第20話 妹、最後の悪あがきをする
「……許せない」
リリアは鏡台を叩きつけた。
ガシャン!!
香水瓶が床へ落ちて砕ける。
「お姉様ばっかり……!」
最近ずっとそうだ。
父親も。
使用人も。
レオンも。
全員が“エリシア”ばかり見ている。
しかも今度はヴァンフォード公爵まで。
「なんで……!」
自分の方が可愛い。
愛嬌だってある。
なのに。
どうして地味な姉が選ばれるの。
「お嬢様……」
侍女が怯えた声を出す。
リリアは振り返った。
「何」
「そ、その……また商会から催促が……」
「知らないわよ!」
叫ぶ。
侍女がびくっと震えた。
「全部お姉様が悪いのよ!」
エリシアが出ていったせいで、全部おかしくなった。
使用人たちは辞める。
帳簿は混乱。
夜会の招待も減った。
最近では社交界で陰口まで聞こえる。
『本当に有能だったのは姉の方らしい』
腹が立つ。
悔しい。
その時。
「リリア」
低い声。
父親だった。
ひどく疲れた顔をしている。
「お前、今夜の夜会へ行け」
「夜会?」
「ああ。ヴァンフォード公爵も来る」
リリアの目が光る。
「……なるほど」
ゆっくり口元が歪む。
まだ終わっていない。
男なんて単純だ。
少し優しくすればすぐ揺れる。
姉みたいな地味女より、自分の方が魅力的に決まっている。
「やってみる価値はあるわね」
父親は嫌な顔をした。
「余計なことはするな」
「大丈夫です、お父様」
リリアはにっこり笑う。
「私、男性に好かれるの得意ですもの」
一方その頃。
「……嫌な予感がする」
私は夜会用ドレスを前に青ざめていた。
今回のドレスは深い青。
背中が少し開いている。
無理。
露出が多い。
「これ本当に着るんですか!?」
「旦那様指定です」
侍女が真顔で答える。
怖い。
最近アレクシス様の好みが反映され始めている。
「肌を見せた方が綺麗だから、と」
ぶふっ。
私はむせた。
「な、なに言ってるんですかあの人!?」
侍女たちがニコニコしている。
「旦那様、独占欲が限界なんですよ」
「最近エリシア様見てる時の目が危険ですし」
危険って何。
その時。
「エリシア」
低い声。
またタイミングが悪い。
「は、はい!」
振り返ると、アレクシス様が立っていた。
そして。
私を見るなり止まった。
沈黙。
部屋が静まり返る。
「……アレクシス様?」
彼はゆっくり近づいてくる。
青い瞳が真っ直ぐこちらを見ていた。
熱い。
視線が熱い。
「綺麗だ」
低い声。
また直球。
私は真っ赤になる。
「そ、その……背中が開きすぎでは」
「問題ない」
「あります!」
アレクシス様は少しだけ眉を寄せた。
「……他の男には見せたくないが」
「ならなぜ選んだんですか!?」
「私が見たい」
思考停止。
侍女たちが崩れ落ちる。
「重い愛!!」
「独占欲が限界突破してる!!」
私は顔を覆った。
だめだ。
この人、最近どんどん素直になっている。
危険すぎる。
アレクシス様はそんな私を見て、静かに目を細めた。
「今夜は、絶対に離れるな」
低い声。
「嫌な虫が寄ってきそうだ」




