第17話 公爵様、ついに我慢できなくなる
「……エリシア様」
「はい?」
翌朝。
私は侍女たちに妙な目で見られていた。
「旦那様、限界かもしれません」
「限界?」
「はい」
全員が真顔だった。
怖い。
「昨夜の夜会以降、機嫌はいいんです」
「それは良かったです」
「でも独占欲が隠れてません」
知ってる。
「先ほども騎士団長へ“エリシアに近づくな”と」
「えっ!?」
何してるんですかあの人。
「あと今朝、“エリシアの部屋を主寝室の隣へ移せ”と」
ぶふっ。
私は盛大に紅茶を吹きそうになった。
「な、な、なんでですか!?」
「知りません!」
侍女たちも興奮している。
「でも旦那様、完全に囲う気です!」
「今まで女性に興味なかった反動が!」
「重い愛が来てます!」
重い愛。
なんだそのパワーワード。
私は頭を抱えたくなった。
その時。
「エリシア」
低い声。
びくっ。
振り返ると、アレクシス様が立っていた。
今日も顔が良すぎる。
しかも機嫌がいい。
微妙に怖い。
「おはようございます……」
「ああ」
彼は当然のようにこちらへ来る。
そして。
ぽん、と頭に手を置いた。
「よく眠れたか」
「ひゃっ」
近い。
最近スキンシップが自然すぎる。
侍女たちが後ろで崩れている。
「旦那様が朝から触ってる……」
「重症だ……」
聞こえてます。
「アレクシス様、その、部屋を移すって……」
「ああ」
普通に認めた。
「なぜですか!?」
「遠い」
意味がわからない。
「今でも同じ屋敷ですよ!?」
「もっと近い方がいい」
真顔だった。
私は思考停止する。
「そ、それは……」
「不安になる」
静かな声。
私は目を瞬いた。
「え?」
アレクシス様は少しだけ視線を逸らした。
「お前、放っておくとすぐ無理をするだろう」
「うっ」
否定できない。
「あと」
彼はゆっくりこちらを見る。
「逃げそうだ」
どくん。
胸が跳ねた。
「逃げません!」
「本当か?」
低い声。
真っ直ぐな視線。
私は言葉に詰まる。
だって。
時々怖くなるのだ。
こんなに大切にされていいのか、と。
いつか夢みたいに消えるんじゃないか、と。
アレクシス様は私の表情を見て、少しだけ眉を寄せた。
「……やはり隣にする」
「決定事項!?」
逃げ道がない。
「アレクシス様!」
「なんだ」
「距離感がおかしいです!」
言ってしまった。
部屋が静まる。
だが。
アレクシス様は怒らなかった。
むしろ。
「そうか?」
本気で不思議そうだった。
だめだ。
本当に自覚がない。
「普通、こんなに……囲いません!」
「普通ではないからな」
さらっと返された。
しかも妙に説得力がある。
「お前が欲しい」
空気が止まる。
侍女たちが無音で崩れ落ちる。
私は真っ赤になった。
「~~~~っ!!」
無理。
朝からこれは無理。
アレクシス様はそんな私を見て、静かに息を吐く。
「……もう少し我慢するつもりだったんだが」
「な、何をですか……」
低い声が落ちる。
「正式に婚約を申し込むのを」




