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第14話 夜会デビューしたら、なぜか公爵様がずっと手を離してくれません

「婚約者として扱う」


 その一言の破壊力が強すぎた。


「む、無理です!!」


 私は全力で叫んでいた。


「無理ではない」


 アレクシス様は真顔だった。


「いや無理です!」


「なぜだ」


「全部です!!」


 説明が追いつかない。


 婚約者!? 誰が!? いつの間に!?

 侍女たちは完全にお祭り状態だった。


「きゃー!!」

「ついに!!」

「正式発表秒読みでは!?」


「違いますからーっ!!」


 叫んでも誰も止まらない。

 そのまま私は侍女たちに捕獲され、着せ替え人形状態になった。


「……え」


 鏡を見て、私は固まった。

 そこにいたのは知らない女の人だった。


 淡い銀青色のドレス。

 繊細な刺繍。

 編み込まれた金髪。

 胸元には小さな魔石の装飾が輝いている。


「うわあ……」

「エリシア様、綺麗……」


 侍女たちが感動している。

 でも。


「これ本当に私ですか……?」


「はい!」


 即答だった。

 その時。

 コンコン、と扉が叩かれる。


「旦那様です」


 空気が変わった。

 アレクシス様が入ってくる。


 黒の正装。

 銀髪。

 長身。


 だめだ。

 顔が強すぎる。


 彼は数秒、無言だった。

 侍女たちが息を呑む。


「……アレクシス様?」


 すると。

 彼はゆっくりこちらへ近づいてきた。


 そして。


「綺麗だ」


 低い声。

 真っ直ぐな視線。

 思考停止。

 侍女たちが崩れ落ちる。


「直球!!」

「旦那様が直球で褒めた!!」


 私は真っ赤になった。


「~~っ!」


 無理。

 耐えられない。


 アレクシス様はそんな私を見て、少しだけ目を細める。


「その顔をするな」


「どの顔ですか!」


「攫いたくなる」


 だめだこの人。

 本当に危険だ。


 夜会会場へ到着した瞬間。

 空気が変わった。


「ヴァンフォード公爵だ」

「隣の女性は……?」

「例の囲われ令嬢!?」


 やめて。

 その呼び方やめて。


 私はアレクシス様の後ろへ隠れようとする。

 だが。

 ぐい、と手を引かれた。


「離れるな」


「ひゃっ」


 そのまま手を繋がれる。

 待って。

 夜会で?

 こんな堂々と?


「アレクシス様……!」


「婚約者扱いだと言っただろう」


 低い声。

 逃げ場がない。

 周囲がざわついている。

 貴婦人たちが扇子の陰で騒いでいた。


「公爵様が手を……!」

「女性に触れてる……!」

「革命……?」


 革命。

 この人どれだけ女性に興味なかったんだろう。


 会場中央へ進む。

 視線が痛い。

 その時だった。


「エリシア……?」


 聞き覚えのある声。

 振り向くと。


 レオンだった。

 元婚約者。

 彼は私を見て絶句していた。


「な……」


 視線が私のドレスをなぞる。

 そして。

 アレクシス様と繋がれた手で止まった。

 顔色が変わる。


「どうして、お前がヴァンフォード公爵と……」


 その瞬間。

 アレクシス様の空気が変わった。

 冷たい。

 一気に温度が下がる。


「……誰の許可を得て、私の婚約者へ話しかけている?」


 静かな声。

 なのに怖い。

 レオンが青ざめる。


「こ、婚約者……?」


「問題あるか」


 問題しかない。

 私は内心叫んでいた。

 だが。

 アレクシス様は私の手をさらに強く握る。


「エリシア」


「は、はい」


「行くぞ」


 そのまま腰を抱かれた。

 会場中がざわつく。


 レオンは呆然と立ち尽くしていた。


 私は真っ赤になりながら。

 ただ必死に、アレクシス様へついていくしかなかった。

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