第18話 正式な婚約申し込み
「正式に婚約を申し込む」
その言葉に。
私は完全に固まった。
「…………え?」
部屋が静まり返る。
侍女たちも停止していた。
数秒後。
「きゃーーーーー!!!!!」
大爆発した。
「ついに!!」
「正式ルート来ました!!」
「旦那様が外堀を埋め切った!!」
「うるさい」
アレクシス様が低く言う。
だが侍女たちは止まらない。
「お赤飯です!」
「まだです!」
私は思考停止していた。
正式?
婚約?
え?
「ア、アレクシス様……」
「なんだ」
「それ、どういう意味ですか……?」
本当にわからなかった。
だってこの人。
最初から距離感がおかしいので。
どこまで本気なのか判別不能なのだ。
アレクシス様は静かにこちらを見る。
「言葉通りだ」
「ひっ」
真っ直ぐすぎる。
「私はお前と結婚したい」
侍女たちが再び崩れ落ちた。
私は顔が爆発しそうだった。
「む、無理です!!」
「無理ではない」
即答。
「で、でも、私はただの伯爵令嬢で!」
「問題あるか」
「あります!」
ものすごくある。
「公爵家ですよ!?」
「王都中が騒ぎます!」
「もう騒いでいる」
それはそう。
夜会の件で完全に広まっている。
“氷の公爵が女を囲った”と。
……言い方。
「それに」
アレクシス様が一歩近づく。
また近い。
「私は身分で相手を選ばない」
低い声。
「欲しいと思った相手を選ぶ」
どくん。
胸が跳ねる。
「お前がいい」
無理。
耐えられない。
私は顔を覆った。
「ずるいです……」
「何がだ」
「そういう言い方です!」
アレクシス様は少しだけ目を細めた。
最近わかってきた。
この人、私が照れると微妙に機嫌が良くなる。
危険だ。
「……嫌か」
ふいに。
声が少しだけ低くなった。
私ははっと顔を上げる。
アレクシス様は静かにこちらを見ていた。
真っ直ぐな目。
逃げ道を塞ぐみたいに。
「嫌ならやめる」
その声は穏やかだった。
でも。
少しだけ不安そうだった。
その瞬間。
胸がぎゅっと締めつけられる。
「……嫌じゃ、ないです」
小さな声。
侍女たちが息を呑む。
アレクシス様の目が少し柔らかくなった。
「なら問題ない」
またそれ。
私は思わず笑ってしまった。
「問題ありますよ、いっぱい……」
「例えば」
「全部です!」
アレクシス様は静かにこちらへ手を伸ばす。
そっと頬に触れる。
熱い。
心臓がうるさい。
「エリシア」
「……はい」
「お前は、私といるのは嫌か」
またそれを聞く。
ずるい。
そんな聞き方。
私は唇を噛む。
嫌じゃない。
むしろ。
一緒にいると安心する。
守られていると思ってしまう。
こんな風に大切にされたこと、今までなかったから。
「……嫌じゃ、ないです」
今度はちゃんと言えた。
アレクシス様は数秒黙っていた。
それから。
ふっと息を吐く。
安心したみたいに。
「そうか」
そして次の瞬間。
ぐい、と抱き寄せられた。
「ひゃっ!?」
「旦那様大胆!!」
「ついに抱き込んだ!!」
侍女たちが騒いでいる。
私は真っ赤になった。
だが。
アレクシス様の腕は思ったより優しかった。
壊れ物を扱うみたいに。
「逃がさない」
耳元へ落ちる低い声。
ぞくり、と背筋が震える。
「正式に、私のものにする」




