第19話 なぜ私なんですか
「正式に、私のものにする」
その言葉の破壊力が強すぎて。
私はしばらく動けなかった。
アレクシス様の腕の中。
近い。
熱い。
心臓がうるさい。
「ア、アレクシス様……!」
なんとか顔を上げる。
銀色の髪。
整った顔。
青い瞳。
近くで見ると本当に危険だ。
「……どうして」
ぽつりと零れる。
「どうして、私なんですか」
部屋が静まった。
侍女たちも息を呑む。
私はずっと不思議だった。
だって。
私は特別美人でもない。
社交界でも地味だった。
家では便利な人間扱い。
そんな私を。
どうしてこの人は、こんなに欲しがるのだろう。
アレクシス様はしばらく黙っていた。
やがて。
静かに口を開く。
「最初は」
低い声。
「雨の中で、お前が泣かなかったからだ」
「……え?」
「普通なら縋る。恨む。取り乱す」
静かな視線が私へ向けられる。
「だが、お前は最後まで頭を下げていた」
胸が少し痛む。
あれは。
そうするしかなかっただけだ。
「それから気になった」
アレクシス様の指が、私の髪をそっと梳く。
「屋敷へ連れてきて、さらにおかしいと思った」
「おかしい……」
「お前、自分を後回しにしすぎる」
即答だった。
「使用人に気を遣い、厨房を手伝い、倒れていても謝る」
うっ。
全部やった。
「しかも有能だ」
「またそれを……」
「事実だ」
アレクシス様は少しだけ目を細める。
「誰より働いていたのに、誰もお前を評価していなかった」
低い声。
その奥に、少し怒りが滲んでいた。
「……腹が立った」
私は目を瞬いた。
「お前はもっと、大切に扱われるべき人間だ」
どくん。
胸が跳ねる。
そんな風に言われたこと、ない。
「あと」
アレクシス様が少し視線を逸らした。
「一緒にいて落ち着く」
部屋が静まり返る。
侍女たちが固まっていた。
私は思考停止する。
「…………え?」
「静かで、真面目で、優しい」
低い声。
「私の屋敷の空気まで変えた」
侍女たちがぶわっと泣き始めた。
「旦那様が素直!!」
「歴史的事件です!!」
うるさい。
でも私も混乱している。
アレクシス様はそんな周囲を無視して、真っ直ぐ私を見る。
「エリシア」
「は、はい」
「私は、欲しいものは手放さない」
またその言い方。
なのに。
怖くない。
むしろ。
胸が熱くなる。
「お前が欲しい」
低く静かな声。
「隣にいてほしい」
私は息を呑む。
この人は。
ただ囲いたいわけじゃない。
ちゃんと見ていたのだ。
私を。
「……ずるいです」
思わず零れる。
「そんな風に言われたら、嬉しくなるじゃないですか」
アレクシス様の目が少し柔らかくなる。
「嬉しいのか」
「……はい」
小さく頷く。
すると。
彼はゆっくり私の額へ唇を落とした。
部屋が爆発した。
「きゃーーーーー!!!!!」
「額キス!!」
「旦那様ついにやった!!」
私は真っ赤になって固まる。
だが。
アレクシス様は珍しく少しだけ満足そうだった。




