許昌攻略戦⑧
怜華隊に俺が入った8ターン目。
「怜華チョップを受けて威虎。……そう言えば『ドラ○もん』の漫画で、ドラメッド三世が鋼の鎧を身に着けた敵を倒す時に、「頭は無防備でござろう」って言いながら巨大化させたヌンチャクを敵の禿げ頭に叩き込んでたな。……子供心に、あれは痛そうだなぁって思ったよ」
敵・味方「「「………………で?」」」
突如として降臨した筋肉マン(俺)が、後ろに控える少女のチョップによって後頭部を抑える光景を前にして、敵も味方も唖然として手を止めた。
それ即ち、戦闘行為の中断であり、チンタイ隊の攻勢が止んだ事を意味する。
同時に、怜華隊の被害がここで抑えられたという事。最悪な結果には至らず、混乱状態に陥る事態は免れた様だった。
「……秋渓の復活に際して、ここで一句。
『生きてたよ 短けぇ夢だったな 殿下ッ!!』季語なし by.姫崎怜華」
「いやいや怜華よ、お前はいつの間にトルメキアの一参謀になったんだ?」
クロトワ……『風の谷○ナウシカ』に登場する老け顔の男性(一応27歳)。トルメキア帝国第三軍司令官・クシャナ殿下の参謀を務める。
怜華がついさっき述べた台詞を含め、
「腐ってやがる……早すぎたんだ」
「何があったか知らねぇが、可愛くなっちゃって」
「殿下、ひとつオレを使ってみませんか? ここんとこへきて打つ手がなくなって、実は困ってたんでさあ。忠実で血筋もよいが、融通の効かねえ貴族出の士官より、ずっと使いでがあると思うんですがね」
……等という、平民出が影響した如何にも人間くさい名台詞を吐くタヌキ(漢)である。
ただし、処世術や操舵技術は一流でも筋肉は無さそう。
「……ふんだっ……! その参謀をほったらかして何処かへ行ってた放浪軍頭領は誰よ?」
「誰かって? 当然、かの八幡太郎・義家が子孫――」
「次は怜華キックかますよ。もれなく三日間腰痛だから」
「……殿路秋渓ですぅー」
膨れっ面の参謀が生足を構えて脅し倒す図。
先日ボストン美術館に寄贈しといたから、良かったら見てくれよな。
「……さてと、復活の挨拶は程々にして、逆転の一手を狙うとするか」
ここへ飛び降りる前、一緒になって空中移動したラムから一通りの状況はメェーメェーと聞いた。だからメェーメェーと把握している。
「軍は分断され、先鋒の甘寧達は敵の包囲を受けている。……要はソウソウの敷いた包囲殲滅陣に、まんまと飛び込んでしまった訳だ」
「……ここから、どうにかして巻き返せる?」
早くも本陣の守備を固め直した怜華が、その迅速さに似合わぬ不安感を向けてきた。
この状況、男なら例え無理であってもこう返すしかあるまい。
「やれるさ。俺の認めた仲間達ならな!!」
「……うんっ! お願い!」
仮の大将を務める怜華の表情に、希望の色が輝いた。
そう、先ずは司令官個人の士気を回復される必要があり、軍全体を立て直すのはそれからだ。
「敵を捉えて見渡せば……成る程、味方は窮地にある様に思える。……だが、空から見た俺にはそうは思えない。寧ろ好機とすら感じたぜ」
「……私の部隊はもう動けるよ。どうする? 「撹乱」を仕掛けて、一か八かでチンタイを封じ込めてみる?」
怜華隊は早くも迎撃態勢を整え、普通の交戦状態に落ち着いた。
こうなれば、チンタイの強襲を受けても先程のように脆く崩れ去りはしない。
だがここで、俺は怜華隊を含む放浪軍本隊に、彼女らの期待とは真逆の指示を下す。
「いや、森から出たチンタイに小手先の技は通用しない (※撹乱の成功率は、森>平野)。魏延・陳宮・夏侯淵を下げて態勢を立て直そうにも、そうしている内に甘寧達は敗北する」
「……なら、どうするの?」
「分断されたのを利用して、全軍の役割を二つに分ける。甘寧達はそのまま『攻め』、怜華達は『守り』に徹してソウソウをこの場に釘付ける。一番重要なのは、ここに敵大将・ソウソウが居るという事だ。
――怜華隊前進! 適当にチンタイをあしらいつつ、魏延隊と陳宮隊の間に入り込め!!」
「えぇっ!? ちょっと待って秋渓! そんな事したら魏延殿と陳宮殿が大変な事になるよ!?」
ソウソウ及びキョチョと交戦している魏延・陳宮隊の許に避難するのは、チンタイ騎馬隊を誘導して前後からの挟撃態勢に曝させるという作戦。
先の戦況を逸早く予見した怜華は流石と言える。
だが、普通の戦術では現状打破の決定打にならない。多少の無茶も必要なのだ。
「……どのみち怜華の攻撃力じゃチンタイは倒せない。じり貧になるだけだ。それよりは現場指揮の玄人に、今ある戦力を預けた方が耐えられる! それと魏延に関しては、多少の無茶が美徳に当たる! ……そうだろ!! 征西大将軍・魏延!!」
「アタシを殺せるもんはおるかーーい!!」
俺の求めに応じた魏延が盛大な死亡フラグを立てるとともに、得物の曲刀を一閃。相対するキョチョを跳ね返し、部下達に向けて真っ当な勇姿を示した。
陳宮も彼女に呼応して布陣を改め、怜華隊の受け入れ態勢を整える。
俺達は早速、二将に甘える形で放浪軍本陣を最前線に移し、怜華隊の安全を確保した。
「……何かを企んでいる様だが、させん! ソウソウ様と連携して企みごと屠ってくれる!」
当然、チンタイの騎馬隊もそれに続いて背後を取り、怜華・魏延・陳宮隊は、ソウソウ・キョチョ及びチンタイの3部隊に挟まれる形となった。
「……キョチョに守りを固めさせ、敵左方の動きに注意せよ。奴等は必ず、夏侯淵の速攻を利用してくるぞ」
一方、自ら危機的状況を深刻化させた俺達に対し、ソウソウは怪訝な表情を浮かべるとともに警戒を強化した。
更なる優勢を前にして尚、決して油断しない用心深さ。如何にもソウソウらしい。
(好機を前にして攻めるのではなく、自由に動ける夏侯淵に備えて守りを固めた。こっちの本陣を潰すのは、自分とチンタイの挟撃だけで事足りるという自信の顕れか)
両軍の大将部隊を交えた混戦状態にある中で、最右翼に位置する夏侯淵だけが半ば独立し、行動に制限を持たなかった。
それ故にソウソウは、夏侯淵が自分もしくはキョチョの背後を襲うのではないかと警戒し、魏延に夢中となっているキョチョの動きを消極化させたのだ。
その心配も、疾風迅雷の速攻に定評のある狂戦士・夏侯淵が相手であれば尚更だろう。
「そんな用心深さを逆手に取る。
――魏延・陳宮! ここは任せたぞ!! 怜華を守りながら時間を稼いでくれ!!」
「……秋渓は?」
「俺は今から夏侯淵の許へ行く。この場にあって最高の突破力を誇る狂戦士に、逆転勝利の鍵を預けにな!!
――それじゃ早速行ってくる!! 丁封・全端! 頼んだぜ!!」
紐付く兵を持っていない為、自由に動けるのは俺も同じ。
スーパーマンと天狗を両の翼にした俺は、シュゴォーー!! ブオオォーー!! と猛烈な音を立てて飛び立った。




