結構なお点前で
「……で、まぁチンキュウ殿寝ちゃったけど……どうする? 起こす?」
事前に他事を済まし、チンキュウとの面会を最後に個人ターンを怜華に回したまでは良かったが、当のチンキュウが地面に突っ伏した状態でいつの間にか寝落ちしていた。
「そうだな…………いっそのこと、酒屋まで拉致るか?」
「拉致ってあんたね……これから仲間に誘うべき人にとる対応じゃないでしょ」
「勘違いするな怜華よ。テイクアウトで介抱だ!」
「介抱ならここですればいいでしょうが。……もしもしチンキュウさーん」
暫くの間、怜華はチンキュウを揺すって意識を戻させようとする。ならば何もできなくなった俺はラムを抱き上げて高い高いをしよう。
「ダメだ……混濁した挙げ句に完全な熟睡状態に入ってる。もしもーし、チンキュウさーん! ちょっとお話いいですかぁー? おーい、起きてよー!」
職質っぽく掛け声を余所に、俺は高速回転してラムと共に無数の残像を生み出そう。昔の人だって、多きことは美しきかな、とか何とか言っていたぐらいだからな。
「ぅ……ぅぅん、おや……どうやら寝落ちして――ぶふぅっ!?」
「えっ、何!? 突然どうし…………んだから何やってんだ秋渓てめぇーー!!」
「グワバッファ三世ィーー!?」
7体まで増えた残像を活かして、俺はカバディに勤しんでいたのだが、自分を仲間外れにされたことを恨んだ怜華が飛び蹴りを放ちながら乱入。
見事に本体である俺を軽やかに吹き飛ばした事で、残像の6体も同じように悲鳴を上げて吹き飛ばされ……えっ? 普通は消えるんじゃないかって? 否、吹き飛ばされながらも残像を生み出し続ければ、消えない。
「ぐはっ!? 武力50のナイス脚撃……! だが流石俺……ラムは守り通した――ぜぇげェっ!?」
「メェ~~~」
「ふんぬぅっ!」
机の上に突っ伏す事となった俺の上に着地する事となったラムの上に股がる怜華。
まるで虎の威を借る羊の威を借る兎の様に感動的な光景じゃないか。
「おぉ、そこにあるは新進気鋭の殿路放浪軍の頭領と軍師殿か。先の濮陽攻略戦、見事な采配でしたぞ。チンキュウ感服仕る」
「チンキュウ殿、お初にお目に掛かります。殿路放浪軍の軍師を務めています姫崎怜華と申します。少々お待ちください。直ぐに静かにさせますので」
(……怜華もだんだんと荒事に慣れてきたなぁ……)
ラムを重しとして置いていく怜華は何気無い顔で地面に降り立ち、チンキュウに歩み寄って改めて自己紹介を行った。何とも逞しい限りだ。
「早速ですがチンキュウ殿。私達の放浪軍に加わっていただけないでしょうか? 私達は全ての勢力に戦いを挑み、打ち勝たなければなりません。貴方の知略が必要なんです」
怜華は早速、チンキュウに対する「推挙」を行った。
初めの内は平均的な魅力値設定をコンプレックスに感じ、半ば嫌々感のあった彼女であるが、今はもう慣れた様に毅然としていた。ならばこそ、俺はラムの毛繕いをしよう。
「チンキュウ殿の御主君に当たるリョフ殿はテイゲン殿(養父1号)の許で鳴かず飛ばすとの事。リョフ殿あってのチンキュウ殿、リョフ殿なくてはチンキュウ殿に非ず。……チンキュウ殿が嘆いている事は、自分の鳴かず飛ばすにも起因していると、私は見ました」
チンキュウの身になり、彼の想いを代弁する怜華。
いいぞ怜華その調子だ。チンキュウの心を大いに揺さぶるんだ! 俺もラムと一緒になってお茶を煎じ、一句詠む準備を整えて応援しているぞ。
「今、チンキュウ殿がリョフ殿の許へ馳せ参じても、貴方もリョフ殿も始まりません。ならここは一つ、いっそのこと吹っ切れて別の戦いに身を投じてみませんか? 貴方の知略があれば、あのソウソウを倒す事も夢ではありません!」
「ソウソウ……乱世の奸雄……! ……そうだ……リョフ殿が思う存分に戦えぬ今、このチンまでもが項垂れていてはソウソウを喜ばすのみ……! 確かに、こんな所で酒浸っている暇はない!」
怜華の力説を受け、チンキュウの闘志に火が灯った。
どんな作品でもソウソウに敗北する役回りとなっている必敗の軍師 チンキュウが、このままで終われるかと静かに義憤を滾らせたのだ。
「私達は近い内にソウソウを倒します。その際には……いえ、それまでもそれ以降も、貴方の知略を貸してください!」
頭を下げる怜華に倣い、俺も黙ってお願いする。
何もできないから吹っ切れて茶人になったものの、やはり俺は頭領だ。何もできないからこそ、黙して語るべきなのだ。
「怜華殿……殿路殿。……承知しましたぞ。この陳宮、貴女方を信じて知恵を貸しまする!」
「陳宮殿! ありがとうございます!! 秋渓! 陳宮殿が仲間に――だから何やってんのよ!!」
千利休のコスプレをする俺と、用意した即席茶室セットで寛ぐラムを見て、怜華は俺にだけ喰って掛かろうとする。
「待てぃ怜華! …………御二人とも、よぅ御座いました。ささ、どうぞ。お茶が入りました」
怒れる怜華を宥めつつ、煎じたばかりの抹茶を提供する。
さぁ怜華よ、結構なお点前で、とでも何とでも言うが良いぞ。実際の茶人はそんなに言わないらしいが。
「あんたねぇ…………まぁ、ありがたく頂くわ。陳宮殿もどうぞ。
――うん、普通に美味しい。料理は出来ないのにお茶は点てられるなんて、どういう原理?」
怜華は茶碗を右手で掴み上げ、左手を腰に当てて一気飲み。
何とも勇ましく且つ豪快で、何とも風呂上がりのオッサン臭い且つ風情のない仕草だった。
陳宮に至っても日本の茶文化には疎い様で(と言っても俺も疎いが)、差し出された茶碗に満たされた抹茶をゴックゴックと牛乳の要領で飲み干し――
「ウィーヒック! リョフ殿ォ……! この陳めが、必ずや仇を……ヒック!」
再び泥酔した。これには俺も怜華もビックリだ。まさか抹茶にアルコール成分が――
「あるわけないでしょ!! 抹茶に何を混ぜたらあんな風に酔えるのよ! やっぱりあんたは食べ物を扱うの禁…………ふにゃぁ?」
言おうとして、怜華まで酔いが回ってしまった。
何とも可愛らしい猫言葉を発しながら目をトロンとさせ、ふらふら~となり――
「ほぇほぇ……あきひゃにぃ……? なんひゃねぇ……すっごく……ねむた…………くかぁっ!」
彼女は陳宮と共に酔い潰れ、即席茶室セットで仮眠をとる羽目になってしまう。
「…………メェーーー!」
「…………やだラムちゃん。そんな目でアタイを見ないで。アタイは普通に煎じただけよぉ! お抹茶1割を9割のどぶろくで割っただけよぉ! 至って普通な抹茶のお酒割よぉーー!!」
武力か知力が80を超える武将が推挙に応じた際、登用した側は「宴会を行う」「武芸を試す」「知識を試す」の3つを選択できる。
俺は今回も例に漏れず「宴会を行う」を……選んだだけなんだ。
まぁ何はともあれ、リョフの軍師を務めていた陳宮が仲間になってくれた。
俺は彼と怜華とラムと即席茶室セットを担ぎ上げ、みんなの許へ戻りました。
戻って、朱桓や魏延にこっぴどく怒られましたとさ。
陳宮(字:公台)
呂布の軍師。演義では董卓に支配された漢王朝の役人として登場。董卓暗殺に失敗して逃亡中の曹操を捕縛するものの、彼の志に感服して釈放し、行動を共にする。だが、その最中に曹操の異常性を垣間見た彼は、曹操を早々に見限り、以降は反曹操の軍師として活躍する。
正史では曹操から留守を託される程に信頼されていたが、突如として理由も定かでなく離反。呂布を主に据え、以降は概ね演義同様の動きを見せる。
ゲーム内では189年の陳留で未発見武将として登場。190年以降、4年に亘って曹操に仕えた後、194年から198年までは呂布の軍師となっています。
武力64 知力89 政治85 魅力72 能力値ランキング34位。
スキル…築城技術、巡察の心得、反計、虚報、弓兵指揮
戦法…火矢Lv4 矢嵐Lv1 火殺Lv3 撹乱Lv4 奇襲Lv3 攻城Lv2
呂布軍プレイはあまり経験がない為、彼に関する個人的エピソードが不足しています。
ただ、横山三国志で彼が曹操を見限った出来事の話と、某打ち切り漫画の生米使いの過去があまりにも酷似した惨劇である為に、私の中の陳宮は……「オレの生米で穴だらけにしてやるよ」です。
気になった方は『オレの生米』で検索してください。
因みに陳宮と呂布のコンビで一番好きな作品は蒼天です。




