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第2話 冷酷公爵様に拾われました

「……失礼します」


 恐る恐る馬車へ乗り込む。


 ふかふかだった。

 座席が。


 人生で一番柔らかい。

 しかも温かい。

 

 火属性魔石でも積んでいるのか、外の寒さが嘘みたいだった。

 私は濡れたドレスを押さえて小さくなる。


「服が汚れますので、私は床で――」


「座れ」


「ですが」


「命令だ」


 低い声に肩が跳ねる。

 怖い。

 ……でも逆らえない。


「……はい」


 おそるおそる座る。

 向かい側の公爵様はじっとこちらを見ていた。


 気まずい。


「あの……」


「痩せすぎだ」


「え?」


「まともに食べていないだろう」


 言葉に詰まる。


 食べていないわけじゃない。

 ただ、いつも最後だった。


 父と妹。

 それから使用人たち。

 全員が食べ終わった後、残ったものを食べる。


 それが普通だった。


「普通です」


「普通ではない」


 ぴしゃりと言い切られる。


「手も荒れている。爪も割れている。貴族令嬢の手ではないな」


 反射的に両手を隠した。


 帳簿整理。

 厨房仕事。

 洗濯。


 必要だったからやっていただけなのに。


「……随分雑に扱われていたらしい」


「そんなこと」


「ある」


 断定される。


 それ以上何も言えなかった。


 やがて馬車は大きな門を抜けた。


「旦那様、お帰りなさいませ!」


 扉が開くと、使用人たちがずらりと並んでいた。


 豪邸だった。

 フォルネーゼ家よりずっと大きい。


 私は完全に怯む。


「あの、やはり私は――」


「逃げるな」


 先回りされる。


 公爵様は当然のように私の手を取った。


「ここがお前の家になる」


 家。


 その言葉が胸に刺さる。


 そんなもの、もう失ったと思っていた。


 使用人たちがざわつき始めた。


「旦那様が女性を……」

「初めてでは?」

「奥様候補!?」


 違います、と言いたかった。


 けれど。


 公爵様は否定しない。


「風呂を用意しろ。それから温かい食事を」


「かしこまりました!」


 使用人たちが一斉に動き出す。


 空気が違った。

 誰も怯えていない。

 誰も顔色を窺っていない。


 フォルネーゼ家とはまるで違う。


「立てるか」


「あ、はい」


 立ち上がろうとして、足元がふらつく。

 次の瞬間。


 ふわり、と体が浮いた。


「えっ」


「歩けないなら運ぶ」


 私は公爵様に横抱きにされていた。


「ま、待ってください!」


 使用人たちが悲鳴を上げる。


「旦那様が女性を抱っこ!?」

「ついに春が来た!!」


 やめて。

 私も恥ずかしい。


「降ろしてください!」


「嫌だ」


「嫌って……!」


 公爵様は平然としていた。


「お前、熱があるぞ」


「え?」


「雨の中を歩いただろう」


 額に触れられる。


 熱い指先。

 低い声。

 近い。

 顔が良すぎる。


 私は完全に処理落ちした。

 そのまま屋敷の奥へ運ばれていく。


 後ろでは使用人たちがまだ大騒ぎしていた。


「料理長ー!今日はご馳走ですー!!」


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