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反骨の美学

280年7月 陳留


「嗚呼! やはり女性が居る所は良いですねぇ! 嗚呼ァ! うつく、美し、美しい! デュクシッ!!」


 二度目の軍議が開かれたその日、諸葛誕の登用成功によって色物が放浪軍に加入した。

事の発端は長沙に訪問して同地の最新情報を手に入れた怜華軍師様の提案だ。



(長沙のカンゲンさん家にギエン殿って居るでしょ? 昨日見に行ったら彼の忠誠値が82でさ、簡単に言えばこれって、凄い不満を抱いてる訳でしょ? 今が狙い目じゃないかな?)

(では私が説得に行って参りましょう! フンフンのフンッ!!)



「嗚呼ァ!! これでわたくしは全力を引き出す事ができます! この魏文長に、長安(チョウアン)奇襲でも漢中(カンチュウ)防衛でも何でもお任せ下さい怜華軍師殿ッ!!」


 …………そして、これが来た。防具の類いを一切身に付けず、一級の貴婦人を思わせる優雅な出で立ちをした屈強な猛将・魏延。字を文長(ブンチョウ)。

髪は長く美しく、端正な顔立ちは花形役者のそれであり、感極まった声も女性そのもの。

一体全体どうしてこうなったと言いたくなる程のイメージ崩壊ぶりだった。

ごつい髭面と隆起した筋肉体で矛を振り回し、「ワシを殺せる者はおるかぁっ!」「ワシを殺せる者はおるかぁっ!」「ワシを殺せる者はおるかぁっ!」……と、特技を発動する度に声高らかに叫んで「ここにいるぞ!」と切られそうな魏延は何処に行ったんだ。


「なんか……みんなごめんね。私、判断誤ったみたい……」


「そんな事ございませんわ軍師殿。貴女の人を見る目は正しいですのよ! よく私をあの駄目君主のもとから救いだしてくださいました! このご恩は、私の体にて……!」


 艶かしい所作で右肩をさらけ出し、薔薇を模した刺青を見せながら怜華に詰め寄る魏延。

この図を表すならばそう、女性だと勘違いしてオカマバーのNo.1姉さんを助けてしまった少女が恩返しに一晩どう? ……的な何かだろう。


「いやいや結構ですって!? ちょっと秋渓、見てないで助けてよ!?」


 にじり寄られて困る怜華は当然の様に助けを求めるが、俺にもそっちの趣味はない。

だから俺は、敢えて一言だけ送ろう。「怜華よ、友達は大切に」……とな。


「親指立てるより助けろ言うとるんじゃ! 朝御飯抜きにすっぞオラ!」


「魏延、怜華が困ってるみたいだからその辺にしといてやって」


 朝飯抜きは流石に困るよ。「卵の殻焼き」しか作れない俺には死活問題だ。

因みに卵の殻焼きとは、我が殿路家に伝わる由緒正しき筋肉増強支援料理もとい、ほぼカルシウム単体料理であり、またの名を「秋渓シェフが作る只のGO・MI☆」…………感動的だな。


 一方の魏延は、立場上頭領に当たる俺の言葉を聞いてはくれる様で、怜華への撹乱攻撃を一旦中止して俺に向き直り、ある提案を投げ掛ける。


「あらあら残念……と言いたいのですが、料理であればわたくしも心得がありまして、軍師殿の代わりに皆さんの朝食を用意致しますので、軍師殿を暫くお貸し願えません?」


「……皆、どうす――ぐわぁっ!?」


「駄目に決まってるでしょ!! 朝食ごときで揺れるな、この健啖家頭領が!!」


 武力値90を誇る魏延シェフの作る料理が気になった俺に、怜華は飛び蹴りを喰らわしがてら彼の傍からの離脱を図る。一挙一動に真意を隠すとは、流石は知力値100だ。


「あんたの飯は私が作るの! だから他の人の飯に靡くんじゃないの!!」


 丁奉と諸葛誕の胸筋を緩衝材にして体勢を立て直した俺に、怜華は仁王立ちを以て申す。

美しきオカマから勢い良く逃げた事が影響してか、彼女は半ば冷静を失っている様で、結構凄い内容を口走った事に気付いていない様子。


「へぇっ!?……そ、それってつまり…………」


「なに、文句があるの?」


「いや……何でもないです。じゃあ……その……俺の、味噌汁を作ってくれ!」


 俺の弁舌、効くか!? どうだ!?


「味噌汁だけ? 朝からちゃんこ鍋食べてるあんたが、それでお腹膨れるの? それに、昨日は朝からキムチ鉄板食べてみたいって言ってなかったっけ?」


 ……効きませんでした……。怜華は今更少食を要求するなんて、何か変な物でも食べた? みたいな怪訝な表情を浮かべて剣幕さを薄めるのみだった。

どうやらこの言い回し、結構古いんだな。父さんが日常的に使うだけはあるか。


因みに、朝からちゃんこ鍋を食べるのは「ごっつぁんスタイル」という歴とした食文化だ。少なくとも我が家では。


「……まぁ、それはそうと。魏延殿は何故登用に応じてくださったのです? 正直に申せば、我々とは何の関わりもない筈」


 俺の失敗をフォローするとともに場の雰囲気を改善するべく、丁奉が魏延に質問した。

問われた魏延は怜華に向けていた視線を丁奉に改めるや、長い黒髪をかきあげる。


「ええ、まぁ。私も当初はリュウビ殿の許でお世話になるつもりでしたわ」


「では、何ゆえ我等を選んでくだされたのです?」


「この放浪軍には美しき存在がある。……諸葛誕殿が自信満々にそう仰ったのですわ」


「美しき存在。怜華殿の事ですか?」


「勿論、彼女もその一つ」


「彼女、も? という事は他にも美しき存在が……はっ! まさか!?」


 丁奉が諸葛誕に目を向け、諸葛誕も頷き、今度は二人して俺に目配せする。

成る程そういう事かと、俺は即座に理解した。やはり女性的であっても魏延も武人。力の象徴たるこれには美しさを感じるのだな。


「流石は蜀の征西大将軍。良く分かっておられる……そう、この鍛えられし肉体こそ――」


「いえ違います。わたくしにそっちの趣味はございません。女性であれば別ですが」


「…………そぅか…………」


 俺と丁奉と諸葛誕が目を輝かせて脱ぎ出せば、男の裸体は結構ですから女の子の裸体をくださいとばかりに断られる。俺だってそっちも欲しいよ……。


 俺達三人は瞬速で意気消沈。脱ぎかけた服を徐に着る。


「……わたくしが思う美しきものとは即ち、人を示す「者」はもとより、道具を示す「物」でもあり…………何より、戦そのものでございます……!」


 黒髪から覗かせる右目を輝かせ、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。

突如として一変した気配。それだけで先程までの彼女の振る舞いや言動が、表に見せる仮面であって本質はこれだと分かった。

彼は……魏延は、心の内で戦を楽しみ、戦に餓える虎狼の戦士なのだと。


「戦争に美しいも何も無いと思うのですが?」


 丁奉が怪訝な表情を浮かべて聞き返した。如何にも仕事人と思える発言だ。

対する魏延はもう一度髪をかきあげるや、先の雰囲気を作り直して持論の主張に移る。

理解されない事を分かっているのか、はたまた理解できない俺達に呆れているのか、彼の言葉には溜め息が交ざ







り、如何にも気怠そうなものだった。


「……ふぅ……夢のない方ですねぇ……。逆に聞きますが、貴方は戦に挑む際に何も思わないのですか? 俗に言う忠義や理想、恩賞に名声など」


「そういう意味であれば、私には国に対する忠誠が該当しますな」


「そうそう、それです。分かってらっしゃるではありませんか。個人の想いを集結した存在が軍であり、想いと想いのぶつかり合いこそが戦なのです。その程度が大きく激しい分だけ戦は美しくなり、心躍るというもの。そこに勝ち負けは関係なく、情熱の名の下に敗れたとすればそれすらも健気で儚き美を宿すもの。

――漢王朝再興の為に戦い抜けたリュウビ様が、最期の最期で私情に走り大敗した戦が正にそれ。本当に、素晴らしい敗戦でした。そこに居合わせなかったのが残念であらぬ程に……! 嗚呼ァ! 美しいッ!」


 独りでに感極まった魏延は自分の肩を抱いて身を捩り、自分の世界に入ってしまう。

怜華や丁奉、実際に登用を持ち掛けた諸葛誕ですらその様子には気味悪さを覚える。


 だが俺には、彼が言わんとしている想い、彼がリュウビ軍ではなく此方に付いてくれた事情を察する事ができた。


「では魏延にとって、先主の想いを継いだは良いが想いの操り人形となったショカツリョウは美しくない……だな?」


 そう言った途端に魏延は動きを止めて、再び不敵な笑みを浮かべる。

心なしかその闇がかった微笑みは、先程よりも上機嫌に映って見えた。


「ふふっ、よくご存知で……。如何にもその通り。何度も何度も山に登り、食糧難食糧難で何度も何度も撤退する。それは正に不粋極まりなく、その様な采配には従えきれませんの。

――偏に、彼があれ程までに精彩を欠いた理由。それは己が持つべき美を自ら捨てた事。リュウビ殿の漢王朝再興に従って戦に挑む心構えは素敵でしょうけど、それが己の存在理由となっては長続きしませんわよ? だって他人の想いを示す生き人形なんて、単純に面白くないんですもの」


 彼が言っている事は、ショカツリョウの後継者に当たるキョウイにも言える事だ。

先主が抱いた想いの為に東奔西走し、自らの欲を捨てたショカツリョウは想いの生き人形。そんなショカツリョウの想いを又継ぎしたキョウイも独りよがりに戦う事しかできなかった。だから蜀は魏に負けたのだ。国力や人材の差以前に、個々の情熱で負けたのだ。


「この魏文長、美しきものを求めて戦い、美しくないものを正す為に戦うのです。故に、殿路殿に御味方したまで」


「情熱に欠いたリュウビに興味はない、って訳かぃ?」


 柱を背もたれにして腕を組んでいる甘寧が言った。

先程から押し黙り、口を開いたと思ったら理解を示しているような事を言う彼は、きっと魏延の内情に共感している。何せ、彼も情熱を武器にして戦う戦人なのだから。


 魏延も魏延で、噂に名高い甘寧は流石とばかりに力強く首肯した。


魏延(タメイキトドウジニホンブンヲケシタオトコ)(字:文長)

突然ですが、私バッファローウォーズはスマホのメモ帳アプリに小説を書き、その内容をメールにコピーしてPCに送信し、そこから誤字脱字が無いかを確認したり行間を空けたり文頭にスペースを設けた後に投稿しております。

然しこの魏延さん、オカマキャラにされたのが余程嫌だったのか、彼が溜め息を付いた後の本文をPCに受信させてくれませんでした。本文中に不自然な余白があると思いますが、そこから先がどうやっても受信できず、挙げ句に次の話である太史慈勧誘やそれ以降のストック6話分まで消してくれやがりました……おかげで今回に至ってはPCに直接入力だよコンチクショー。私は打つの苦手なんですよ分かってく魏延さん


手前勝手な言い分ですが、データ削除されてちょっと落ち込んでます。もう一度話作らなきゃなんで、大戦乱記ともども投稿ペース緩めますね、ハァー(溜め息)……


ゲーム内の彼ですが………………武力90です

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