第二次譙攻略戦⑩ 決着
「心は陥落……だと? 抜かすな、殿路秋渓。俺の忠誠が向く先は、曹丞相ただ御一人!」
太史慈の奥義を受けて派手に後退ったキョチョが、態勢を構え直すや否や、俺に向けて己が忠義の程を語る。
「如何にお前が強かろうと、俺の忠義に一切の曇りなし! それは曹丞相こそが、大陸を征する英雄であると知っているからだ!!」
キョチョ。字を仲康。ソウソウの親衛隊長として知られる豪勇無双の猛将。
彼は一介の農民でありながら、多勢を誇る賊と渡り合い、その才能を見込んだソウソウが己の護衛として自ら勧誘した程の豪傑だ。
僅かな違いこそあれども、大体の流れは正史・演義ともに同じであることから、彼の武勇が如何に評価されているかが良く分かるだろう。
「曹丞相は全てに於いて御強い。軍略・兵法・用兵・外政・内政・謀略・魅力!! その類い稀なる才能の数々は、もはや人の域を超え! たかが武勇に優れるだけのお前や俺が敵って良い相手ではない!!
――わかったら調子に乗るな。お前も俺と同じ、所詮は武力に長けた一武将だ。恐れ多くも曹丞相に楯突き、何かの間違いで撃破してここまで優勢になったようだが……それが天の気紛れである事を、この俺が証明してくれる!!」
半ば盲目的に、ソウソウこそが三国一の覇者であると信じて疑わず、彼の危機を幾度も救ってきたとされるキョチョ。
自らが絶対強者と謳うソウソウの敗北を認められないのか、守るべき主の部隊を壊滅の定めから守れなかった自責の念にかられているのか……とにかく彼は、目に見えて鮮明な怒りを武器に込めた。
「ぬっ!? くおぉぉぉっ……!?」
込めて、その怒りを一騎討ちの相手である太史慈へぶつけた。
残った気力を存分に注ぎ込んだ、大技による奥義だった。
「太史慈っ!? おい大丈夫か!? 太史慈ィーー!?」
真っ正面から堂々と受け止め、気力の昇華によって巻き起こった爆発に呑まれた太史慈の状態や如何に!?
俺はキョチョが抱える想いの深さを知ればこそ、威力の程度を容易に察するに至り、彼の矛先が向いた太史慈の身を心配した。
「…………言葉少なめの勇士と聞いていたが……意外と喋るな」
然し! 爆炎の中より姿を現した太史慈は、何と無傷だった!?
手戟を十字に組んでキョチョの得物を完璧に防ぎ止め、絡み合った刃の隙間から毅然とした睨みを利かしている。
「……確かにお前が言う通り、ソウソウは強いだろう。その言に偽りはない。……だが、殿路殿とて負けてはおらん! お前は武勇だけが彼の取り柄と言ったがな、仮にそうであれば、ここにいる同志達は半分も居なかっただろう!!」
キョチョの得物を弾き、互いの間合いを取った太史慈は、堂々と構えながら反論を始める。
「殿路殿は一見せずとも馬鹿な御仁だ。時として訳が分からぬ言動を貫き通す故に、拙者としては未知の存在に当たる。……だがな、ただ馬鹿騒ぎをしているだけではないのだ。我等が頭領・殿路殿は」
「おぉ……聞きましたか朱桓先生。どうやら俺が馬鹿な事をしているという認識が、太史慈にはあるようです。馬鹿じゃなくてアホなのに……」
「うむ、洗脳されていない様で何よりだ」
「……ねぇ、泣いていい?」
「存分に」
「…………うわーーん\(^-^)/」
朱桓先生は手厳しいのです。だって朱桓先生なんだから。気位の高さが災いして本国に送還された事があるぐらいな朱桓先生なんだから。
一方の太史慈は、そんな先生と生徒のやり取りを徐に無視して、己の武を高めんとして己の想いを改めて豪語する。
「殿路殿はな、皆を勇気づける事の重要性を知っているのだ。戦は数でするものではなく、士気でするものだと、若くして知っている。それこそ、小覇王と謳われたソンサク殿の様に」
ソンサク。蜂蜜皇帝エンジュツを後ろ楯に、落ちぶれた孫呉再興を果たした若き大将。
圧倒的なカリスマと豪勇を以て、大陸南東部を席巻した彼は、古の覇王・項羽にちなんで小覇王と謳われた。
そして何を隠そう、太史慈が呉軍に属する切っ掛けとなった存在が、ソンサクだ。
戦場で見えるなり挨拶代わりの一騎討ちを行い、その後の激闘を経て酒を交わし、遂には互いの人間性に感服しあって友情を交わした。
敵として登場したキャラクターが、主人公の想いに共感して味方になるという……少年漫画さながらの胸熱展開をリアルに巻き起こしたのだ。
「……その上、拙者も存外単純な男でな。ソンサク殿に負けず劣らぬ殿路殿を聞いて、見て、酒をしこたま飲ませられ……いつの間にか身に覚えのない会長にさせらせ…………古巣から二つ返事で引き抜きを了承されて………………兎に角、多少強引ではあったが、心を揺り動かされた」
太史慈本人の口から苦労話が語られるや、多くの者達が俺と凌操に注目する。
バズった俺と凌操は、ここぞとばかりに筋肉を主張・宣伝し、侮蔑に近い眼差しを羨望の眼差しへ変えてやった。
やはりと言うか、人は皆、筋肉に惹かれる様で、「イケメンに限る」の類義語に「筋肉に限る」があるのは至極当然なのだろう。
都心部で開催されるマッスルカフェに多くの女性が殺到し、チケットがすぐに完売するのも頷ける話であり、マッスル達はサービスの一貫として、お客(女性限定)をお姫様抱っこしたり、自慢の筋肉を触らせ放題したり、全方位から筋肉で囲んでくれたり、一緒に写真を撮ってくれたりと、正に夢の国さながらの桃源郷を実現してくれるヒャッホォォーーイ!!!
※実話。「マッスルカフェ」でググると「筋肉の狂宴」って出てきます。ただしこれについて一言…………「狂宴」ではない! 「胸宴」なのだ!! 狂ってもなければ至極当然な宴なのだ!!
「殿路殿は武勇に長けた一武将に非ず!! 拙者の一撃が、その証明だっ!!!」
話を戻して一騎討ち五合目。キョチョの大反撃を完封した太史慈は、己の想いを宿した手戟を大きく振りかぶり、二連続で奥義を繰り出す!!
対するキョチョは、太史慈から放たれた漆黒の斬撃を完封できなかった。
凄まじい威力が得物を粉砕し、余りある衝撃が彼の肉体を弾き飛ばす。
「ぐぐぐぅっ……!? ……おのれ、俺が負ける……だと……!? ……何故だ、俺の曹丞相への想いは……こんなものではない筈だ……!!」
どっと膝をつき、太史慈に向けて睨みを利かすキョチョ。
一撃目の奥義で体力を大きく削られ、仕返しとばかりに繰り出した奥義で気力の大半を消費し、五合目に至った今は余力が尽きていたのだ。
「お前が刃に込めた想いも、見事なものであった。だが! 拙者の想いも負けてはおらん! いや、勝たねばならん!! 理屈では語れない殿路殿を、武辺のみの大将でないと証明する為に!!」
「……そこまでの大将か? 殿路秋渓とは……? お前ほどの猛者に……ここまで言わせる程の……?」
「先が想像できぬ殿路殿だからこそ、面白いのだ。拙者の武勇を遺憾なく奮ってみたい! 奮い甲斐がある! そう思う程、強烈に!!」
「…………朱桓、俺は今、凄く嬉しいぜ……! ……泣いていい?」
「存分に!」
「うおぉぉーーん!! 太史慈ィーー!! アイウォンチュゥーー!!」
太史慈の想いを聞いて、彼が俺に向ける認識を知って、俺は思わず男泣き。
横で腕を組む朱桓先生も微笑を浮かべ、大きく頷いてくれた。
「…………まったく……理解に難い連中だ……。だが、一つだけ分かった事がある。……俺達の敗因は、お前らが理解に難い存在だった事だ……」
当のキョチョは、潔く敗けを認めて胡座をかいた。
太史慈は右手に持つ手戟を掲げ、声高らかに宣言する。
「敵将・キョチョ! この太史慈が打ち破ったァァァ!!!」
「うおおぉぉぉぉーーー!!!」
一騎討ちの勝利に、味方の全部隊が大歓声を上げる。
キョチョ隊3,304も、隊長の敗北によってそのまま壊滅し、戦況は完全に俺達へ傾いた。
一騎討ちについて
太史慈がキョチョを圧倒した事に違和感を抱いているでしょう。ですので補足説明を行います。
敵から一騎討ちを挑まれた際、普通は『承諾』『拒否』の選択肢が表示され、プレイヤーがどちらかを選択します。朱異がカコウエンに挑まれた時は『拒否』を選びました。
然し、勇猛値が高い武将はプレイヤーの意思とは関係なしに、勝手に『承諾』する場合が多いです。太史慈VSキョチョがその例です。
そして、一騎討ちの判断を勝手にしたは良いものの、肝心の一騎討ちはプレイヤーへ丸投げという仕様になっています。
CPU同士の戦いなら太史慈は多いに苦戦したでしょうが、そこはこのゲームをやりこんだバッファローです。武力差が10~15以上ない限り楽に倒せてしまうのです(呂布は例外)。
結局なにが言いたいかと言うと、一騎討ちでは基本的に勝ちます。ストレスフリーと投稿速度を考慮して、最低限の苦戦だけで全力で殺しに行きます。相手が文官だろうと子供だろうと乞食だろうと、誰だろうと全力で殺しに掛かります。
その点、ご了承下さい。
本当はこの説明を、周朝さんGETの時にネタ話として盛り込もうと思っていましたが、投稿速度と物語の『速さが足りない!!』という理由でおじゃんになりました\(^-^)/




