呉国丞相ともなれば、オーパーツなどお茶の子さいさい
280年6月 陳留 酒場
小鳥のさえずりが無力にも掻き消されるイビキの大合唱。
目を開けずとも、俺にはそれだけで分かった。
タイシジを交えた夜食会で大いに盛り上がった俺達が、拠点としている酒場の床で、上半身裸の状態で寝ている事に。
(あぁー、結局ドンチャン騒ぎのまま寝落ちしたのか……騒ぎ疲れて寝るなんて……俺もまだまだなんだな……)
俺の父は上半身裸の状態で酒樽だけを背負い、極寒の雪山を踏破したという。
その最中に雪男、イエティ、一本だたら等の錚々たる面々と共に酒を酌み交わし、ありゃ何だぁ!? お化けかぁっ!?(お前らがお化けだ)と皆で驚いた先に佇んでいた雪女と相思相愛の恋に落ち、その場で俺をオギャァー! オギャァー! と産んだらしい。
そして二人の燃える愛情は風に乗って麓の町に伝わり、内乱で荒廃していた同地に花を咲かせ、戦争そのものを止めさせたという。
母のユキナが極度の冷え性であるとともに、いつまでも若々しいのは雪女だから。
父の大将が常人離れしているのは、皆の大将だから。
…………と、俺の両親は自信満々に語って、今年も雪山旅行に出掛けました。
(まぁ……そんな事はどうでもいいやぁ……。何か……凄く……眠り心地が良くて…………駄目だ……二度寝……してしまう……。…………お休み、みんな……)
お餅の様にモチモチと柔らかく、母の心の様にほんわか温かい最高の枕。
それが行動力を全部使っても構わない程の異様な眠気を誘い、だらしなくも惰眠を貪りたい気持ちを抱かせているんだ。
二秒も要さず、いつの間にこんな枕買ったんだ俺? なんて自問自答するのも面倒くさくなり、俺は覚醒しかけた意識を再度シャットダウンさせようとした。
「ぅ……ぅぅ……んっ……!」
(いや! これは枕ではないぞ!? 一体なん――)
そして気付いた。顔を右に傾けて枕らしき物を頬擦りした途端に、甘く可愛らしい声が頭上より聞こえたおかげで気付けたのだ。これは感触的には枕ではない……と。
(ゴオォォーー!? 怜華さんの膝枕でしたぁーーラッキィーー!!)
目を開けて実体を見てみれば、壁を背もたれにした怜華が膝を貸して眠っていた。
巫女装束が肩に掛かっている事から察するに、最終的な面倒は顧雍が見てくれた様だ。
「ふふ、カメラでも持ってくれば良かったよ」
この可憐な寝顔を、頑なに拒む巫女服を羽織った姿を、写真に写したかった。
「…………どうぞ……亀裸です……」
だが、神様仏様顧雍様コヨエモン様はその願いを叶えてくださり、不思議なポッケからデジタルカメラを取り出してくれた。
「あぁ、有り難う顧雍。うん、これは良いデジタルカメラ…………えっ?」
「…………え…………」
青ダヌキの着ぐるみ寝巻きに身を包んでいる顧雍を、俺は至って真面目に注視した。
「……なんでカメラがあんねん。あとなんで未来から来た狸型ロボットの着ぐるみ?」
「…………職人の知恵……亀裸作った……」
「成る程、流石は顧雍だ」
顧雍曰く、スキル「職人の知恵」でカメラを作製し、未来の道具を取り出すのは青ダヌキの役目だろうと、ついでに着ぐるみ寝巻きを即行で製作したとの事。
「流石は呉国丞相、そこいらの文官とは訳が違う」……と朱桓は言っていたが、確かにその通りだった。まさか顧雍がコヨエモンだったなんて。
「ふわぁーーぁ……あ、お早う秋渓。顧よ――」
そんなやり取りをしていると怜華が起きてしまった。
突然出された未来道具に驚いた余り、シャッターチャンスを逃してしまったか。
「……えっ、えっ? なんで猫型ロボット? へっ? なんでデジカメが? ……ほっ? コヨエモン? あ……あぁそぅ……。うん分かった、お早うコヨエモン」
目は覚めてしまったが、俺以上の動揺ぶりを示す余り、まだ巫女服に気付いていない。
俺は何気なく、至って自然的な動作でカメラを構える。
怜華は別段撮られるのを嫌う質ではなく、レンズを向ければピースする程に乗りが良い。
そこを逆手に取って彼女の意識をカメラに向けさせれば、己の状態確認を遅らせられる。
「このカメラは顧雍がスキルを発動して作った優れ物! 超高性能手振れ補正に加え、自動色彩調整機能付き。更にはボタン一つで瞬時に夜景モードへ切り替わる迅速性に富んでいるんだ!」
「物作り系のスキルって……まさか「職人の知恵」の事? あの職人さん達は兵器工房に従事する職人であって、娯楽関係の発明をしている訳じゃないよ」
「構わん! 大事な事は人の心に残る思い出を形に残す事! この世界でそれが可能なら進んでするべきであり、職人がどうだとか特許取れば大儲けだとか抑々にしてこの時代にカメラってどうなのとか、そんなもんはこの際どうだって良いんだよ!」
「ふぅーん。まぁ秋渓が楽しいならそれで良いけど……何をそんな真剣に撮って……」
全力の集中撮影をしている俺と、うんうんと頷いている顧雍を不思議に思った怜華は、遂に自分の状態を見てしまう。
「はっ!? はあぁ!? 何ぞ! 何で私、巫女服着かけてるの!? ちょっ! 撮るなぁーー!?」
もう遅い。既に三十枚ぐらい連続撮影して、今さっきパスワードロックを掛けたところだ。
「ちょっ!? カメラ! カメラ渡してっ!!」
「そうはさせるかぁっ! コヨエモン、頼む!」
写真を保護できてもカメラ本体が壊されては元も子もない。
俺は条件反射で隣のコヨエモンのポケットにカメラを突っ込み、四次元に収納した。
「そんな作り物のポケットに入れても無駄――えぇっ嘘!? なんで消えたの!?」
巫女服を払った怜華が俺の手を押し退けて、コヨエモンの服の中をまさぐる図。
端から見れば何とも言えない厭らしさが醸し出ているが、俺と顧雍だけが使用できる四次元空間の存在に仰天する怜華は気にも留めない。
「ふふふ、私の仕立てスキルを甘く見ないでください。青狸のポケットともなれば、四次元空間に繋がっているのは万国共通。それぐらいは寺子屋で真っ先に教わる一般教育です。サイヨウ先生(顧雍の師匠)も仰っていました。子供に夢を持たせる事が将来の国の発展に繋がるのだと、そういう意味では青狸は非常に良い講師である……と」
親指を立ててドヤ顔を決める服職人モードの顧雍。
先程までの寡黙さとは打って変わったペラペラ政治家ぶりを見せる。
「うぅぅ……! 尤もらしい事ばっか言ってぇ……! あの写真、絶対にいつか削除してやる!」
怜華は頬を膨らませて怒りを露にした。
蔡邕(字:不明)
後漢王朝に仕えた政治家・思想家・学者。顧雍の師。
若い頃から高名かつ多才な人物として知られ、兎が集まり木が生い茂る程の親孝行かつ礼識者でもある。
腐敗した中央の政治から逃れる為に揚州へ亡命し、そこで顧雍と知り合った。
後年、朝廷を牛耳った董卓により無理やり出仕させられる。朝廷の忠臣によって董卓が暗殺された際、思わず見せた驚きの色を董卓寄りの感情だと勘違いされ、投獄された後に獄死する。
ゲーム内では184年最初のシナリオから、董卓が暗殺される前の191年まで登場。
董卓が中央に乗り出す前の188年までは呉(顧雍の登場都市)の在野武将として、192年以降は董卓一族と一緒に死没扱いです。
全武将中ワースト11位の武力16に反し、ベスト9位の政治92。スキルも「農民の思い」「商人魂」「職人の知恵」とバリバリの内政系。「商人魂」「職人の知恵」は顧雍に伝授されているものの、先述した列伝の勘違いを弁明できなかった為か、蔡邕には「弁舌」のスキルがありません。……師匠涙




