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金では買えない価値がある……えっ?


 気を取り直して、俺はアイテム購入の為に怜華と別行動をとろうとした。


「…………そうだ……楼玄殿……アレを……渡そう」


 その矢先、雰囲気が一転して寡黙モードになった顧雍が楼玄を呼び止める。

彼は木箱の蓋を開け、中から小さなガラス瓶を取り出した。三国時代にガラス瓶? なんて時代錯誤なんだと思うかもしれないが、そこは御愛嬌にしてコヨエモンである。オーパーツの一つや二つはお茶の子さいさい。


「…………依頼の品……作成完了。……試着を……求む……」


 顧雍が楼玄に手渡した物、良く見るとそれは、コンタクトレンズの容器らしかった。


「なんてこったい!? 遂には眼科医にまでなっちまったか!? 呉国丞相は伊達じゃねぇぜ!」


 顧雍が所持しているスキル「職人の知恵」。怜華も持っているスキルながら、顧雍のそれは一線を画し過ぎたもののようだ。


 早速、楼玄は渡されたコンタクトレンズを装着する。何故か知らんが慣れた手つきで鏡すら要らなかった。やりよるぞこいつ、目線が斜め45°上を向いているのに、やりよるぞ。


「…………合うようで……何より……」


 装着した途端、近視・遠視・乱視を通り超して変視であった楼玄の視線が正された。

いや、それだけじゃない。何故か知らんがウルウルとした純真無垢な眼差しのそれとなり、目だけ見れば一級の美少女然として映えている。


「うむ! 紛うことなき美少女! 殿路放浪軍のマスコットキャラ兼アイドルは楼玄法師に決まり!! 改めて、これから宜しく頼むぞ!!」


「おぉぉーー(棒)、どういう理屈か分からないけど…………またうちの放浪軍が変な方向へ……」


 髭を生やした良い歳のオッサンが、ウルウル目でバンジャーーイして喜ぶ図。

どうやらコヨエモン製作のコンタクトレンズが相当気に入ったらしく、彼の手腕を良く証明する笑顔だった。


 それを前にして、俺は楼玄法師に新たな期待を抱き、怜華は今更の指摘など二十世紀ほど遅かったとばかりに黙認する。そうだ、今更だぞ怜華。大陸の歴史は四千年につき、実際は四十世紀ほど遅いのだ!!

えっ? 三国時代だから二十世紀ほどで間違いないんじゃないかって? よいぞよいぞ、細かい事はよいぞ…………と、よいぞよいぞ先生も仰っているので、別段どうでもよいのである。


「では視線改善にも成功した事だし、露店を回ってアイテムを探すとするか。ちょっとだけそこら辺をぶらついて来るから、怜華と顧雍はここに居てくれ」


「了~~解」


 改めて俺達は二手に別れる。怜華と顧雍は服選びを続行し、俺と楼玄は露点巡り。

楼玄は趣味の読書に用いる本を求め、俺はアイテムを求める。


「おっ! これは知力上昇アイテムの「書経(ショキョウ)」じゃないか!」


 暫く歩いて回ると、紫色の表紙をした本を見つけた。


「おぅ兄ちゃん、お目が高いなぁ。これはな、ホンマもんの品なんじゃ。所持してると頭が賢くなるってぇ、不思議な名品じゃけぇ。良かったら買ってってぇな」


 如何にも伝説の傭兵みたくガタイの良い店主が、ちょっと馴染みのある口調でセールストークを始めた。


「兄ちゃんは既に知っとるやもしれんが、これは古代の歴史書であってな、政治・軍事における戒めを記したもんや。「書経」とは、聖人様が定めた法令集という意味もあってな、とにかく有り難い本なんや」


 うん、分かるぞ。分かるんやけどな、おっちゃん……そないに胡散臭いトークやと買うもんも買わへんで……。俺は長年のプレイを通して、これが本物やって分かっとるから買うけどもやね、普通の人はそないなトークじゃ買わんのとちゃう?

まぁ武将ではない一般人が購入して、強敵として現れるバグが発生したら、それはそれで燃える展開になりそうだ。うん、どーーんと来い!


(抑々にして、おっちゃんはその鍛え抜かれた体を使って武器・防具を実演販売した方が、よっぽど説得力があるっていう……。何故に経書や兵法書を売ろうと考えた?)


 武器・防具を売っていれば様になるところを、本を広げているのが可笑しく思えた。


「取り敢えず、それを買います」


「うっし毎度! 金1000になりや…………あれ? 兄ちゃん、金足らんで」


「…………ぅへっ?」


「兄ちゃん今、785金しか持っとらんで」


「…………マジで? …………おおぅ、マジやわ……」


「おおぅ、マジやな。金、足らんで兄ちゃん」


俺「(゜Д゜≡゜Д゜)゛!?」(訳:やばたんやばたん、マジでヤバタン!?)


お「ヽ(゜д゜ヽ)(ノ゜д゜)ノ!!」(訳:おおぅ兄ちゃん落ち着け!! それワシの褌じゃけぇ!!)




 その頃、怜華は試着室で着替えていた。


「良し! このカルガモパーカーでぇ…………フフフ! 秋渓はどんな反応してく――」


「怜華ァァァーーー!!」


「うひゃあぁぁぁーー!?」


 顔面スライディング土下座をしながら試着室へ突入する俺へ、怜華は盛大な悲鳴を上げた。


「ちょっと秋渓!? ここ試着室!? いくらあんたでも女子の着替え中に入ってくるのは許されんど!? 覚悟の程は如何に!?」


「恥を承知で突っ込んでおりもす! その証にホレ! 顔面は地面からピッタリ! 上がっておるのはケツの方! お代官様ですら涙を流すエクストリーム土下座とは正に――」


「いいからさっさと出てけ! カーテンの外で要件を伝えろ!!」


 誠意を以て突入した為か、流石に後頭部を蹴られるような事はなかった。

俺は顔面を引き摺るようにして外へ出て、カーテンが閉まった音を聞くや要件を伝える。


「金が足りません。「食べ物を買う金もなく難渋しております。いかばかりか有り金すべてお恵み下さい」っていう乞食VIP爺みたいなこと言って悪いけど300金だけ立て替えてください」


「あれ? 放浪軍頭領って放浪軍の資金を引き出せなかったっけ?」


「どうやら拠点の酒屋でないと、お金の出し入れはできないようデス」


 行動力10を消費する「入金」と「出金」のコマンド。思い返せば、確かにあの2つは酒屋で実行するコマンドだった。


余談だが、市場を見聞すると中確率で出現する自称乞食爺。彼は武将の所持金の1割から2割を要求し、支払わなければ無条件で要求金額分を悪名に変えるという大賢者だ。絶対に乞食とか嘘だし、あいつの家は豪邸だろう。ゲーム後半になると所持金9000近く持ってても不思議じゃなく、そこに現れて1500とか2000とか要求するんだから。


そんで断るとその分が悪名値に変わり、一発一瞬一人の爺の判断で、三国志を代表する極悪人トウタクの悪名最盛期の三倍もとい三人分となる。当然、次の軍議ターンで大陸中の勢力が敵になってしまう。


 では悪名を下げるにはどうすればよいか。主な方法は2つ。

1つ目の方法は、7月から9月の間に農村を見聞すると中確率で発生する「収穫祭り」に参加する事。これを1回行えば悪名値が1下がる。ただし、悪名値が高いと抑々にして発生しづらい。


2つ目は自称乞食爺に金を恵み続ける事。恵んだ金額の1割分だけ、乞食爺は悪名値を低下させる魔法を使ってくれるのだ。即ち、金2000の上納を拒否した事で爺の逆鱗に触れ、その結果に得た悪名値2000を返上するには、金20000の献上資金が必要となる。金20000がどれだけの大金かと言うと、大陸の半分を制覇したソウソウ軍の3ヶ月分の収入だ。それを多いか少ないかと判断するのは、みんなに任せる。


 話を戻して、俺が申し訳なさそうに説明していると伝説の傭兵店主がやってくる。


「おぉ彼女さん、なんか急かす様で済まんのぉ。兄ちゃんがどうしても本欲しい言うんや」


「か、かか、彼女っ!? いやいやそんなそんな!? はい、これ不足分です!!」


 めっちゃ動揺する怜華は右手でカーテンをグシャグシャに掴み、空いている左手だけを出して300金を店主に渡す。


 店主はそれを受け取るを、俺に向けて親指を立て、歯を光らせた。


「毎度! んじゃ、兄ちゃん。これ読んで彼女の前で格好つけてぇな!」


 激励とスマイルは無料サービスとばかりに、店主は颯爽と去っていく。

俺もあんな感じに、余裕のある大人になりてぇなぁ……。


「次からは、ある程度持っとかないとね。また酒屋に戻るの面倒だし」


「そうだな……すまん、助かったわ。……いやな、いつもの癖で大金を持っていなかったんだ」


「あぁーー、大金持ってると、市場を見聞した時に出てくるお爺さんにぼったくられるからね」


「何時いかなる状況で見聞する事になるか分からんとさ、大金を持つのが憚られるんだよな。くそ、あの乞食爺め。裏社会の帝王め」


「ふふっ……裏社会の帝王って。

――ところで秋渓さ、これ、どうよ?」


 試着を終えた怜華がカーテンを捲ると同時に、腰に両手を当ててドヤ顔を作る。

カルガモが描かれた黄色のパーカーに、水色のホットパンツ、相も変わらぬ美脚だった。


「goodデザイン賞! 怜華らしい快活さが十二分に押し出された見事な組み合わせだ」


「まだまだ驚くには早い! なんとコチラを……チラッ!」


 得意げになった怜華が胸ポケットの裏地を表に捲ると、そこには何と、ゲシュタルト崩壊して白眼を剥いている亀の刺繍があるではないか。なんというマニアック侍。これは切り捨て御免! からの代官山登山は普通に固いな。


「おお! 可愛らしさの裏に同居するお茶目な亀! 見事! コヨエモンもそう思うだろ!」


「ははっ! 苦労した一品なれば、感動も一入にございます!」


 コヨエモンの同意を得た俺は、彼のポケットからカメラを取り出し、撮影会を開始。

この衣装なら撮られても構わないようで、怜華は何時通りの乗りの軽さでピースした。


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