その男、陳宮と申す
突然だがみんなは、NPCを好きになる事はあるだろうか。
RPGに於ける代表的なNPCと言えば、魔王を云々してほしいと要求しておきながら玉座にふんぞり返るだけで何もしない王様や、数件の家しか見当たらないのに無駄に多く配置された何処に住んでいるのかも分からない村人や、圧政に苦しんでいると言っておきながら綺麗な服を着て笑っている顔グラを持つ町娘などだろう。
プレイヤーが大量の敵を撃破する爽快アクションゲームに於いては、NPCは専ら主人公の補佐に回る事が多く、時として邪魔にもなる。
一例を挙げるならば、2万の兵を率いるNPCが指示を受けるや「お任せを!」と勇んで出陣するものの、兵力0の小娘と交戦した途端に「我が隊苦戦! 援軍を!」と言って無視すれば2万対0で負けてノコノコと帰ってくる。ならばと自称最強男と努力家青年に2万ずつの兵を与えて再度出陣させれば、今度は4万対0で負けてノコノコノコノコと帰ってくる。
更にもう一例挙げるならば、策を成功させていざ攻め刻というタイミングで「守りこそ最大の攻撃なり! 我が戦法を喰らえ!!」と言って城門を徹底閉鎖して敵に態勢を立て直す時間を与えて……おぉ、お前味方だよな……と言いたくなる様な最悪の独断采配を見せるNPC味方軍師もいる。
「リョフ殿ォォーーー!!」
そう、君の事なんだよチンキュウ。因みにリョフは2万の兵を率いて壁に向かって攻撃して必殺技のドス黒ビームまで使いきった挙げ句、兵力0の小娘隊の兵士(数字上は0なのに画面上には沢山居るなぁーすごーい、とは怜華談)から横槍を喰らって「ぐあっ!? この俺が苦戦だと!? 馬鹿な!?」と言っていた。おう、馬鹿はお前だ。
「リョフ殿ォォーーー!!」
そして、俺達の目の前で泣き上戸を披露しているチンキュウという男は、近年まで愛されるNPCとして二流の知名度を誇っていた。最近は割りと有名になった様子。
彼は三国志に於いて最強の武力を持つリョフの軍師にして、リョフ軍にあっては貴重な知略型武将である。
三国志演義ではトウタクの非道が許せずソウソウに味方し、ソウソウの残酷な人間性を知るやリョフに鞍替えし、最終的にはリョフに殉じた。
「リョフ殿ォォーーー!!」
惜しむらくは、ソウソウとの戦でリョフがチンキュウの献策を聞き入れなかった事だろう。
ソウソウの弱点を知り、戦略眼に優れ、視野も広いチンキュウは何度となく献策したものの、リョフは何度も却下してしまった。
後世では、彼の策が採用されていたなら歴史は変わっていたとも噂されるほどなのに……本当にリョフは惜しい事をした。だが敢えて言うならば、それでこそリョフとチンキュウの凸凹主従であろう。
「リョフ殿ォォーーー!!」
そんなリョフを最期まで支えてきたチンキュウが、何故この濮陽に在野武将として居るのかだが、残念ながら俺も知らないのだ。
恐らくはソウソウやリョフに仕える以前の設定で、出身地に配置されたのだろう。
何せリョフ本人が養父一号のもとで、何時も通りの飼い殺しにあっている現状。
それ即ち、このシナリオにリョフ軍は存在せず、同時にリョフの軍師であるチンキュウに居場所はないのだ。
「リョフ殿ォォーーー!!」
というよりリョフリョフリョフリョフ煩かった。
他に客となる在野武将が居ないから良いものの、完全に面倒な状態に入っている。
「む、むむむむ!? この天武に満ちし気配! もしやリョフ殿では!?」
どれだけ主従愛に飢えてんだよと言うよりも早く、チンキュウは今しがた現れた俺を見た。
「リョフ殿ォォーー!!」
「チンキュウゥゥーー!!」
その絡み酒、受けて立つ!! 俺は席を立って此方に向かってくるチンキュウに大手を広げ、愛に飢えている彼を温かく迎えようとして――
「リョフ殿ォォ……」
「……ん? ひぃいぃやぁぁぁーーー!?」
完全に空振り。チンキュウは相当酔っているらしく、怜華の足下に居たゴキブリさん太郎を主と間違えて拝み倒れ、ゴキブリさん太郎の「よっ! 怜華ちゃん! 元気? 下からパンツ拝見させてもらってますぜ!」とばかりの笑顔に満ちた挨拶を受けた怜華がその存在に気付き、すかさず俺の首に飛び掛かった。
「秋渓秋渓秋渓秋渓秋渓秋渓秋渓ーーー!!! ゴ、ゴキ!? 無理! 私ゴキ無理! もう嫌帰るーー!!」
「おっほっほっほ! どうしたのじゃ怜華嬢! 野山に繰り出してハブ対マングースの勝負に飛び入り参加して見事に勝利したお前でもゴキブリはダメなのかぁー! そぅかそぅか良し良し可愛い奴だなぁー! …………どうでもいいけど俺の首を180度回転させるの止めて?」
如何にも女の子らしい反応は、見て感じてとても楽しいのだが、怜華よ……俺の首に飛び掛かった時に見せたあの技、お前アレでハブ仕留めてたからな? ぐわし! とか言いながら首元締めてたからな? 今にあっては喰らったのが俺だから良かったものの、普通は咄嗟に出る必殺技じゃないからな? マングースもドン引きしてたからな?
「リョフどのぉー、えらくちっさくなりましたなぁー。されどこのチンキュウ、そんなリョフどのもおもしろくてよいとおもいますぞー」
チンキュウから絡まれるゴキブリさん太郎は自慢の触角を揺り動かし「男は姿じゃねぇぜ! コ・コ・ロだぜ!」とばかりに目を輝かせ――
「飲食店のゴキブリは敵ィーー!! 台所のゴキブリと同じく敵ィーー!!」
「あぁん! リョフどのぉーー!?」
自棄になった怜華からホウキ攻撃を喰らい、遠い遠い蝦夷に向けて飛ばされ、同地では珍しさから大変可愛いがられるのであった。
(アバヨ……!)
ゴキブリさん太郎が最後に見せた輝く歯と立てられた触角、俺にはそれが、とても格好良く映ったんだ。男は姿じゃねぇぜ、コ・ コ・ロだぜ。
「あぁーもう! 秋渓早くチンキュウ殿を勧誘して! もとはと言えばあんたの記憶力と知識不足のせいでこんなに遅い登用になっちゃったんでしょ! 彼に寂しい想いと私に嫌な思いさせた償いとして男らしくガツンと言っちゃって!!」
そう言われては反論できなかった。
というのも、俺達が今になってチンキュウを登用しに来たのには訳がある。
俺は今日まで、チンキュウの相性値が魏系であると勘違いしていたのだ。在野武将を登用する際には相性値が近い事が重要であり、それが適わなければ登用はまず成功しない。
だからこそ魏系のチンキュウは呉系の俺達に「推挙」されても無視を決め込むだろうし、名声値の低さが災いして最悪の場合は会ってもくれないと思っていた。
それならば濮陽を攻め落として放浪軍ごと同地へ移動し、そこで軍議ターンを発生させて「登用」を行った方が仲間になってくれる可能性がまだ有ると考えた結果、面会すら後回しにしていた(個人ターン中に下手に面会しても心証が悪くなり、一回面会すると在野武将の仕官率が上昇する仕様の為)。
だが、実際のチンキュウの相性値は呉系寄り、詳しい言えば魏系と呉系の中間にあって呉寄りだったのだ。道理で魏系武将の劉岱(濮陽の元君主)に仕官せず、殆どの在野武将が仕官している現在も在野だった訳だ。
知らせてくれた劉岱、マジ感謝。欲を言えばもっと早くに教えて欲しかった。
「むぅぅ……そうだな。これに関しては俺の知識不足だった……。でもな怜華」
「……何よ」
呉系在野武将の所在地は完全に覚えていると謳っておきながらこの体たらく、確かに俺の非である事は間違いない。ゴキブリさん太郎の事もあって怜華が怒るのも分からなくはない。
だから名誉挽回の為にバシッ! と登用したいところではあるのだが。
「俺、頭領。初対面登用、無理」
ふんふんっ! と腕を組んでいた怜華が、頭領と同志の立場による登用方法の違いを思い出し、文字通り「あっ」と言う。
「あっ…………推挙するの、私か」
「おうイエスキリスト」
頭領には「推挙」コマンドがなく、登用を持ち掛けられるのは二度目の「会話」以降。
一方の同志は金10を消費して「推挙」する事で、初めましてからの仲間になってくださいが可能。だからこそ怜華に賊討伐の止めを刺させ、多くの金を持たせていた。
「ごめん、理解した。だから私もついてきたんだっけ」
冷静を取り戻した怜華は申し訳なさそうに頬を掻く。
「気にすんな! どっちもどっちだ!」
俺には怜華が必要であり、怜華にも俺が必要。
それを思い出してくれれば俺が気にする事はなくなり、怜華も気にする事はなくなるのだ。
ゴキブリさん太郎
別名を「ココロドン太郎」。最近になって知った「黙○ドン太郎」の存在に触発されて思わず生み出された台所の天敵NPC。えっ? ゴキブリさん太郎が主役じゃないのかって? 黙れドン!(すんません、問題になりそうだったらこの後書き消します)
能力値・・・武力85 知力43 政治11 魅力90
所持スキル・・・「混乱」「広域偵察」「騎兵指揮」
所持戦法・・・撹乱Lv5 奇襲Lv極(6の事)
一見して猪突猛進な能力値ですが、運用次第では有用な遊撃部隊となるブラックホースです。寛大な心で愛してあげてください。
欠点として、このゲームでは登録武将の名前が4文字まで入力できない事。
その為、いざ作成すると「ゴキブリ」もしくは「ゴキ太郎」になる事です。




