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第12話 氷の公爵様、嫉妬する

 ドレスを大量購入した翌日。

 私は屋敷の一室で、山積みになった箱を前に固まっていた。


「……多い」


 どう見ても多い。

 十着どころではない。


 二十? 三十?

 数える気力もない。


「エリシア様、本当に旦那様に愛されていますねえ」


 侍女たちがニコニコしている。


「ち、違います!」


「違いません!」


 最近この流れ多くない?


 私はそっと淡い青のドレスへ触れた。

 昨日、アレクシス様が“似合う”と言ったものだ。

 思い出した瞬間、顔が熱くなる。


「うう……」


 無理。

 あの人距離感がおかしい。

 その時。


「エリシア様」


 若い使用人の青年が扉をノックした。


「庭師長が困っておりまして……少しご相談を」


「え?」


 庭師?



 中庭へ行くと、数人の庭師たちが頭を抱えていた。


「どうしました?」


「ああ、お嬢様!」


 庭師長が駆け寄ってくる。


「実は温室の管理記録が混乱しておりまして……」


 見せられた帳簿を見て、私は瞬時に理解した。

 あ、これ記録方式がバラバラだ。


「こちら、日付順じゃなく区画順にまとめ直した方がいいと思います」


「区画順!」


「あと水やり量、植物ごとに色分けした方が見やすいかと」


 庭師たちが感動した顔になる。


「天才では!?」

「なるほど……!」

「すごい、わかりやすい!」


 いや、普通では?


「ありがとうございます、お嬢様!」


 若い庭師見習いの青年が、キラキラした目でこちらを見る。


「やっぱりお嬢様ってすごいですね!」


「えっ、いえ、そんな」


「旦那様が夢中になるのもわかります!」


 ぶふっ。

 私は盛大にむせた。


「ち、違いますから!」


「ですが旦那様、最近ずっと機嫌いいですし」


「え?」


「前はもっと怖かったですよ」

「殺気で冬が来てました」

「近づくだけで凍る感じで」


 氷の公爵すぎる。


「でも今、お嬢様の話すると空気柔らかいんですよ!」


 ええ……。

 そんなことある?


 その時だった。


「……楽しそうだな」


 低い声。

 空気が凍った。


 庭師たちが一瞬で直立する。

 振り返ると。

 アレクシス様だった。


 黒い軍服姿。

 今日も顔が良すぎる。


「だ、旦那様!」


 庭師見習いの青年が青ざめる。

 アレクシス様の視線が、私の隣にいる青年へ落ちた。


「何をしていた」


 静かな声。

 でも怖い。


「えっと、温室の管理を少し……」


「そうか」


 アレクシス様がゆっくりこちらへ歩いてくる。

 そして当然のように。

 私の肩を抱き寄せた。


「ひゃっ」


 近い。

 また近い。


「寒いだろう」


「今日は暖かいです!」


「そうか」


 なのに離れない。

 庭師たちが震えている。

 特に見習い青年。

 かわいそう。


「旦那様、その、管理方法をエリシア様がすぐ整理してくださって……!」


 庭師長が慌てて説明する。


「ほう」


 アレクシス様が私を見る。


「また役に立ったのか」


「たまたまです!」


「たまたまでできる内容ではなかったが」


 低い声。

 そのまま私の髪を撫でる。


 人前です。

 人前なんですけど。


「優秀だな」


「~~っ」


 無理。

 耐えられない。


 庭師たちが完全にニヤニヤしている。

 そして。

 アレクシス様はちらりと見習い青年を見た。


「……あまり気安く話しかけるな」


 静かな声。

 でも圧がすごい。

 青年が真っ青になる。


「は、はいっ!」


 私は目を瞬いた。

 え?

 今の。

 もしかして。


「……嫉妬ですか?」


 ぽろっと口から出た。

 空気が止まる。

 庭師たちが息を呑む。


 アレクシス様は数秒黙ったあと。


「そうだが?」


 認めた。

 あっさり認めた。

 私は真っ赤になる。


「なっ……!」


 アレクシス様はそんな私を見て、少しだけ目を細める。


「他の男に笑いかけるな」


 低く甘い声。


「……俺だけにしろ」


 庭師たちが崩れ落ちた。


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