした。
えっ。
この人こんな顔するんだ。
「昔は“女に興味はない”などと言っていたくせに」
「今も興味はない」
「ではそのお嬢さんは何だ」
沈黙。
会場中が息を呑む。
アレクシス様は数秒黙ってから。
当然のように私の腰をさらに引き寄せた。
「特別だ」
会場が爆発した。
「きゃーーーー!!」
「言った!!」
「公爵様が特別って!!」
私は顔を覆った。
無理。
もう無理。
騎士団長が大笑いしている。
「なるほど。完全に落ちたな」
「否定はしない」
アレクシス様が平然と返す。
だめだ。
最近この人、開き直り始めている。
「お嬢さん」
騎士団長が私へ向き直る。
「苦労すると思うが頑張りたまえ」
「えっ」
「こいつ、独占欲が強いからな」
「余計なことを言うな」
「事実だろう」
否定しないんだ。
私は思わずアレクシス様を見る。
彼は少しだけ視線を逸らした。
……照れてる?
今?
その瞬間。
どくん、と胸が跳ねた。
ずるい。
そんな顔するなんて。
「……エリシア」
「は、はい」
アレクシス様が低く名前を呼ぶ。
青い瞳が真っ直ぐこちらを見ていた。
熱い。
逃げられない。
「もう一度言え」
「え?」
「ここにいたい、と」
思考停止。
「む、無理です!」
「なぜだ」
「恥ずかしいです!」
会場中見てるんですよ!?
だが。
アレクシス様は逃がしてくれない。
「私は聞きたい」
低く甘い声。
周囲がざわつく。
「公爵様がお願いしてる……」
「奇跡では?」
この人、本当に王都でどんな扱いだったんだろう。
「エリシア」
また名前を呼ばれる。
ずるい。
そんな声で呼ばないでほしい。
私は真っ赤になりながら、小さく呟いた。
「……ここに、いたいです」
次の瞬間。
アレクシス様の表情が変わった。
理性が切れたみたいに。
「アレクシス様……?」
彼は私を見下ろしたまま、静かに息を吐く。
「もう限界だ」
「え?」
そして。
次の瞬間。
顎を持ち上げられた。
「っ」
近い。
顔が。
会場が静まり返る。
私は目を見開いた。
そのまま。
アレクシス様の唇が、そっと私へ触れた。
柔らかい。
一瞬だけの口づけ。
なのに。
頭が真っ白になる。
数秒後。
会場が大爆発した。
「きゃあああああああ!!!!!」
「キスした!!」
「公爵様が公衆の面前で!!」
私は完全にフリーズしていた。
だが。
アレクシス様は平然としている。
むしろ少し満足そうだった。
「……これで全員理解しただろう」
低い声。
そのまま私を抱き寄せる。
「お前は私のだ」




