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無視された爺ちゃんのファイティングソウル


 秋渓のターンが終わった頃、小沛守備軍の総大将 チンケイは焦っていた。

殿路軍の全部隊が無視を決め込んだ事に対する憤りと、息子であるチントウの仇(別に死んでいない)と、援軍に現れたトウケン本軍が包囲殲滅の憂き目に遭っている事が、智将と名高い彼の冷静を失わせたのだ。


「おぉ……このまま負けっぱなしではいられぬ! 何としても殿と合流せねば!」


 殿路軍の視界から消えたチンケイは、それを活かして北上を始めた。

トウケン本軍の撃破に回った殿路軍を背後から攻撃する為、自分の存在を主張する為。




『夢の秋渓劇場 ~お爺ちゃん、雪をも溶かす一目惚れ~』


「いかんわい! いかんわい! 遅刻じゃ遅刻! 今日の当番は儂なのに、このままじゃ遅刻じゃわい~! こりゃいかんわい~!」


 セーラー服に身を包んだピッチピチのGK(爺・キモイ)ことチンケイ。

日朝である事を忘れて寝坊もとい永眠しかけた彼女(?)は、鞄を咥えて食パンを両手に持つや、全速力で街中を駆け抜ける。

ヒヤリハットを起こさせる程に冷たい空気を加齢臭で弾き飛ばし、前日の夜に降り積もった雪をジャム代わりに食パンへ塗り込み、水銀ラメでデコレーションした鞄の持ち手をモグモグと食して腹を壊す。


 それでも彼女は駆けた。愛する程でもない寧ろ知り合ってすらいない友人のセリヌンティウスが待っているようで待っていない木造吹きさらしの壁無し屋根無し床無しの校舎を目指して、ひたすらに駆けた。っていうか何で走っているのかも忘れた。歳だからね。


 兎に角、彼女は走った。太陽の沈む速度の10倍で走るメロスに劣るものの、太陽の沈む速度の8.34倍という微妙な速さで走った。


 然し、その微妙な速度が運命を招いたのだ。


「いぎゃぃっ!?(気味の悪い高音)」


 高速で駆けるチンケイは曲がり角から現れた巨漢に激突。盛大に尻餅をつき、別段見たくもないスカートの中に隠れた純白の股引を御開帳。ありがとうござ――いや死ね。


「イタタタタ……いったい誰じゃ……はっ!」ドッキーン!!


 チンケイの目前に現れた山。東は太極仙人も裸足で逃げ出す程に逞しい肉体、西は貴族達も惚れ惚れする程に整ったヴァン・ダイク髭、天は全てを射抜くように鋭い眼光、地にあっては不動七重滝がごとき堂々さ。

もう、見るからに素敵な巨漢だ。


 チンケイの一目惚れは、正に運命の出会い、正に早すぎる春の到来であった。

そう、それは正しく…………♪目と目が合う、瞬間好き――


「なわけあるか爺ィーー!! 夢見んじゃねぇーー!!」


 巨漢の口からボンッ! と巨大な火の玉が吐き出された!


「ぎょぅえぇーーー!? ありがとうございまーーす!!」


 ピッチピチGKことチンケイは、炭となって消えた。


 然し、彼の武勇伝は大陸の歴史に於いて、一際輝く珍勇として知られる様になるのだった。

秋渓劇場 完!!




「…………という事がありまして、私が出会い頭に撃破したのです」


「うおぉぉぉーー!! 流石は丁奉だぜ!! すっごく分かったぜ!!」


 要はこういう事だ。

トウケン本軍に標的を変えた影響で、俺達の視野から消えたチンケイ隊だったが、それはチンケイ隊も俺達を見失った事を意味する。

その上でチンケイ隊は北へと急行し、合流を阻む為に布陣していた丁奉隊と遭遇。

彼の部隊から出会い頭の「不意討ち」を喰らい、残り兵数が数百しかないチンケイ隊は1345ダメージを受けて即壊滅。結果、小沛守備隊が全滅した事で俺達の判定勝ちとなり、トウケン本軍は総退却を行ったのだ。


 因みに「不意討ち」とは言葉通りの意味で、視界不良な領域に深く入って敵部隊と遭遇した際に発生する一方的な攻撃をいう。これは攻撃した側が反撃ダメージを受けないのが特徴だ。

回避方法としては、知力値がかなり高かったり、スキルの「広域偵察」を習得していたり、そのスキルによって選択できる「索敵」戦術の効果などがある。


 よく見かける状況の一例を挙げよう。

複数部隊がガチガチに固めた砦の前に、騎兵の侵攻側総大将が単隊突撃→不意討ちを喰らって袋叩きに遭い、一方的に殴られた後に強制ターン終了→守備側のターンとなり、全部隊が侵攻側総大将に集中攻撃を浴びせる→交戦したそのターン中に総大将部隊が壊滅して侵攻軍が大混乱に陥る…………といった間抜けな状況だ。


 だからこそ、今回みたいなケースは稀だった。まさか侵攻側が守備側を不意討ちするとは思っても見なかった。流石は丁奉だぜ!


「さぁて……では論功行賞に移ろう! ジャカジャカジャカジャン!! 第一位は丁奉!! 戦功3315!!」


「おっおぉ! 棚から牡丹餅ですが、純粋に有り難く!!」


「やりましたな丁奉殿! これ、つきたてのお餅ですぞ!!」


「おぉ諸葛誕殿! 有り難く頂きます! うむ、美味!!」


「続いて第二位! ジャンジャカジャンジャンジャーーン!! 戦功2300の太史慈!! おめでとう!!」


「おぅ! 共に戦ってくれた兵達に深く感謝致す!!」


「第三位は甘寧の兄貴! 戦功1740!! 兄貴お手柄!!」


「暴れ足りねぇぜ、大将さんよぉ!!」


「そして俺ッ! 今回も素晴らしくランキング外でございます!! 本当に本当にありがとうございます!! 誰か胴上げしてくれぇーー!!」


 ななな何と、またもやランキング外でございました。

武力値100のチートが聞いて呆れる程、活躍できてないでありんす。

今の俺にできる事は、頭の皿が干からびて死にそうなカッパに悔し涙を浴びせて復活させるしかできない。

そして助けられたカッパは親分カッパらしく、一族引き連れて俺を胴上げしてくれたぜ!


「……えぇーと、秋渓。ちょっといい? UMAとの感動的な触れ合いもいいけど、捕縛した彼等の処遇を決めてあげて」


「おっ! 俺の出番か! 俺が役立つ時か!」


「うんとってもやくにたつときだよぉーー。あきたにじゃないとこまっちゃうよぉーー」


 捕虜となった敵武将をどうするか、それは放浪軍頭領の仕事に当たる。

処遇の選択肢は3つあり、「登用」「解放」「楽屋裏(正式には処断)」だ。


 放浪軍プレイでは悪名値など殆ど関係しない為、捕虜を楽屋裏に送っても良いのだが、基本的には登用を選び、従わなければ解放というスタンスを決めている。


「おーぉーよござんず! よござんず!! では早速処遇を言い渡す! 全員登用! きっと全員とも嫌って言うだろうけどねぇーー!!」


 怜華のヨイショも影響して俺は上機嫌になり、大胆にも全員に登用を持ち掛けた。

相性値が離れているから高確率で断られる可能性が高く、半ばダメ元ではあったが。


「承知致しました。それでは儂等親子は、殿路殿の世話になり申す」


「父子共に、どうか宜しくお願い致します」


「捕まれば切られて文句の言えぬ所……了解した。殿路殿を新たな主としよう」


「おっしゃ全員仲間に…………うっそ、これマジで?(マジです)」


 ななななな何と!? 陳珪、陳登、臧覇が仲間加入を承諾。こんな幸運あっていいのか、俺は少しだけ怖くなった。


 何はともあれ、放浪軍は攻め落とした小沛に拠点を移す。

物資は金9419、兵糧87733、兵士36982となった。


陳珪(字:漢瑜(カンユ))

徐州の名士。陳登の父。一般的な見解では、徐州を治める陶謙の配下という位置付けにある。

演義に於ける彼は、徐州が曹操の侵攻に曝された際、援軍に現れた劉備に心服して、短期間なれど力を貸すという存在。

一方の正史では、良くも悪くも漢王朝に仕える臣下として活動し、戦乱の火種になりうる呂布や袁術を、老獪な知略で翻弄した人物として記載されている。

尚、冴え渡る知略戦に関しては、演義・正史ともに共通している。


ゲーム内では、184年に下邳(カヒ)(小沛の東隣)で未発見武将として登場。

189年~194年までは陶謙配下。翌195年には陶謙が没し、2年間に亘って劉備に仕えた後、197年だけ呂布に仕えます。その後は曹操配下となり、下邳の太守となっている陳登を補佐する形で、205年の登場を最後に没します。



話は少しだけ逸れますが、徐庶や諸葛亮が仲間になるまでの劉備軍は、知力値80の関羽が軍師を務める事が多々あります。その間、15年に及びますが、陳珪はその15年中の2年間に亘って劉備に仕えています。知力値82でありながら、あくまでも一般武将として。

なにがを言いたいかと言えば、陳珪は劉備軍にとって初の軍師型武将であり、2年間だけの仲間としては惜しい人物だということです。

田豫(デンヨ)といい、陳羣(チングン)といい、劉備は将来有望な人材を活用もしくは保持する事が苦手ですね。


田豫……徐州以前の劉備仲間にして、計略と用兵と異民族統治に長ける超万能型武将。劉備→公孫瓚(コウソンサン)(北方の白馬将軍もといイナゴ)→曹操という順に仕える。

陳羣……徐州以前の劉備に登用されるが、大事な局面で献策を聞き入られず、劉備が呂布に敗れた後は曹操に仕える。後に魏国を代表する大物政治家となり、強国の基盤を整える。蜀で言うところ、正史の諸葛亮に匹敵する存在。

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