第13話 「婚約者として扱う」
「……俺だけにしろ」
その言葉が頭から離れなかった。
無理。
あんなの反則だ。
「エリシア様、顔真っ赤ですよ」
「うう……」
部屋へ戻ってからも、私はずっと顔を覆っていた。
侍女たちがニコニコしている。
「旦那様、完全に独占欲出てますねえ」
「囲い込みが順調」
「もう婚約発表も近いのでは?」
「違いますから!」
半分叫ぶ。
だが。
半分くらいは自信がなかった。
アレクシス様、最近距離感がおかしい。
いや最初からおかしかったけど。
どんどん悪化している。
その時。
コンコン、と扉が叩かれた。
「エリシア」
低い声。
私はびくっと肩を震わせた。
「ア、アレクシス様!?」
「入るぞ」
待ってくださいの猶予がない。
扉が開く。
侍女たちが一瞬で整列した。
「旦那様!」
アレクシス様は部屋へ入るなり、じっと私を見た。
「……まだ赤いな」
「誰のせいですか!」
思わず反論してしまった。
一瞬、部屋が静まる。
しまった。
公爵相手に。
だが。
アレクシス様は怒らなかった。
むしろ。
「そうだな」
少しだけ楽しそうに笑った。
ずるい。
顔が良すぎる。
「今夜、夜会へ出る」
「夜会?」
「ああ」
アレクシス様は当然のように続ける。
「お前も来い」
思考停止。
「え?」
「衣装は用意させる」
「待ってください!」
私は慌てて立ち上がった。
「わ、私なんかが公爵様の隣にいたら!」
「問題あるか」
「あります!」
ものすごくある。
社交界中が騒ぐ。
「噂になります!」
「もうなっている」
それはそう。
「ですが!」
アレクシス様は静かにこちらを見た。
「エリシア」
「は、はい」
「私は、お前を隠すつもりはない」
どくん。
胸が跳ねる。
「それに」
彼はゆっくり近づいてきた。
また近い。
「牽制にもなる」
「け、牽制?」
「お前に近づこうとする連中への」
低い声。
その目が少し冷える。
「もう私のものだと、理解させた方が早い」
思考停止。
侍女たちが無音で崩れ落ちた。
「旦那様強い……」
「囲い込みが加速してる……」
「わ、私ものじゃありません!」
「そうか?」
アレクシス様が首を傾げる。
なぜ不思議そうなのか。
「違います!」
「では離れるか?」
沈黙。
またそれ。
その質問ずるい。
私は唇をぱくぱくさせる。
離れたくはない。
でも。
でも。
「……っ」
言葉に詰まる私を見て。
アレクシス様は少しだけ目を細めた。
「素直だな」
「どこがですか!」
「顔に全部出ている」
だめだ。
この人には勝てない。
アレクシス様はそっと私の髪へ触れる。
「安心しろ」
低く穏やかな声。
「お前を馬鹿にする奴は、私が黙らせる」
胸が熱くなる。
守られている。
そんな感覚を初めて知った。
アレクシス様はそのまま侍女たちへ視線を向ける。
「一番似合うものを着せろ」
「かしこまりました!」
侍女たちが一斉に燃え始めた。
「戦です!!」
「旦那様を落とし切るドレスを!!」
「落とし切るって何ですか!?」
叫ぶ私を見ながら。
アレクシス様は静かに口元を緩めた。
「今夜からは、婚約者として扱う」
空気が止まる。
「…………え?」
私の思考は完全に停止した。




