まともな、行動で、話を、進めろ by怜華
281年 7月 軍議ターン
渤海 エンショウ軍 VS 鄴 カンプク軍
「エン・ホンショの進軍である!! 道を開けよォォ!!」
「私にどうしろと言うのだ……」
『エンショウ軍のエンショウが大将となり、鄴に侵攻。鄴のカンプク軍はカンプクを大将に防衛。
カンプク軍は敗北し、鄴はエンショウ軍の領土となりました』
『カンプク軍は全ての領土を失った為、大陸から姿を消しました』
第一次 譙攻撃戦の後、俺と怜華は何時も通りの山賊退治に勤しんでいた。
別段変わった事が起きなかったので割愛するが、この間に怜華が妙なハイテンションぶりだったのが印象に残っている。
まるで前祝いとばかりに豪勢な料理が食卓に並び、俺達は訳も分からず餌付けされていた。
そして今回の軍議ターンで行う戦が、譙のソウソウ軍を撃破する本番になる。
「おっ! 丁奉と丁封、お早う」
「お早うございます殿路殿。今日も暑いですな」
拠点としている酒屋の廊下で、俺は丁兄弟と朝の挨拶を交わした。
今は7月につき、俺も丁奉も丁封も上半身裸である。別に男しか居ないからいいのだ。おっと、怜華とラムもいたっけ。でもあの二人も男として勘定すれば問題ない。
「問題しかないわよ。あたしゃ女だ、一緒にすんな」
するとそこへ、ラムの餌やりを終えたであろう怜華が仏頂面を作って現れた。
だが、その言動や表情に反して、彼女の服装は本気だった。
よく着ている軍師服ではなく、コヨエモンによって仕立てられた黄色のパーカーと青のホットパンツ姿。
因みに、胸の所には赤字で「本気」と書かれており、その左右下では両手に扇をもって万歳しているアヒルとポセイドンがいる。これは間違いなく本気の怜華だ。
「はっはぁーん、自分の策に相当な自信があると見た。今日の戦、勝利は固いな」
「うん。間違いなく勝てるよ。それも、秋渓がよく知ってる方法でね」
「それは楽しみだ。俺が知っていながら見落としている方法、はてさてどんなかな?」
「それは全員が揃ってから説明する。だから三人も食堂で待ってて」
言うや、怜華はまだ起きていない仲間達を起こしに行く。
俺と丁兄弟は、怜華に背を向けて食堂へ向かうのだが、先程まで己の肉体を磨いていた部屋の方から、中華鍋や銅鑼が盛んに鳴り響き、ラムが二足歩行でコサックダンスを踊るほどの愉快な目覚ましソングが聞こえてくる。
「ラムは踊りもできるのか! 流石の流石! いや天晴れ!!」
「メェェェーー♪」
コヨエモンのポケットからデジカメを取り出した俺は、怜華に対抗できる武器を密かに得る為、珍獣化してノリノリで踊るラムを激写した。
飯抜きになった際は、この写真を対抗馬に差し出そうではないか。
俺はラムを撫で撫でしながら、そう思った。
「あぁぁー、あったまガンガンするぜぇー」
「今日は大事な戦だからって、昨夜羽目を外し過ぎましたなぁー」
それから十分後の事。夏だろうが冬だろうが関係なく半裸の甘寧と、本来ならば甘寧を仇敵とする凌統を先頭に、寝ぼけ眼な大人達が少女によって追い立てられる図が出来上がる。
「さて……皆が一堂に揃ったところで、早速軍議を……」
「いや、朱桓よぉ……ちょいと待ってくれや。いっちょ、朝の走り込み行ってくる。…………ウオラァァーー!!」
目覚ましを兼ねた気合い注入をするべく、酒屋から甘寧が飛び出して――
「ぐあぁぁっ!?」
表通りを猛スピードで駆け抜けるメロスに轢かれてしまい、酒屋の中に押し戻された。
うむ。メロスは今、友の為に、太陽が沈む速度の10倍の速さで走っているんだ!
「甘寧殿! 何たる男気溢れる闘魂絶唱! 然らばこの凌統も……トォラァァーー!!」
怜華や朱桓が止める余白もなく、今度は凌統が駆け出した。
「くおおぉぉっ!? なんとぉぉーー!?」
そして今度は、メロスを追い掛けるべく猛スピードで走るセリヌンティウスに轢かれてしまい、甘寧と同じように酒屋の中へ戻される。
ここまできたら俺も……否、俺達も乗らなければ失礼に値するだろう。
「おおっ!? 流石は甘寧と凌統!! 俺達も負けてられねぇ!! 行くぞぉぉーー!!」
「うおぉぉぉーー!!」
俺に呼応して丁奉、諸葛誕、諸葛靚、凌操、全端が一斉に駆け出し――
「あいうぉんちゅーーめろすぅぅぅーー!!」
「ぐばぼぼぉぉぉっっ!?」
改心してメロスの大ファンになった王様と近衛兵達の大進軍に弾かれ、みんな仲良く一瞬で帰宅した。
これにて朝の走り込みは強制終了と相成るが、俺を含めた8名が負傷して「軽症」状態になる。
つまりだ、武力90超えの甘寧や俺が負傷するという事は、メロスや王様達の武力は100を優に超えていると見た。
むむむ、流石は名作「走れメロス」だ。もしかしたら、彼等の武力はもっと上の頂きにある可能性だってある。その反面……政治値は酷く低いかもしれないが。
「だぁぁーーもぉぉーー!! このバカ共がぁぁーー!! ちったぁマトモな行動しろぉぉーー!!」
そして、「医術」のスキルを持つ怜華が負傷した俺達に駆け寄って――
「眠れ!!」
「げふぅぅっ!?」
男気溢れる一言とともに、怜華の左カモシカ足が俺のお腹にクリーンヒット!! 俺の体調が「健康」に回復するありがとうございました。
「ちょっ、俺もかぃ!? 俺まだ酔ってるか――モンドゥムヨゥッ!?」
「醒めよ!!」の一言とともに、甘寧の兄貴には見事な掌底打ちが決まった!!
未だに残っていた酔いが一気に晴れ、兄貴の体調も回復した。
俺と兄貴の次は凌統だ。フシュゥゥーー!! ……と、ラスボスみたいな吐息を漏らす怜華が彼に駆け寄って――
「好きだろこういうの!!」
というヤバ気な発言とともに、怜華の左拳が凌統の頬を殴る。
「ありがとうございますッ!!」
凌統は頬を染めて恍惚な表情を作りながら吹き飛ばされ、体調がすこぶるよくなった。
怜華の医術とは、懇切丁寧な癒しに非ず。寧ろ悪化するんじゃね、これ? と思わせる様な八つ当たりを以てして、個々人に正面から向き合う方法だった。
大事な戦を控えた状況で、一歩間違えば大きな戦力低下に繋がるスキルを使用するとは、怜華は中々のチャレンジャーだ。
否! 珍獣研究部の名誉部長なだけはある……といったところか。ツチノコ捕獲の為にマントルまで赴いたという噂話、さては本当だな。
いや……これは神が俺達に与えた試練!? いやいや、俺達が負傷しても勝てる程に、怜華の策は自信に満ちたものであった……という事なのか!!
そう思うと、なんだか余計にワクワクしてきたぞオラ。




