やつが来る
「一緒にクエストを受けてもらえませんか?」
彼に頼んで一緒にゴブリンを討伐するクエストに同行してもらえない聞いてみる。
実は王都に来る前に冒険者登録を完了させていたのだ。
異世界に来たばっかりの時は冒険者登録をしなかったけども結局することにした。
「いきなりだな」
「まだクエストを受けた事がなくて、冒険者の先輩が目の前にいるからチャンスだなぁと思って」
「クエストを受けた事ないのかよ。しかし、また何で冒険者をやってみたいと?」
彼に何で冒険者をやりたいのか質問される。
「最初は上手く魔法も使えなかったですし、近接戦闘が出来るわけでも無いから冒険者を始める気は無かったんです」
「それがどうして冒険者に?」
「魔法の適正がある事を夫に教えてもらったんです」
しかも僕の魔力は常人よりも多いようで自分のイメージした魔法を扱えて楽しかった。
正直なところ魔法を使って遊びたいのと異世界に来たからには冒険者をやってみたいというだけの理由だ。
「夫って俺を助けてくれた男のことだよね?」
「あ、はい。そうです」
彼が僕とイデアルが夫婦だって知ってる前提で話しちゃった。
「それで魔法を使ってみたら凄く楽しくて」
てっきり僕には魔法が使えないと思っていたから使えると知ったときは純粋に嬉しかった。
魔法というのは地球で暮らしていた僕にとってはアニメや漫画で見る身近だけどフィクションのような存在。
それが自分にも使えるんだから楽しくないわけがない。
「だから魔法を有効活用出来そうな冒険者になろうかなって」
まぁ、本気で冒険者をやっている人からしたらふざけんなよって感じかも知れないけど。
現に彼はなんとも言えない微妙な表情をしている。
「こんな軽い気持ちで冒険者をやられるのは嫌ですか?」
「嫌というか、いい気持ちにはならないかな。ただ、君は別に冒険者を本業として生きていこうとは思ってないだろ?」
「まぁ、そうですね」
「なら、そこまで気にならないかな。まぁ、帰る場所があるのは羨ましいけど。僕から冒険者というステータスを取ったら何が残るのか分かったものじゃない」
確かにイデアルが居るから僕は安心して異世界を楽しめている。
イデアルからは愛を凄く感じるし、何かあれば助けてくれるという安心感もある。
安全な居場所があるからこそ色々な事にチャレンジしてみよう思えている部分はある。
日本に住んでいた頃は生きるのに必死で新しい事に挑戦する気力も無かった。
「まぁ、危ないから軽い気持ちで冒険者をやるのはオススメしないけどね」
「そうですよね、無理に僕に付き合わなくてもいいですよ」
僕みたいな趣味で冒険者をやろうとしている奴の引率は彼も嫌だろう。
「いや、君の旦那には命を助けてもらったし今日は付き合うよ」
僕みたいなのに付き合ってくれるなんて良い人だな。
「いいんですか?」
「あぁ。それに可愛い女の子と一緒にいる事が出来て嫌な男はいないさ」
「そうですか。じゃあ先に進みましょう」
「冷た! 反応が冷たいよ」
上手い返しが思いつかなかったから適当に流しちゃった。
そんな感じで僕たちはクエストを受けて森にやって来た。
すると、前方から何か音が聞こえてくる。
「キャー!!」
「逃げろー!!」
よく見ると3人の男女が大慌てでこちらに向かって走っている。
多分何から逃げてるいるんだろう。
「おい、マジかよ……」
3人が逃げてきた方向を唖然とした表情で見ているゼナル。
「あ、あれは!」
そして僕にも3人組を追いかけている魔物が見えた。
その魔物は全長2メートル以上で鼻の横あたりから大きな牙が2本生えていた。
そう、何と魔物は異世界に来て初日に僕の事を襲った巨大イノシシだった。
「おい! ボッーとするな! 俺たちも逃げるぞ!!」
ゼナルが焦った様子で僕に逃げるぞと強く促す。
それだけあの巨大イノシシが脅威だという事だろうか?
「うーん、多分大丈夫です」
「何がだ! 早く逃げるぞ」
「あのイノシシ、倒せる気がするんですよね」
「そんなわけあるか! 自分を過信するな」
ゼナルが忠告してくる。
でも、倒せると思うんだよな。
「横にバラけて!!」
僕は逃げている3人組に向けて叫ぶ。本当は大きな声を出すのは得意じゃないんだけどな。
標的の前に人が居なくなったのを確認してから魔法を放つ。
「アイスグランド!」
地面を凍らせていき巨大イノシシの動きを止める。
巨大イノシシは体を動かそうとするが足を凍らされているので身動きを取ることが出来ない。
「アイスプリズン」
そして身動きの取れない巨大イノシシを氷で包んでいく。
「嘘だろ……ビックボアを1人で倒しちまった。Aランクの魔物だぞ」




