それこそが速さ
「…………成る程ね、こりゃ確かに……俺達が無事に帰ってくるだけで充分な戦果になるわけだ」
「時節を組み込んだ計画的な策……この陳、感服致しました」
「えぇ、えぇ、流石は軍師殿。その手腕、まこと見事に美しいですわよ」
今回の作戦に差し当たり、暴れられない事情を最もぼやいていた甘寧。
歴史に於いて、積雪を利用したソウソウ軍撃退策を考えていた陳宮。
ショカツリョウの指揮下にあって、兵糧確保に苦労しながら北伐に挑んでいた魏延。
三者ともが怜華の策に思うところがあったらしく、口々に彼女を褒める。
「…………軍師殿、一つだけ問いたい。よもや貴殿、エンジュツ軍が動かぬ事も知っていたのか?」
その一方で、朱桓は難しい表情を浮かべていた。
彼はこの作戦の中に、とてつもない危険性が含まれている事に気付いたのだ。
「確かにソウソウ軍主力は満足に戦えぬ状態となった。だがそこで我等以外の勢力が先にソウソウ軍を攻撃すれば、逆に我等が漁夫の利を得させる立場となってしまう。そして、その可能性があるのは汝南のエンジュツ軍。行動順でも先となる彼等が譙に攻め込めば、我等はソウソウ軍の戦力を加えたエンジュツ軍と当たる事になったやもしれん。……その辺りまで、視野に入れておられたのか?」
朱桓の言いたい事を少々補足すれば、次の通り。
譙は北東の小沛(俺達の現在地)、南西の汝南(エンジュツ軍本拠地)、西の許昌(ソウソウ軍本拠地)の三都市と隣接している。
譙の兵糧がなくなり、ソウソウ軍主力が満足に戦えない状況となれば、彼等を狙うのは何も俺達だけではなく、貪欲なエンジュツが大挙して攻め込んでもおかしくない。寧ろこんな好機を前にして攻めないのはおかしいし、軍議ターンの行動順は正規勢力→放浪軍なので、エンジュツ軍は確実に俺達の先手を取れる状況にある。
そして仮にエンジュツ軍が譙を攻めとれば、ソウソウ軍の優秀な捕虜を登用して俺達の前に立ちはだかる事になるのだ。
「うん。エンジュツ軍は絶対に動かないって、分かってた」
「……如何な理由を以て、判断なされたのだ? 私にはそこが分からぬ」
朱桓の問いに対して、怜華は普段通りの笑みを浮かべて即答した。
知的欲求に従う朱桓も、続けて問い掛ける。
「ふふ! ちょっとしたコツというか、裏技みたいなもの! 朱桓殿が目指すような軍略の類いじゃないから、敢えて言わないでおく」
怜華は微笑を浮かべるだけで、明確な答えを言わなかった。
そう……これに関しては言えば、俺と怜華だけが分かり、朱桓達には分からない裏技なのだ。
怜華へ集中する皆を余所に、俺はそっと表示画面を変えて、エンジュツ軍が治める汝南の都市情報を見る。
(……成る程な、都市目標「内政重視」状態か。開墾を601から800へ、防御を414から1,000へ)
君主が都市の太守に命じる都市目標というものがある。エンジュツ軍の場合は領土が汝南だけなので、エンジュツ自ら目標を立てたと言うべきか。
とにかく、その都市目標は主に4つあり、「委任」「内政重視」「輸送重視」「戦争重視」だ。
「委任」は言わずもがなで、当面の目標が必要ない時は、大概がこれになっている。
「内政重視」は、指定された内政値まで上昇させる事を目標とする。
現在の技術値300→目標値600、現在の補修値250→目標値500……といった感じ。
「輸送重視」は、指定された都市へ、これまた指定された金を輸送する事を目標とする。
都市Aから都市Bに金6,000の輸送……といった感じ。
「戦争重視」は、指定された敵領土を攻め落とす事を目標とする。
ソウソウ軍の譙を攻め落とすべし……といった感じ。
尚、委任以外の目標は1年以内の達成を要求され、1年が過ぎれば達成した際に得られる太守の功績と恩賞が半分になる…………大概の場合半分になるので、それがデフォルトでOK。
そして現在の汝南は「内政重視」。言い換えれば守りに入っている状態であり、こうなった場合はとある現象が起こる。
(ゲーム上の仕様として、内政目標を達成するまで、その都市の軍隊は出陣しない)
「戦争重視」ならば好戦的に目標都市へ侵攻していくが、反対に「内政重視」だと防衛戦のみを展開するという仕様。
※ただしNPC武将及びNPC勢力の場合に限る。プレイヤーが太守もとい君主の場合は、都市目標に関係なく侵攻戦を展開できる。
その上で、実はこの仕様、序盤にあってはゲームバランス的に自滅戦法となるのだ。
内政値の底上げが重要なのは確かだが、それは一定の勢力を築いてからで充分。
序盤で大事なのは『速さ』!! 公式チート勢力SOSOが大勢力となる前に滅ぼそうと考える事と同じで、正規勢力プレイに於いても、チマチマと時間を掛けて耐久性を上げるより、早い段階である程度の都市をブン獲っていった方が効率が良い。
というか、そうしないと他の勢力の台頭を許し、気付いた頃には詰んだ状況となっている場合が多い。
つまり、エンジュツ軍には『速さが足りない!!』のだ。
「それが内政重視によってエンジュツ軍の得た力かぁ!」
「だが足りない、足りないぞぉーー!!」
「エンジュツ軍に足りないもの、それは――」
「情熱思想理念頭脳気品優雅さ勤勉さ!!」
「そして何よりもーーー!!」ドカッ!! グアァァッ!?
『速さが足りない!!!』
…………という訳で、仕様という名の根拠を交えたトンデモ理論である為に、説明したところで朱桓には分かってもらえないだろう。
だが、それで良いのだ。如何なる際も人を動かすのは情熱であり、理屈が全てではない。
「……よし、では怜華! 早速譙へ侵攻しよう!! 陣容はどうする!」
後はひたすらに攻めるのみ。俺は怜華に部隊編成を頼む。
「ちょっとだけ待って。出陣する前に「外交」させて」
だが、当の怜華はそれよりも先にすべき事があるという。
それは正規勢力との外交。即ち、「いつか滅ぼすけどそれまでは仲良くしてね作戦」(第36話「呂布どぉのぉーーー!! 陳宮ーーーー!!!」参照)だ。
そして「外交」とは放浪軍が実行できる数少ないコマンドの一つだが、俺達は正規勢力ではないので、「同盟」とか「連合」とか「要求(金銭脅迫)」とかは選択不可。
放浪軍が唯一選択できる外交交渉は、他勢力に対する「贈呈」。金・兵糧・兵士・アイテムのいずれかを相手に送って友好度を高めるという…………俗に言う「土下座外交」。これを駆使した俺は、かつて大陸を動かした。
「外交相手はエンショウ。ソウソウ軍滅亡後に北方を平定する際、最も厄介な勢力となる筈だから、今の内に友好を高めて不測の事態への対応力を増しておきたいの」
「確かに、今回のターンでエンショウ伝説が幕開けしたっぽいしな。……そんじゃ、外交の使者には魅力の高い諸葛誕と楼玄。それに加わる形で諸葛靚も頼む。各々1万ずつの兵糧を手土産にして、エンショウに挨拶して来てくれ。元々の友好度が30と低いが、エンショウ軍の相性と呉系の相性は近いから、無下に断られる事はない筈だ」
「承知しましたぞ。それでは早速行って参る! 暫しお待ちを!」
諸葛誕、諸葛靚、楼玄の3名は、エンショウ軍の許へ赴いた。
そして兵糧3万を贈呈し、友好度を19獲得。30から49とする事に成功した。
これで俺達の残り兵糧は約7万9千となるが、戦争するだけなら1万もあれば充分である。
「なら改めて今回参戦する人を発表するけど、その前に予想される敵の戦術を説明するね。ソウソウ軍は兵糧がないから超短期決戦を望んでて、砦から出撃して私達を撃破しようとする。だから私達は、連携の取り易い人達でこれを迎撃するの。
――先ずは秋渓が全軍の大将であると同時に、右翼の大将を務める。丁奉殿と太史慈殿は秋渓の指揮に従って戦うように。そして甘寧殿が左翼の大将を務め、凌統・凌操親子は彼と一緒に戦って。朱桓・朱異親子と魏延殿は広域の遊撃部隊を担当。参謀の私がみんなの後方支援を受け持つ。兵数だけど、私の部隊だけが4,300で、他のみんなは最大の5,000を率いて。
それと最後に、決して敵を甘く見ない事。ターン経過とともに弱ってはいくけど、10ターンが経過するまでは激戦が予想される。……だからみんな、充分気を引き締めて!!」
「おおおおぉぉぉっっ!!!」
怜華の忠告が激励となり、皆の士気が高まった。
俺達はこの勢いを保持して出陣し、第二次譙攻略戦へと挑んだ。
周朝(字:不明)
イエローターバンやボーダースターの乱に便乗し、K州南部で漢王朝に対する反乱を起こした賊。
お主が「周」の性を名乗るでねぇべ……とはバッファロー談。
長州○力さんにそっくりな顔グラで、「キレてないですよ」していたら、反乱鎮圧に当たった孫堅に切られた人物。
紹介するに至った経緯ですが、実は彼……皆さんの知らないところで仲間になりました\(^O^)/
①4月~6月の山賊討伐で、長沙(魏延の古巣)に出向いた秋渓。
②賊の討伐を実行したら、賊の頭として周朝が登場。
③一騎打ちでワンパンして、仲間に勧誘。4,000近い部下の賊兵も一緒に加入。
記念すべき初の一騎打ちなので、ネタ回として投稿しようとも考えましたが…………本編に出られると思ったか? 残念だったな周朝! ただでさえ投稿頻度と物語の『速さが足りない』んだ!! 君の登場にまで尺を使う余裕はなぁぁいっっ!!! 武将列伝で終わりじゃあぁぁーー!!




