小沛市場 コヨエモンショッピングゥーー
楼玄法師を仲間に加えた俺と怜華は、その足で次は市場へ向かう。
楼玄法師も新たな本を買いたいとの事で、三人仲良く行く事にした。
因みに法師のオススメ本は「水滸伝」だそうで、推し武将は「聖手書生 蕭譲」だそう。
マニアックな人物のファンだなとは思ったが、本職の書道にとどまらず武芸・兵法・教養・度胸に優れる蕭譲の事を、時の暴君皇帝に意見できる豪胆さを持つ法師が好きになるのは分かる気がする。
まぁ、最終的には蕭譲も権力者に従わざるを得なくなるんだが、それは言わないお約束。
(でも法師、何で水滸伝なん? あれ、三国志よりもずっと後の話だぞ)
まぁ……これも言わないお約束だろう。
俺は楼玄法師に対する指摘を心の内に留めておいた。
ついでに言うと、水滸伝に於ける俺の推し武将は「神行太保 戴宗」だ。
超神速で移動するスーパー体育マンであり、暴れん坊な弟分を制御できる貴重な兄貴キャラとして有名。特に某ロボットアニメでは「ブゥルワァァーー!!」で馴染みの声優が演じており、九大天王という最高戦力の一席を担っている。
怜華に至っては女頭目と名高い「一丈青 扈三娘」が好きだと言う。
この女武将に至っては、前述の某ロボットアニメで戴宗の好敵手の妻として存在する。
話を戻して、俺達三人は雑談をしている内に市場へ着いた。
「さぁて、早速強化アイテムを購入するぞ! へい、親父! 今日はどんな…………アイテムが……あるんだ…………いぃーー?」
そして俺達は、唖然と立ち尽くした。楼玄法師に関しては器用に黒目の部分を動かして、文字通り目を白黒させていた。言っちゃ悪いがちょっとキモい。
というのも、市場は確かに存在したのだが、見知った人物が大部分を不法占拠していた。
「ちょっ、顧雍殿……何やってるの!?」
「おっ! これはこれは怜華殿に殿路殿! それと楼玄殿も、お久しぶりですな!」
服職人モードの顧雍が、とてもフレンドリーな仕草で反応する。
そう、内にあっては発明王、外にあっては服職人なコヨエモン様だった!!
「えっと顧雍殿……ここで一体なにをして……?」
「ふふふ、お嬢さん! 見て分かりませんかな? 私はご覧の通り、通常営業をしているだけですよ」
「市場の八割近くを不法占拠して通常営業とは言わな――」
「怜華、これは通常営業だ! 戦が起これば農業値と商業値が下がり、その上で守備側正規軍が敗北して土地が空白地となれば、そこに居座る俺達こそが一時的な領主だ! そして市場を取り締まる役人も居なくなった所に現れた顧雍が、正規勢力に代わって市場を取り締まる! 言うならばこれは、立派な治世なんだ!!」
攻め落とした都市の下がった商業値につけこんで、己の市場を拡大させている訳ではなく、敢えて大部分を占める事で違法な商人達の進出を抑えている…………というアレだ、きっと。
「立派な侵略者が自己を正当化した上で、利潤追及に都合の良い言い訳をしているようにしか聞こえないんだけど?」
怜華の指摘に対して、俺と顧雍は息を合わせる。
「それはそれ、これはこれ!」
怜華はツッコム気力も失せたのか、静かに溜め息を吐いた後に沈黙した。
軍師殿の諫言がなくなった、もとい強引ながらも俺の持論に封殺された為、俺と顧雍は次の主張を唱える。
「さぁ怜華! あの白色フリフリドレスを早く着るんだ! 今日はショッピングだからな! 存分に試着して気に入ったのを買ってやるぞ!!」
「さぁ怜華殿! このシルクローブは如何でしょう! 今日は西方風の衣装を沢山扱っておりますので、気分を一新するのにピッタリですぞ!」
「……ドレスはなぁー、綺麗だけど動きづらそうだしなぁー。でも此方のローブは無駄のない生地使いで着心地が良さそう! 流石は顧雍殿! 私の事を良く分かってる!」
「ははっ! 職人冥利に尽きる一言! 実に有り難く!!」
顧雍が提示した衣装に、怜華はイイネをする。おのれコヨエモン! なんたる強敵!! どうやら放浪軍頭領には美的センスも必要みたいだ。
(今度、魏延あたりにでも教えてもらおっかな……)
直接顧雍に師事する事もありだが、それでは彼と同じセンスになってしまう。
やはり美学というものは、違うセンス同士を競わせる事で磨かれるもの。魏延に師事した俺が怜華の衣装を題目に競い合えば、俺のみにあらず顧雍まで良い経験となる筈だ。
(とはいっても……俺では顧雍の相手になりそうもないか……)
「秋渓どうかしたぁーー?」
「いやいや、何でもないさぁーー。それより気に入ったんなら買ってやるぞ」
放浪軍頭領マネーをナメるんじゃない。例え結構な高額だろうと、賊から奪った金と正規勢力から収奪した金で大概の物は買えるぞ!! ……って、言っときながら酷ぇ資金源だなこりゃ。
「あっ、お二人ならお代は結構です」
「えっ! ホント!? いやぁー悪いなぁー、今日は御馳走ねぇー!」
おのれコヨエモーーン!! なんか普通に太っ腹過ぎて格好良いわお前! 代われ!!
そして、なんかもうこの時点で負けてるじゃねぇか俺。
「…………ふっ……ならば怜華よ……お前は今しばらくファッションを楽しんでいてくれ。……俺はちょっと、楼玄法師と一緒にアイテムを選んできます……」
「あっ、秋渓! ちょっと待って!」
怜華ん家の愛犬ションボリーヌみたく、ショボーン( ;´・ω・`)とした表情を浮かべた俺を、飼い主にして珍獣ハンターの怜華が呼び止めた。
そして彼女は、振り返った俺に向けて――
「ドーヨ! 秋渓が初めて真面目に選んでくれた衣装!! どう、似合う!?」
俺が選んだウェディングドレス風の純白衣装を前面に押し出し、にこやかに微笑んだ。
俺の語彙力が無いばかり怜華には申し訳ないが、その様が……何より誰よりも輝いて見えた。
輝いていて、とても綺麗で、見ているだけで幸せになれる満開の花だった。
「おっ……おぅ……!! 凄く、似合ってるぞ!! まるで、その……天使みたいだ!!」
俺は呆然としながらも、完全に動転していた。
比喩だっけ、直喩だっけ? それとも暗喩? とにかく俺は、それを用いた全力の褒め言葉を述べた。
すると問い掛けた怜華本人が、一気に紅潮する。
「っ……!? ……ふ、ふふ……ふっふぅーー! ならば…………良し……!!」
半ば冗談半分で問い掛け、何時もみたいなフザケを求めていたのかもしれない。
怜華も怜華で、俺の返答が予想外だったように激しく動揺していた。
今が、シャッターチャンスだ!!
(コヨエモン、カメラを寄越してくれ!)
(ははぁっ! 此方に!!)
俺とコヨエモンはアイコンタクトで意志疎通し、コヨエモンがポケットから特製デジカメを取り出し、シュバッ! と投げられたそれを俺がすかさずキャッチ。
赤面中の怜華が視線を逸らしている隙を突いて、この生ける芸術を写真に収めた。
「……ん、ちょ!? なに撮ってんだおいィィーー!?」
「コヨエモン! パーース!」
「ほい来なせぇーー!!」
一瞬の出来事に気付けた怜華は流石だが……甘い!! 俺の身体能力についてこれると思うたか!!
俺は顧雍に向けてデジカメを投げ返し、顧雍は大きく開けた四次元ポケットで受け入れる。
策が成功するや否や、直ちに四次元空間は閉鎖され、通常のポケットに戻った。
「あぁーーもぅ! また訳の分からないポケット作りやがって!?」
デジカメを追ってオッサンの服をまさぐる少女の図だけが、そこには残る。感動的だな。
「あぁ姉さん……今日も世界は平和で――ぐぅおっ!?」
「姉なんていないくせに、なにを美しく締めようとしてんのよアンタは、あぁ!? 今晩メシ抜きにすっぞあぁ!?」
「すんません、まじですんません。死活問題なんでそれだけは許してつかあさい」
武力100の筋肉少年が武力52の少女に絞められている図だけが、最終的には残ったという。




