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許昌攻略戦⑥ 帰ってきた何か


「翼を閉じたら鋒矢の陣に変更! 魏延殿と夏侯淵殿を先頭に、ソウソウ本隊を一点突破するよ!」


 怒れるソウコウ隊を壊滅させ、残るはソウソウとキョチョの部隊。

怜華は続けざまに号令を下し、前線突破を図った。


 対するソウソウは早くも冷静を取り戻しており、ソウコウの退場によって生じた隙を埋めるべく、放浪軍に合わせた陣形に改める。


「キョチョ隊を前に出し、第一の壁を成せ。我が隊はここに留まり、第二の壁となる」


 ソウコウとキョチョを左右に置いた横陣から、キョチョを前面に移した二段構え。

放浪軍の鋒矢に合わせて接触面積を減らし、高武力のキョチョに粘らせる狙いだ。


「流石はソウソウさん。兵の動きが速すぎる。……正に “用兵は神の如し” ……か」


 魏延と夏侯淵を突っ込ませたは良いが、二隊の勢いはそこで止まった。

ソウソウの迅速な対応と、相対する二将の武力を上回るキョチョの強部隊が原因だ。


 怜華の隣で彼女のぼやきを聞いていた陳宮は、戦局を優位にさせるべく出撃を進言する。


「怜華殿。このままでは要らぬ消耗戦が続きます。ここはこの陳めに、キョチョ隊の側面を襲わせてくだされ。我が隊が敵を撹乱し、前線の膠着を崩して御覧にいれましょうぞ!」


「了解です。それでは陳宮殿、頼みます!」


「ははっ。早速お聞き届けくださり、真にありがたく思います。

――陳宮隊、出撃致しますぞ! 魏延殿の左を迂回し、キョチョ隊の側面に回り込みまする!」


 陳宮隊5,000が怜華隊の傍を離れ、魏延・夏侯淵隊の助攻に向かった。


 こうなっては、如何にキョチョが粘り強いと言っても厳しいものがある。

ソウソウは直ちに前進し、奮戦する味方の右側に移動。陳宮隊を真っ向から阻みつつ、本来護衛である筈のキョチョの援護に当たった。


 これによりソウソウ本隊の陣形が再び横陣に落ち着き、魏延・夏侯淵VSキョチョの武力勝負と、ソウソウVS陳宮の用兵勝負という図式が成り立ったのだ。


「現れたなソウソウ! 今日こそは貴様を討ち、積もり積もった雪辱を晴れさせてくれる! 全兵、この陳の合図を聞き逃さず、奴を攻め立てよ!」


「陳宮……愚者に忠義を尽くす愚かな友よ。……お主は真に惜しい存在だ。我が胸を埋め尽くす底無しの人材欲が、幾度お主を欲したか。

――だが、いつになってもそれを拒むのが貴様よ。故に貴様は輝き続け、我は貴様を欲し続けられる。飽くなき欲を体現させる存在……それこそが陳宮!」


 深く交戦を始めた陳宮隊を一瞥したソウソウは、目をカッと見開くや、その後方に控える一点を力強く捕捉した。


「ならばこそ! 最高の友に最高の最期を送らせるのが、このソウ・モウトクの義務よ!!

――行けェい! チンタイ! 手薄になった敵の本陣を突くのだ!! 一撃の下に大将を屠り、目障りな放浪軍を瓦解させよ!! 我が友に相応しき最期を与えてやれェ!!」


「委細承知! チンタイ隊、出るぞ!!」


 ソウソウの合図をもとに、チンタイ率いる騎馬隊が森の南側より姿を現した。


「あれは凌操殿を奇襲したチンタイ!? ……やばい! このままだとまともに食らっちゃう!」


 チンタイの軽装騎兵2,300は、高い機動力をもってソウソウ本隊との激戦場を迂回。味方と離れた怜華隊を狙って急接近し、温存した戦力をそのまま活かした猛突進を敢行する。


「我が配下の精鋭よ! 敵を穿ち抜け!! 我等こそが勝利への尖兵だっ!!」


「「「ウオオオオォォォーーー!!!」」」


 そして怜華の予見通り、彼女の部隊はチンタイの急襲をまともに受けた。

先駆ける騎兵が怜華隊の側面に突入して楔を打ち込むや、最高のタイミングで後に続く騎兵が勢いに乗った猛攻撃を行い、怜華隊歩兵に次々と退場判定を下していく。


「わわわ!? いつの間にやられたんだ俺!?」


「ひょえぇーー、止められる気がしねぇーー!?」


「恐ろしく鋭い攻め……オレでなきゃ避けられ…………ませんでしたスミマセン」


 北伐に挑む蜀のキョウイを、トウガイやカクワイと共に何度も跳ね返した連戦固守の名将チンタイ。知勇兼備にして決断力・実行力に長ける彼の、機を捉えた恐ろしく鋭い「奇襲」は凄まじかった。

このまま被害が拡大すれば、まんまと成功して混乱状態に陥る程に。


「これは……とてもまずい状況ですわ。肉弾戦に弱い軍師殿の部隊では、良いカモも同然。現に彼女の部隊は一角が崩れ去り、敵の刃が本陣を目指している。逸早く反転して救援に向かいたいところですが……」


 後方の危機を肌で感じ取った魏延は、苦戦している怜華隊を横目に救援の機を窺う。


「魏延! そうはさせぬぞ! このキョチョが相手だ!!」


「……チィィッ……!!」


 乱戦の中にあって、魏延目掛けて突っ込んできたキョチョの刃が、風を切って迫った。

魏延は盛大な舌打ちとともに曲刀を繰り出し、絶妙な捻りを纏った流し技で打ち返す。


 両者の一閃が殺意の火花を咲かせ、兵士達は上官が見せる本気の死闘に息を呑んだ。


「……五虎将の下で叩き上げし武勇……見事。だが、まだまだ俺の相手ではないな!」


「…………単純な武力だけを誇れる「虎痴」め。美学の一字すら理解できない癖に、偉そうな口を聞くんじゃないわよ」


 関羽・張飛・趙雲・馬超・黄忠。誰しもが知る蜀の五大ヒーローこと「五虎将軍」。

その五人の影で劣らぬ働きを見せた猛将こそ魏延。

彼には五虎将軍並みの軍事的センスがあり、それは「虎痴」と渾名されるほど要領の悪いキョチョには無いものだった。

故に魏延は、当面に構えるキョチョを相手に武力で負けていながらも、堂々とメンチ切った。


(……とは言え……陳宮殿がソウソウと噛み合って動けなくなり、正気のない夏侯淵殿は闇雲に攻めるだけで本陣の危機すら把握できていない現状。虎痴も知ってか知らずか、此方の本陣が陥落するまでの時間稼ぎとばかりに攻めてくる。……もしここで私が反転して虎痴を無視すれば、好機と見たソウソウまでもが私の背後を突くでしょう。そうなれば流石の私もタダでは済まず、味方は完全に分断され、全軍の崩壊にも繋がりかねない)


 戦場の流れを肌で感じるタイプの魏延は、手の打ちようがない事を理解した。

然し、だからと言って怜華を見捨てれば、大将部隊の壊滅に伴って全軍の士気が大きく低下し、動揺が走って「混乱」状態に陥る味方が大勢あらわれるに違いない。


(…………ここは多少の危険も已む無しですねぇ。軍師殿(大将)と陳宮殿(参謀)さえ離脱できれば、長期戦に持ち込んで挽回の機を狙えます。…………えぇ、えぇ……!)


 先の展開を予想した末、魏延はある決断を下す。

それは彼女の美学に響くものであり、左肩の桜吹雪を晒すに値するものだった。


「美しき『もの』の為だぃ! 魏文長、敢えて危険に身を曝したらぁーー!!

――我が兵(ツワモノ)どの、捨て身で軍師殿を助けたれぇい! 陳宮殿は隙を見て乱戦を解き、俺を捨てて軍師殿と合流を! さぁ、行動開始ッ!!」


「お……おおぉっ!! 魏延隊長に続けェェ!!」


 危険を恐れぬが故に、示すことのできる自己犠牲精神。

言い換えればそれは、「真の勇者」=「精神の異端児」という方程式である。

魏延は自らが極限まで潰れ役となることで、放浪軍全体を首の皮一枚で繋げようとしたのだ。


「あっ、逃げるか魏延! この恥知らずめ! この俺に、背を向けた武士を切らせたという汚名を着させるつもりか!!」


「ふんっ、着たければ着なさいな。元々貴方の通り名に、綺麗もへったくれもありませんでしょう。ねぇ……虎・痴?」


「ぬぅぅぅ、言わせておけば! もはや許せぬ!!」


 去り際の「挑発」も、甚だ効果大であった。

怒れるキョチョは魏延を追い、魏延は前後を敵に挟まれる事を承知で後退を始める。


「――待った待ったァ!! 魏延の美学、真に見事!! だけどここは俺に任せとけ!!」


 然し、そんな彼女の健気を知って尚、それを止める真の勇者がいた。


 魏延は後ろから迫るキョチョの刃を防ぎつつ、声のする方を一瞥する。キョチョもまた、続けざまに得物を振りかざす前にその存在を視野に収め、唖然として数秒停止した。


「…………あら? 貴方は……」


「……むっ……お、お前は……!?」


「おぅ、えらく待たせたな! よぉーーし…………やぁやぁ、遠き者は音に聞けェ!! 俺こそは源氏の八幡太郎 義家が子孫――」


 この混沌とした戦場に、漢の咆哮を轟かせてやるぜ!!


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